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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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主人と従者(ロ)

孤児達の秘密基地という名の古い小屋は、アンジェリーク様達が襲われていた場所からそう遠くないということだった。


「持つ」


「えっ、でも……」


戸惑うアンジェリーク様の返事も聞かずに、グエンはパンの入った紙袋をアンジェリーク様から奪う。そして、少女からも紙袋を受け取ると、彼はそのまま歩き出した。その後ろ姿をボーッと見ている私達に少女がクスっと笑いかける。


「グエンは、特に子どもと女の子に優しいんだよ」


「へえ、そうなんだ。紳士だね」


「そうなの。ねえ、お兄ちゃんも持ってもらったら?」


「バカにすんな。俺だって男だ。これくらい持てる」


お兄ちゃんと呼ばれた少年は、面白くなさそうに紙袋を持ったままグエンの隣を歩く。そういう見栄を張りたいところは男の子らしい。


私も服を着て後に続く。すると、隣にアンジェリーク様が並んできた。帽子は「窮屈」という理由で脱いだため、今はトレードマークの縦ロールが元気に跳ねている。


「指輪で連絡してからここに来るまで早かったわね」


「アンジェリーク様が襲われているかもしれないという緊急事態でしたから。城壁の外を爆発させながら、その爆風を利用してここまで来ました」


平然と答えると、アンジェリーク様は「えっ」と固まった。


「……それってさ、マルセル様達の許可取ったの?」


「いいえ。緊急事態でしたから。そんな時間も惜しかったので何も言わずにやりました。そういえば、兵士や傭兵達は、敵襲だ、と騒いでましたね」


「そらそうでしょ! 突然城壁の外で何度も爆発が起きたら普通そう思うって」


「でしょうね」


「でしょうねって……わかっててやったんだ」


「はい」


悪びれる様子もなく答えると、アンジェリーク様はため息をつきつつ頭を抱えた。


「あんたねぇ、いくら緊急事態だからって、それはマズイでしょ」


「致し方ありません。私にとってはシャルクよりもアンジェリーク様の方が大事ですから。なりふりなど構っていられませんでした」


「そりゃ、あんたにとってはそうかもしれないけどさぁ……」


「もちろん、あとで叱責は受けるつもりです。ですが、これは私だけの責任ではないと思いますが?」


「どゆこと?」


「あの時、アンジェリーク様が素直に居場所を私に教えてさえいれば、私もこんな無茶はしませんでした」


「ウソつけ! たとえ正直に居場所を教えたとしても、距離が離れてて結局同じことしてたでしょうが。何でもかんでも私のせいにしないでよ」


「いいえ、これはアンジェリーク様のせいです。そもそもアンジェリーク様がお屋敷を抜け出したりしなければ、私がこんな無茶をすることもなかったのですから。大いに反省してください」


「うっ……! それを言われるとぐうの音も出ない」


アンジェリーク様は、わざとらしく胸を押さえて苦しむフリをする。本人にも自覚は大いにあるようだ。


そんな私達のやりとりを見ていた少女が眉間にシワを寄せる。


「ケンカしちゃダメだよ。姉妹ゲンカはもっとダメ」


「姉妹ゲンカって……。失礼ですが、私達は姉妹ではありません。主人と従者の関係です」


「あるじとじゅうしゃ?」


「コラコラ。今のあんたじゃそれは誰も信じてくれないって」


「だからです。外見だけ見ても理解されないのですから、自分から言葉にして伝えていかなければ」


「珍しい。何ムキになってんの?」


「ムキになどなっておりません」


「はっはーん、さては散々からかわれたな? それでムカついてるからムキになって訂正してるんだ」


「違います。事実を述べているだけです。勝手な解釈はやめてください」


「ほらー、だからケンカはダメだって。お姉ちゃんのいうこと聞きなさい」


「ですから……」


「私とロゼッタは姉妹じゃないんだよ。でもね、彼女は私の従者であり、親友であり、家族同然のとっても大切な人なの。だから、ケンカしてるように見えて、実はすっごく仲良しなんだよ」


「……っ!」


「そうなの? じゃあ私達と一緒だね! 私達もみんな孤児だけど、もう家族みたいなものだもん。ね、お兄ちゃん」


「そうだな。みーんな大切な家族だ」


少年は紙袋を持ったまま、こちらに振り返ってニカっと笑う。その後で私はアンジェリーク様から顔を逸らした。顔が火照っている自覚があるからだ。


「照れちゃって」


「照れてなどおりません。それに、今のでは従者の説明になっておりませんから」


「はいはい、そうですか」


アンジェリーク様は怒るでもなく、むしろ楽しそうにクスクス笑う。


ダメだ、いつものアンジェリーク様のペースにハマっている。私のことを家族だとか、大切だとか、そういう私が一番欲しい言葉を何の躊躇いもなくいきなり胸に打ち込んでくる。そうして対処に困っている私を見て、アンジェリーク様は嬉しそうに笑うのだ。その笑顔が憎めないのが悔しい。


「本当に仲が良いんだな」


突然、グエンが横目で話しかけてきた。これにはアンジェリーク様がすぐさま答える。


「うん。もしかして羨ましい?」


「ああ」


あまりに素直に答えるものだから、さすがのアンジェリーク様も面食らっていた。


「あなたに仲良い人はいないの?」


「いた。でも、もうそいつは俺の知ってる奴じゃない」


「どういうこと?」


答えを聞く前に、少女の「着いたー!」という声がそれを遮る。彼女が走っていった先にあったのは、苔がむすほど古く寂れたほったて小屋だった。少年と少女が「ただいまー!」とドアを開ける。すると、中から数人の子ども達が「おかえりー!」と笑顔で二人を出迎えた。


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