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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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依頼主はまさかの・・・・・・

「もう私の正体に気付いてるんでしょ? だから一度も名前も聞かないし、お金を持ってても不思議に思わない。違いますか?」


 すると、リザさんはクスッと笑った。


「正解。また会ったね、縦ロール姫」


「やっぱり。というか、そのあだ名はちょっと……」


「えー、いいじゃん。可愛くない?」


「可愛くないです」


 バッサリ拒否すると、リザさんはぷぅっと頬を膨らませた。それでも、耐えられなかったのか、すぐさまニカっと笑う。


「よく気付いたね、私が護衛してるって」


「さっきの店でカップルが話してたの覚えてますか? 城壁外を彷徨いてる魔物を討伐するために、マルセル様が兵士や傭兵達に向かわせてるって」


「確かに言ってたね」


「それなのに、リザさんはここにいる。今日は暇だからって。それはおかしいです。リザさんは傭兵としてお金を稼ぐことに重きを置いている。それなのに、こんなチャンスをみすみす逃すはずがない。それに代わる大きな収入のあてがない限り」


「それが、姫の護衛だと?」


「そうです。でなければ、私が屋敷を出たあのタイミングで現れるのも不自然ですし、執拗につきまとってくる理由も説明できない」


 真っ直ぐ目を見て答える。しばらくして、リザさんは額に手を当てて大きな笑い声をあげた。


「あははっ! いやー、前も思ったけど。やっぱり姫はただの十五歳じゃないね。おみそれしました」


「それはどうも。それで、依頼主は誰ですか? マルセル様? それとも殿下達? まさかエミリアとかじゃないですよね?」


「ブッブー。どれもハズレー」


「え? じゃあ、いったい誰が……」


「あの暗殺者だよ」


「暗殺者って……もしかして、ロゼッタですか!?」


「そう、その通り」


 一瞬、聞き間違えたのかと思った。でも、そうではないらしい。


「いやー、あいつから依頼された時は正直ビックリしたよ。しかも、私に頭まで下げてお願いしてきたんだよ? 今の私は役立たずですから、だって。もう気持ち悪くて断ろうかと思ったけど、思ったより金払いが良かったから引き受けちゃった」


「……まさか、あのロゼッタがリザさんに護衛を依頼するなんて。あんなに毛嫌いしてたのに……」


 私の護衛候補としてリザさんの名前を挙げた時、秒で否定したあのロゼッタが、まさかリザさんに私の護衛を任せるなんて。しかも、わざわざ頭を下げて。これは相当思い詰めてるのかもしれない。


「ねえ、あいつなんかあった? 私が子ども姿のあいつを見て大爆笑しても、殺意一つ飛ばしてこなかったんだよ。しかも、命よりも大切な姫の護衛を私に任せるなんて。不気味すぎてなんだか調子狂う」


「あー……彼女今落ち込んでるみたいなんですよね。ノア達が襲撃された現場に私もいたんですけど、その時自分は何もできなかったって思い込んでて」


「まあ、あの格好じゃあ仕方ないだろうけどね」


「でも、ジルやルイーズに適切にアドバイスしてナターシャやコレットも無事守ってくれたし、私も間一髪のところで助けてくれました。だから、何もできなかったわけじゃないのに」


 今でもそう思っている。それでも、それを直接今のロゼッタに言うのは何故か憚られた。その答えをリザさんが教えてくれる。


「プライドの問題じゃない?」


「プライド?」


「ほら、あいつ今まで何でも完璧にこなしてきたじゃん。学校は首席で卒業、暗殺は必ず完遂、しかも負けなしの人類最強。そんな奴が、今初めて敗北を味わってるんだと思う」


「べつに彼女も私達も負けてませんよ?」


「自分自身に負けたんだよ。今まで当たり前にできていたことができなかった屈辱と無力感。それがあいつを支えてきたプライドを傷つけた。そんでそれがあまりにも痛すぎて、どう対処していいのかわかんないんじゃないかな」


「なるほど。プライドが傷ついた、か……」


 ありえる話だ、と思った。今まで当たり前にできていたことができなかった時のあの気持ちは、つい数分前まで私が味わっていたものだ。ましてや、今までできなかったことがないロゼッタからしたら、そのショックは計り知れない。


「どう慰めてあげたらいいんでしょう?」


「えー? べつに慰めなくていいよ。余計惨めになるだけだし」


「でも……」


 何かしてあげたい。彼女がまたいつも通り嫌味を言えるくらい元気になってほしい。だって、いつもロゼッタは私にそうしてくれたから。これは私のワガママなんだろうか。

 思わず視線が落ちる。そんな私を見て、リザさんは一度ため息をついた。


「そのままでいいよ」


「でも、それじゃあ……っ」


「そうじゃなくて。姫はそのままでいな。こうやってお屋敷抜け出したり、今みたいに金ちらつかせてパンを大量に買ってみたり、いつも通り無茶してればいいんだよ。それが一番あいつに効果的だから」


「それでいいんですか?」


「いいの、いいの。お姉さんの言うこと信じなさーい」


 そう言って、リザさんはニシシッと笑う。ほんとかな、という疑念は拭えない。何もしなくていいのか、という思いもある。

 それでも、どうしてだろう。リザさんが言ったことを実践してみるのも悪くないと思ってしまった。


「じゃあ、リザさんのこと信じて、いつも通り無茶します」


「ほどほどにしてよ? 私、報酬以上の働きする気ないんだから」


「わかってますって。ってか、あの縦ロールを封印したのに、よくこのメイドが私だって気付きましたね。大概の人は気付かないのに」


「私も最初は気付かなかったんだけど、声がね、姫と一緒だったから。それに、あいつから姫が変装して屋敷を出る可能性もあるから、不審な人物には気をつけろって助言されてたんだよ。いやー、まさかそれが的中するとはね。姫の護衛は優秀だこと」


「……そうですね。優秀すぎて怖いですっ」


 完全に行動が読まれてる。この先、ロゼッタを撒いて単独行動するには、かなり綿密な作戦を考えないと無理かもしれない。いや、それでも無理かも。


「そこまで心配してるなら、自分で護衛すればいいのに」


「まあ、そのうち気付くんじゃない? 他人に任せた私がバカだったって。あ、私は違うよ? 護衛の仕事もしたことあるから、心配しないで」


「心配はしてません。さっきから私を名前で呼ばず"姫"と呼称している時点で、リザさんの優秀さは理解してますから」


 そう言ってウインクしてみせる。すると、リザさんは再びクククっと笑った。


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