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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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アンジェリークがロゼッタに求めていたもの(ロ)

「リザ……どうしてここに? アンジェリーク様の護衛はどうしたのですか?」


「クビって言われたから戻ってきた」


「なっ」


 驚く私とは裏腹に、リザは呑気にパンを頬張る。さすがのノア様も口を挟んだ。


「リザ、君はロゼッタさんに頼まれてアンジェリークの護衛をしてたんじゃなかったの?」


「ちゃんとしてましたよ、途中までは。もう聞いてくださいよぉ。街を散策してる時に、パン屋でパンを盗もうとしてた孤児達が店主に捕まってるのを見つけちゃって。そしたらアンジェリーク様が、情けをかけて店のパン全部買っちゃったんですよ。しかも、公衆の面前で大金チラつかせながら」


「バカか、あいつは! そんなことしたら追い剥ぎなんかに狙われるぞ」


「そーなんですよ、殿下。私もそれはマズイよって言ったんですけどね。アンジェリーク様は私が護衛してるの気付いてたみたいで、私がいるから心配してないって。ほんと、簡単に人信じすぎ」


 ケラケラ笑っているが、頬がほんのり赤い。たぶん、嬉しかったのだろう。だが、今はそんなことどうでもいい。


「そこまでわかっていながら、どうしてアンジェリーク様の護衛をやめたのですか?」


 思わず声が低くなる。リザも私の険な様子に気付いたのだろう。彼女は笑うのをやめた。


「アンジェリーク様が報酬外の行動を取ろうとしたからさ」


「報酬外の行動?」


「その孤児達、住処が城壁の外にあるらしくって。そこまで一緒にパンを運ぶって言い出したから、それは契約違反だって注意したんだ。そしたら、もう護衛はいらないってバッサリ。ほんと、ワガママにもほどがあるよねぇ」


「ふざけるな!」


 怒声と共に殺気を飛ばす。そしてそのままリザに詰め寄った。


「あなたも、今のアンジェリーク様の状態を理解しているのでしょう? 剣も下げていない、左腕は負傷している、しかも盗賊からは命を狙われている。そんな状態のアンジェリーク様を護衛無しで野放しにしたらどうなるか、いくらバカなあなたでもわかるはずです」


「ああ、わかってるよ。だから注意したんだ。そしたら、私の自由を侵害する護衛はいらない、だってさ」


「な、にを……」


 自由を侵害? 何をバカな。今はそんなことを言っている場合ではないのに。自由を求めるにもほどがある。


「それであなたは引き下がったというのですか?」


「まさか。それなら追加報酬払えばいいだろって提案したさ。そしたらなんて言ったと思う?」


「もったいぶらずに早く言いなさい」


「私の護衛はロゼッタじゃなきゃダメなんです、だから追加報酬は払いません、だって」


「え……」


 その言葉を聞いた瞬間、身体中から力が抜けた気がした。


「今日のことで身にしみてわかったって言ってたよ。もうそれ聞いたらさすがに何も言い返せなくなっちゃってさぁ。とりあえず、依頼主のあんたにだけはクビになったこと知らせとこうと思って」


 最後の方の言葉は、まったく頭に入ってこなかった。私はそのまま膝から崩れ落ちる。


「そんな……バカな。いくらアンジェリーク様といえども、今のご自身のお立場は理解されているはず。護衛無しで城壁の外に出るなど自殺行為。それなのに、私以外の護衛を拒否するなんて。なんで、どうしてそんなことを……」


 怖いのでしょう? 死にたくないのでしょう? なのに何故私に固執するのですか。こんな役に立たない私なんかに。


 この囁くような問いに答えたのは、記憶の中のアンジェリーク様だった。


(でも私は、あなた以外の護衛はいらないわ。他の誰かじゃ安心して自分の命を預けられないもの。たとえあなたがその姿のままでもね)


(あなた以外の誰かに私の命は預けられない。心から信じられないの。そんな相手を護衛としてそばに置いておきたくない)


(けっして自分から他の護衛が欲しいとは言わない。覚えておいて)


「あ……」


 今改めて気付いた。アンジェリーク様が私に何を求めていたのか。


 人類最強の強さじゃない、護衛としての優れた能力でもない。アンジェリーク様は、ただ純粋に私にそばにいてほしかったのだ。


「なんてこと……っ。私はまたアンジェリーク様のことを信じてあげられなかった……っ」


 私以外の護衛はいらないと、アンジェリーク様は何度も私に伝えてくれていたのに。それなのに私は、自分のことばかり考えて、勝手に不安になって、アンジェリーク様のお気持ちを見落とした。


 いつか裏切られるんじゃないかと疑っていたあの頃となんら変わらない。私は未だに人を信じることに臆病なままなのだ。忠誠まで誓っておきながら、私はいったい何をやっているんだ。


 打ちひしがれる私に、ノア様が優しく声をかける。


「アンジェリークが言ってた。自分をお屋敷に留めておこうとしてることについて、みんな悪気があってやってるわけじゃなくて、自分を心配してのことだってのはわかってる。でも、だからこそ余計に我慢できない。何故なら、ロゼッタさんなら、心配しつつも自分のワガママ聞いてくれてたから。どうしても比べてしまうんだって」


「アンジェリーク様がそんなことを……」


「アンジェリークさ、廊下に倒れてた時泣いてたんだけど。最初は自由に動けないことに対して悔しくて泣いてるのかと思ってた。でも、たぶんそうじゃないと思う。自分はロゼッタさんに甘え過ぎだから自立しなきゃって彼女言ってたけど、本当はなんの躊躇いもなく素直に助けてって言えるロゼッタさんがそばにいなくて、寂しくて泣いてたんじゃないかな?」


「寂しくて……」


 今さら私に気を遣って自立だなんて。それで寂しくて泣いていたら意味ないでしょうに。それでも、心のどこかでホッとしている自分がいた。自分がそばにいなくて寂しいと思ってくれているんだと嬉しくなる。


 崩れ落ちた私の身体に影が落ちる。見ると、リザが私の前に立ち塞がっていた。彼女はそのまま私の胸倉を掴んで無理矢理立たせる。


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