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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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外堀から埋める

 タオルで汗を拭う。すると、ミネさんが包帯でぐるぐる巻きの私の右手に触れた。


「部屋に引きこもっていたのは、この怪我のせいですか?」


「え?」


「いえ、言いたくなければ言わなくていいのですが」


 困った顔でヨネさんが言う。


 ああ、そうか。二人とも気にしてくれてたんだ。


「別に話すことに抵抗はありませんよ。ただ、あまり楽しいものではありませんが。それでもよろしいですか?」


『はい』


 それならばと、私は二人に、馬車の事故の件、駆け落ちの件、ここへ来た経緯などを二人に話した。継母から命を狙われていることも話したけれど、ロゼッタが暗殺者だということは伏せておいた。


 全部話し終わると、ミネさんとヨネさんは涙ぐんでいた。


「なんということでしょう。肩に傷跡が残っただけで婚約破棄されるなんて」


「それに、実の父親には使えないと見捨てられ、継母や義妹からは命を狙われるなんて」


『そんなの酷すぎる!』


「そう言っていただけて、ありがとうございます。なんだかそれだけで救われました」


「ずっとお一人で辛かったでしょう?」


「いえ、私にはロゼッタがいてくれましたから。寂しくはありませんでした。今だってこうして私について来てくれて。こう見えても、彼女には感謝しているんですよ」


「知ってます」


 ロゼッタは淡々と見えるように答える。内心嬉しいくせに、痩せ我慢しちゃって。


「私にはもう、帰る家はありません。ですから、ここにいさせてください」


「ええ、ええ、もちろんです。好きなだけここにいてくださいな」


「たとえ旦那様の花嫁に選ばれなくても、ここにいていいですからね。ニール様が何か言ってきても、私達が説得しますから。ねえ、ミネ」


「ええ、そうですとも。アンジェリーク様もロゼッタさんも、もう家族みたいなものですから。断固としてニール様と戦いますよ」


「ありがとうございます、お二人とも。一応、昨日クレマン様からは妻をとるつもりはないとはっきり言われました。私もその方が良いと思います。クレマン様は奥様のことを深く愛していらっしゃいますから。でも、失敗したらローレンス家には帰ってくるなとお父様に言われております。ですので、できればここで使用人として働けないかと考えていたところです。どう思いますか?」


「まあ、なんて素敵な提案でしょう。ですが、本当によろしいのですか? ここは田舎で不便ですし、人も少ないですよ。それに、伯爵のご令嬢に働いてもらってもいいものか」


「実はずっと田舎で暮らしたくて。カルツィオーネは一目見て気に入りました。私に対しての気遣いは無用です。これからの私の働きぶりを見て、一緒に働けるかどうかご判断していただければ」


「私達は異論ありませんわ。実際に、ここへ来てからたくさん手伝ってくださっていますもの。こんな働き者のご令嬢見たことないって、ヨネと話していたんですよ」


「本当ですか? ロゼッタ、今の聞いた?」


「すみません、聞き逃してしまいました」


「ウソつけ!」


 私のツッコミに、ミネさんとヨネさんが可笑しそうにクスクス笑う。この二人に笑われるのは嫌じゃない。


「とにかく、私達は大賛成です。あとは、ニール様がどうご判断なさるか……」


「私は、クレマン様のお許しさえもらえれば、ニール様は反対できないのではないかと思っているんですよね。あの方、クレマン様には逆らえなさそうですし」


「あら、アンジェリーク様はよく見ていらっしゃいますね。確かに、ニール様は旦那様をたいへん慕っておりますから。旦那様が良しとしたことを、簡単には否定できないでしょうね」


「じゃあ、まずはクレマン様を落としましょう」


「僭越ながら、私達もお手伝いいたしますわ。ねえ、ヨネ」


「ええ、ご協力いたしましょうね、ミネ」


「ありがとうございます!」


 よし、これで味方ゲット。まずは外堀を埋めていかないとね。


「そうだ、今日のお茶会、みなさんもご一緒にいかがですか?」


『私達も?』


「はい。クレマン様と二人だけでも良いのですが、みなさんも一緒ならもっと楽しくなると思うんです」


「私達は構いませんが……」


「それは旦那様に聞いてみないと……」


「私はべつに構わんよ」


 低い男性の声が聞こえて思わず振り返る。その先にいたのは、クレマン様だった。クレマン様は綺麗になった庭を眺めながら、ゆっくり歩いてくる。


「クレマン様! もう起きて大丈夫なのですか? 今朝方、結構咳き込んでおられましたから」


「大丈夫、この通りだよ。やはり、薬というのはそれなりに効果があるらしいね」


「それなら良かったです。それで、あの……いつからそこに?」


「今来たとこだよ。寝ていたら、やけに外が賑やかだったものでね。窓から覗いて見たら、君達が楽しそうにお喋りしているじゃないか。思わず来てしまったよ」


「アンジェリーク様は、魔物の雄叫びみたいにうるさいですからね」


「ひねくれものの侍女が、私を怒らせるようなことばかり言うもので。そろそろ喉が枯れそうです」


 言い終えて、お互いムッと睨み合う。そんな私達を見て、クレマン様だけでなく、ミネさんヨネさんもクスクス笑った。


「私もアンジェリークの意見に賛成だ。みんな一緒なら、もっと賑やかで楽しくなるだろう。その方が私は好ましい」


「ありがとうございます!」


 嬉しくて、ミネさんヨネさんに視線を向ける。すると、二人ともハイタッチして喜んでいた。


「では、せっかくなのでココットも呼びましょう」


「ココット?」


「うちの料理人ですわ。あの方も人と話すのがお好きだから。きっと、はりきってお茶請けのお菓子を作ってくれるはずですよ」


「お菓子! うわー、楽しみっ」


「ロゼッタはどうする?」


「私は……」


「ロゼッタは強制参加です。拒否権なし」


「という、非人道的な主人の命令により、参加させていただきます」


「ははっ、それは良かった」


 クレマン様は嬉しそうに笑う。ロゼッタのあの言い方は気に食わないけれど、クレマン様が楽しそうなので怒れない。計算づくか。


「ニールは私から誘ってみるよ。でもまあ、彼は参加しないだろうな」


「こういうの苦手そうですものねぇ、ミネ」


「きっとそうですわ、ねぇヨネ」


「でも、これでお茶の時間が楽しみになりました。ロゼッタ、時間ギリギリまでこの庭綺麗にするわよ!」


「言われなくてもわかっております」


 そう言うと、ロゼッタは剪定バサミで近くの伸びた枝をちょん切った。


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