敵襲?(ロ)
とりあえず走り出したはいいものの、闇雲に探していては時間の無駄だ。しかも、今は一刻を争う時。少しの時間も惜しい。
「街の人達に聞いてみましょうか」
まずは、パンを盗まれそうになったパン屋。場所は聞かなかったけれど、パンを全部買ったメイドなどそうそういないからすぐに見つかるはず。
「ですが、それでも時間がかかってしまう」
聞き込みをしている間に、アンジェリーク様が魔物や盗賊に襲われるかもしれない。いや、その可能性は極めて高い。
「せめて、居場所の特定さえできれば……」
そこまで考えて、ふと部屋で聞いたメイド達の話を思い出した。
(盗賊といえば。南門の葡萄畑の外れに孤児が住み着いてるでしょう? その子達がまた盗みを働いたんだって)
「南門の葡萄畑の外れ!」
ここだ。とりあえずこの葡萄畑を目指そう。ここまでいけば、近くで働いている人間達から話が聞けるかもしれない。
目標は定まった。あとは向かうだけ。しかし、五歳児のこの身体ではあまりにも遅い。
「仕方ありません。緊急事態です」
マルセル様には怒られるかもしれないが、アンジェリーク様に何かあるよりかはマシだ。
向きを変え、城壁の外へ出る。門に立っている兵士に呼び止められたけれど無視した。少し走って、周囲に人がいない場所まで移動する。そして私は、魔力を後ろの地面に溜めた。
「行きます」
呟いた直後、魔力を溜めた地面が爆発する。五歳のこの身体は、紙のように軽々と吹き飛ばされた。倒れないようバランスを保ちながら空中を舞う。突然起きた爆発に、近くで畑仕事をしていた住民が何事かと騒ぎ始めていた。
「次」
綺麗に着地した直後、再び背後を爆発させる。これを続ければ、五歳児の身体で走るよりかははるかに早く着くだろう。
「なんだ、何が起こった!?」
「敵襲か!?」
魔物討伐のために駆り出された兵士や傭兵達が騒ぎ出し、臨戦態勢を取り始める。そんな時、爆風で巻き上がった土煙の中から五歳の女の子が空中を舞っているのを見つけて、彼らは「へっ?」「子ども!?」と驚きの声をあげていた。
そうして何回か繰り返していたその時、土煙の外から尖った土の刃が飛んできた。私はあくまで冷静に炎をムチのように操ってすべてをはたき落とす。そしてその炎を使って、着地する位置を少しズラした。すると、着地する予定だった場所に同じような土の刃が複数個突き刺さる。それと同時に、私は攻撃が来た方向へ炎の矢を飛ばした。しかしそれらはすべて一人の剣士によって防がれる。彼の後ろには、少女と青年が立っていた。無傷な私を見て、向こうから驚きの声があがる。
「ウソ、今の攻撃全部かわすなんて。いったい何者……って師匠!?」
「え、ロゼッタさん!?」
駆け寄ってきたのは、ルイーズとジルとギャレット様だった。私だと気付いたルイーズが、満面の笑みで「師匠ーっ」と勢いのまま抱きついてくる。思わず倒れそうになった。
「さっきの攻撃全部防いじゃうなんて。さすが師匠ですっ」
「やはりあなたでしたか。攻撃はなかなか良かったですよ。私が教えた通りでしたし。ジルも良い動きでした」
「確かに、剣士としての動きが身に付いてきたな」
「あ、ありがとうございますっ」
ギャレット様にまで褒められて、ジルは気をつけをしながら頬を赤く染めていた。どうやら嬉しかったらしい。
「というか、離れてください。私は今急いでいるので」
「もしかして、この爆発は全部ロゼッタさんが?」
「ええ。少し急いでいたものですから」
「おいおい、いくらなんでもやりすぎだろ。兵士達が敵襲だと騒いでるぞ」
「すみません。ですが、今は緊急事態ですので」
「緊急事態?」
「アンジェリーク様が脱走しました」
そういうと、三人とも『えっ!?』と目を見開いた。
「で、でも、アンジェリーク様はまだ身体に麻痺が残ってましたよね?」
「私も詳しくは知りませんが、脱皮したコドモダケの抜け殻を食べたら、麻痺が治ったそうです。それでメイドに扮して屋敷を抜け出し、今は南門の葡萄畑付近にいらっしゃるみたいなので、今向かっているところです」
「え、脱皮?」
「抜け殻?」
「葡萄畑の外れ?」
三人の頭にハテナマークが咲き乱れる。しかし、いちいち説明する時間も惜しいので、私は質問には答えず矢継ぎ早に言葉を続けた。
「とにかく、アンジェリーク様は今城壁の外にいて、魔物か盗賊と遭遇している可能性が高いということです。ですから私は急いでいます。邪魔しないでください」
「で、でも! 師匠は今日お休みをいただいていたのでは?」
「アンジェリーク様の危機です。休んでなどいられません。休日返上です」
平然と答えると、何故かルイーズは嬉しそうに笑った。
「それでこそ師匠です!」
「ありがとうございます」
「あのっ、俺達も向かっていいですか? アンジェリーク様の私兵として、主人を守りに行かないと」
「そうですね、今の私だけでは不安なので是非お願いします。ギャレット様、よろしいですか?」
「ジルが行きたいというのなら俺が止める権利はない。俺もついていってやる」
「ありがとうございます。では」
私が次の爆発に備える。すると、三人は私から距離をとった。それを確認して地面を爆発させる。前を見ると、葡萄畑まではもう二発といったところだった。
「無事でいてください、アンジェリーク様」
焦る気持ちを抑えるように、私は身体を空に預けてそう願った。




