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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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どんな手を使ってでも(ロ)

アンナさんに連れられて、お屋敷の門前へと移動する。そこには、マルセル様の呼びかけに応えたたくさんの傭兵達が、各々準備をして過ごしていた。その中の一人、周りから少し離れた所で槍の手入れをしている女性にアンナさんが声をかける。


「リザさん、少しお時間よろしいでしょうか?」


「おー、アンナさん。どしたの?」


「実は、この方からお話があるそうです」


「この方?」


リザの視線が、子ども姿の私へとスライドする。そしてにぱっと笑った。


「なになに、お嬢ちゃん。私に何かご用?」


完全に子ども扱いされた。先ほどのメイドもそうだったし、彼女は事情を知らないので致し方ないのだが。なんだか無性に腹が立つ。


「私は、ロゼッタ・ドラクロワ。アンジェリーク様の従者です」


「へ?」


リザの目が点になる。その後で真剣な眼差しになった。


「お嬢ちゃん、冗談でもその名前を使っちゃダメだよ。あーんなろくでなしの冷血人間みたいに、性格がひん曲がっちゃうから」


「うるさいです」


問答無用で火の玉を飛ばす。直撃を狙って放ったのだが、リザに直前で軽々かわされてしまった。


「ちょっ、いきなりなにすんのさ!」


「ああ、すみません。あなたの下品な顔を見ていたら、つい魔法が暴走を」


「この嫌味な言い方、アイツそっくり……。じゃあ、あの噂ほんとだったんだ。ドラクロワの暗殺者がコドモダケの毒にやられて子どもの姿になっちゃったって」


「知ってたんなら、素直に受け入れればいいものを」


「そんで毒に耐えられず死んじゃったんでしょ? あんな生意気な口叩いといて毒にやられるとか超ダッサーとか思ってたけど。まさか化けて出てくるなんてねぇ」


「わかりました、跡形もなく燃やし尽くしましょう」


イラっときて、先ほどのよりもさらに大きな火の玉を目の前に作り出す。すると、周りの傭兵達からどよめきが起こった。


「おっ、やるかぁ?」


「ロゼッタさん、お気持ちはわかりますが、一応ここはダルクール家の敷地内ですから。どうぞお怒りをお鎮めください」


「アンナさん……申し訳ありませんでした」


シュンとなって火の玉をしまう。


「やーい、やーい。怒られてやんのー」


「リザさんも。あんまり挑発しないであげてください。こうなって一番辛い思いをしているのは彼女なのですから。からかって良いものではありません」


「それは……ごめん、なさい」


リザが素直に謝る。なるほど、どうやら私達はアンナさんには逆らえないらしい。


「では、ロゼッタさん。私はこれで」


「ええ、お忙しいところ、わざわざありがとうございました」


「いえ。それでは」


アンナさんは丁寧に頭を下げてその場を後にする。傭兵達も落ち着きを取り戻したようで、私はリザと対峙した。お互いの目が相手を射抜くように鋭く睨む。しかし、それに耐えられなくなったのはリザだった。彼女は遠慮なく「ぶっ」と吹き出す。


「だっははは! ほんとに、子どもになってやんの。ははっ、かーわいいねぇ、ロゼッタちゃん! お菓子でもあげまちょうか? クククっ」


遠慮なく笑い転げるリザに、むくむくと殺意が膨らんでいく。

やはり燃やし尽くして灰にしてやろうか。そう思ったけれど、これからのことを考えグッと我慢した。


「実はあなたに依頼したいことがあります」


「依頼? あんたが? この私に?」


「ええ、そうです」


リザは目尻に溜まった涙を拭った後、眉間にシワを寄せて聞き返す。まあ、その反応が普通か。


「シャルクにいる間、アンジェリーク様の護衛を頼みたいのですが。お願いできますか?」


「アンジェリーク様の護衛を? そんなの、あんたがやればいいじゃん」


「私は今この姿で役立たずですから。護衛の役目を果たせません。ですから、苦肉の策としてあなたに依頼しています」


冷静な自己分析と現状把握。そう思っていたけれど、何故かリザの顔が険しくなった。


「気に食わないね。アンジェリーク様はあんたにとって命に変えても守りたい大切な主人なんだろ? その護衛を他人に任せるってなに? その無責任さ、マジ信じらんないんだけど」


「なんと言われても結構。アンジェリーク様のためなら、犬猿の仲のあなたにだって頭を下げる覚悟はあります。もちろん、報酬は支払います。引き受けてくれますね?」


「断る。気分が乗らない。それに、私はこれからマルセル様の依頼を引き受けて、城壁外の魔物討伐に向かうんだよ。だから、あんたの依頼引き受けてる暇なんてないの。だからほら、さっさとあっち行った」


しっしっと手で払う仕草をされる。それでも、立ち去る気分にはなれなかった。私は彼女に向かって頭を下げる。


「お願いします。引き受けてください。私だってあなたにこのようなことを頼みたくはありません。アンジェリーク様の護衛の座を譲りたくはないし、あの方の隣は常に私でいたい」


「だったらっ……」


「ですが、今の私ではあの方をお守りすることができないのです。実力の十分の一も出せない今の私がおそばにいても、アンジェリーク様を危険に晒すだけ。私は、どんな手を使ってでもあの方の命だけは守りたい」


「…………」


「こう見えて、あなたの実力はかっています。あの自ら危険に飛び込んでいくようなアンジェリーク様の護衛を、安心して任せられるのはあなたしかいません。だからお願いします。引き受けてください」


「おいおい、マジかよ……」


リザの呟きが頭に落ちる。顔を見なくても声だけでわかる。彼女は心底驚いているようだった。


悔しさが滲んできて、私は両手を力強く握りしめる。


惨めだった。こんな普段毛嫌いしている相手に、大切な方の護衛を任せるなんて。それでも、そんな相手に頭を下げてでも、私はアンジェリーク様には死んでほしくはないのだ。そのためなら邪魔になるプライドだって捨てられる。こんな自分がいることに正直驚いた。


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