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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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意外に人気な天然ドリル(ロ)

「いきなり剣を向けて悪かった。お前達の友達は襲わない。ここではな」


「やった!」


「だが、場所が変わればその限りでない。覚えておけ」


「それで十分だ。ありがとう。恩にきる」


ギャレット様のひと睨みを受けつつ、グエンがぶっきら棒に礼を言う。そんな様子を見てホッと胸を撫で下ろしたのは、アンジェリーク様だけでなくジルやルイーズもだった。どうやら、同じ孤児として通じるものがあったのかもしれない。


「みんなここに住んでるんだね」


「うん。ボロ家だけど、雨も風も凌げるから問題ないよ」


「大人はいないのか?」


「いない。僕達子どもだけ。グエン以外の大人は誰も助けてくれないから」


「食べるものだって盗まなきゃ生活できないし」


「そっか……」


ジルとルイーズが言葉に詰まる。改めて自分の立場を認識したのかもしれない。しかし、暗い表情をしている二人とは対照的に、子ども達は楽しそうにニカッと笑った。


「でもね、ここにはみんながいるの。だから寂しくないよ」


「俺達は、血は繋がっていないけど家族だ。一人じゃない。だから幸せだよ」


彼らの言葉に迷いはない。本当にそう思っているのだろう。その顔はみんな晴れやかだった。 ギャレット様がジルの肩に手を置く。


「同情するな。それは彼らに対して失礼だ。それはお前の方がよくわかってるだろう」


「……はい」


「今は、お前のできることを精一杯するしかない。他の奴らのことはその後だ。自分に余裕のないうちから誰かを助けようとすれば自分が潰れる。わかるか?」


「わかりますが……」


「べつに手を差し伸べるな、とは言っていない。お前ができる範囲でやればいい。ただ見守りに来るだけでも、彼らにとっては十分なことだろうからな。そのためには、一人でここまで来れるくらい強くなれ。わかったか?」


「はい!」


 ジルの顔が引き締まる。相変わらずジルは素直にギャレット様の言葉を受け入れている。そんな様子を、面白くなさそうにルイーズが眺めていた。


「……私、養成学校卒業したら強制的に軍に入隊させられるんですよね? あんなに暑苦しいのは嫌だな」


「安心なさい。剣士や騎士で構成される騎士団はほとんどが志願者ですから、ああいうノリの方が多いですが。魔法師団は強制的に入団した方が多いので、あそこまで堅苦しくはありません。むしろ自由で個性的な方が多いかもしれませんね」


「個性的な方……」


「大丈夫です、アンジェリーク様のお相手が問題なくできれば、大抵の方とは上手くいきますよ」


「それを聞いて安心しました」


 ルイーズがホッと安堵する。それを見てアンジェリーク様が異議を唱えた。


「ちょっと待て。今私のことディスったでしょ?」


「ディスる?」


「悪口を言う、という意味のアンジェリーク様なりの造語らしいですよ」


「わ、悪口だなんて! そんなこと言ってませんよ」


「ルイーズはね。でも、ロゼッタは絶対わざと言った」


「事実を述べたまでです。悪口ではありません。それに、個性的と言われるのは嬉しいのでしょう?」


「平凡と言われるよりはね。でも、ロゼッタに言われるとなんか嫌味言われたみたいでムカつく」


「きっと、受け取る側の性格がひねくれているからでしょう。そんな主人に仕えている私の心労を理解してください」


「嫌だ。だって、ロゼッタはそんな私が大好きみたいだから。あえて変えないのが優しさよ」


「本当に、ああ言えばこう言いますね」


「そっちこそ」


 お互いムッと睨み合う。すると、姉妹だと勘違いしていた少女が困惑していた。


「これはケンカなの? それとも仲良しなの?」


 その問いに答えたのは、私でもなく、アンジェリーク様でもなく、何故かクスクス笑っているルイーズだった。


「これは、いつものお二人のやりとりなの。これが聞けると仲が良い証拠」


「そうなんだ。やっぱり二人は家族なんだね」


 少女が屈託なく笑う。それになんだかお互い照れてしまって。二人とも睨むのをやめてそっぽを向いてしまった。そんな私達を、ギャレット様がため息混じりに嗜める。


「おい、そろそろ帰るぞ。みんな心配しているし、あまり長く殿下のおそばを離れていたくない」


「わかってますよ。怒られる心の準備しながら帰ります」


 最後の一欠片のパンを口に放り込み、アンジェリーク様は緩慢な動きで立ち上がる。すると、子ども達から「えー?」という不満そうな声があがった。


「天然ドリル、もう帰っちゃうの?」


「メイドさん、もうちょっと遊んでいこうよ」


「ごめんね、みんな。でも私、仕事抜け出してきちゃったから。そろそろ帰らないと旦那様に叱られるの。それはそれは怖ーいお説教食らっちゃうんだから」


 アンジェリーク様が目を吊り上げて誇張する。すると、子ども達は「キャーっ」とわざとらしくグエンの後ろに隠れた。ただ、ジルが「天然ドリル……っ」と笑いを必死に堪えていた。確かあなたが最初の命名者だったと思うのですが。


 さて、と私も立ち上がる。すると、グエンに「おい」と呼び止められた。


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