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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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今悔しい?(ロ)

「……報酬は?」


「え?」


リザから返ってきた反応に、思わず顔を上げる。彼女は気まずそうに目を逸らしていた。


「だから、報酬はいくらかって聞いてんの。マルセル様の依頼料より安かったら、私引き受けないよ」


「マルセル様がいくらで呼びかけたのかはわかりませんが。これで足りなければあなたの言い値で構いません」


そう言ってお金の入った小袋を手渡す。中身を確認したリザの目が大きく見開かれた。あの反応はたぶんこちらの勝ちだ。


リザはため息をつきながら、手渡した小袋を懐にしまった。


「わかった、今回だけは引き受けてあげる」


「ありがとうございます」


「んで、アンジェリーク様はどこ? 確か、昨日の襲撃事件に巻き込まれたんだろ? 大丈夫なの?」


「左腕に麻痺系の毒を盛られた弓矢を受け、身体が麻痺した状態で寝ていらっしゃいます」


「麻痺って……相変わらず無茶してんね。ってか、身体が麻痺してて動けないんなら、護衛必要なくない?」


「相手はあのアンジェリーク様ですから。それに、盛られた薬の量もどれほとかわからない。もしかしたら効き目が切れて動けるようになるかもしれませんし、あの方なら自由のために根性で動きかねません」


「それ、悪口?」


「いえ、事実です。ですが、厄介には違いありません。だからあなたという保険をかける必要があるのです」


「私は保険かい! つまり、アンジェリーク様が脱走した時用の護衛を任せる、ってことね」


「その通りです」


「でも、脱走しなかったらどうすんの? マルセル様の依頼断ってんだから、報酬は返さないよ」


「返さなくて結構です。それは拘束料として受け取ってください」


「あっそ。じゃあ遠慮なく。んで? あんたのことだから、脱走するとしてどこから出てくるか当たりはつけてんだろ?」


「使用人用の裏口です」


「裏口? ああ、あそこか。確かにあそこからならみんなにバレずに抜け出せるかもね」


「ええ。しかも、あの特徴的な縦ロールは誰にもバレずに脱走するには圧倒的に不利です。ですから、必ずそれを隠すため変装して出てくるはず」


「確かにあの縦ロールは特徴的だからなぁ。アンジェリーク様と言えばあの縦ロールってみんな認識してるみたいだし」


「ええ。ですから、それを封印するために必ず変装してきます。そうですね、一番あり得そうなのはメイドでしょうか。数が多いですし、一人増えたくらいではすぐに正体がバレる心配がない」


「そうだね。じゃあ、裏口から出てきたメイドさんに片っ端から声かけてみるよ。声さえ聞ければアンジェリーク様かどうかわかるし」


「そこら辺はさすがですね。お願いします」


素直に褒めると、リザはほんのり頬を赤く染めた。


「あのさあ、そこまで予想立てられてんなら、中の使用人達にも知らせた方がいいんじゃないの? 協力者は多い方が確実じゃん」


「そうしたいのは山々ですが。アンジェリーク様の場合、逃げ道を完全に塞いで追い込んでしまうと、窮鼠猫を噛む、ではありませんが、本当に何をしでかすかわかりません。ですから、ある程度こちらで逃げ道をコントロールしてあげた方が安全だと思われます」


「つまり、罠にかけるってこと?」


「まあ、そんなところですね。たぶん、昨日の疲れもあるでしょうし、城壁内を散策されれば十分満足されるでしょう」


「ある程度ガス抜きさせて、それ以上の過激な行動を抑制する、か。あんたもあれこれ考えて大変だね」


「これがアンジェリーク・ヴィンセントという暴君の従者の仕事ですから」


「はー、私には無理だわ。誰かの下につくなんて。よくやってられるね」


「自身の命を捧げてでも守りたいと思わせるほどのことを、アンジェリーク様は私にしてくださいましたから。あなたにもいませんか? 自分の命よりも大切にしたい誰か」


「いるよ」


ここまで言うのだからてっきり、いない、と答えると思っていたけれど。リザの意外な返答に思わず驚いた。


「主人とか従者とか、そういうのとはちょっと違うけど。でも、自分の命よりも大事だと思える存在はいる。だから、どんなことをしてもその誰かを守りたい、っていうあんたの気持ちは理解できるよ。それで引き受けたってのもあるけど」


「そう、ですか。意外ですね。てっきり、あなたは独りが好きだから傭兵になったものだと解釈していました」


「べつに傭兵になりたくてなったわけじゃないし。どこも兵士として受け入れてくれなかったから、仕方なく傭兵になっただけ。でも、今は結構気に入ってるよ。誰かの指示に従うことなく、自分の思うがままに戦えるからね」


「確かに、傭兵はあなたの気質に合っていると思います」


「だろ? 飼い慣らされた犬のあんたとは違うんだよ」


「野犬はただの迷惑な害獣ですけどね」


お互いムッと睨み合う。そのうちに、お屋敷から数人の兵士風情の輩が来て、傭兵達に集まるよう声をかけた。その後ろには、ジルとルイーズとギャレット様が見える。そろそろ討伐に向かうのだろう。


「では、アンジェリーク様の護衛をお願いします。報酬分はしっかり働きなさい」


「あんたに言われなくてもわかってるよ」


リザはいーっと白い歯を見せて私に対抗する。その後で、私の背中に声をかけた。


「ねえ、暗殺者」


「なんですか?」


「今悔しい?」


意外な質問に思わず振り返る。その顔はまるで挑発しているかのように笑っていた。あの顔は、私の内面を理解してわざと言ってるのだろう。本当に腹立たしい奴。


「ええ、悔しいですよ。殺してしまいたいくらいに」


ここまでしないといけない惨めな自分を。それをいうのは癪なので声に出さなかった。


リザは何も言わず、ただニシシっと笑っただけだった。


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