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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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脱皮

「アンジェリーク?」


「あ、ああ、ごめん。昨日ロゼッタが、自分は何もできなかった、って落ち込んでたこと思い出してただけ」


「あの人類最強のロゼッタさんが? それ一大事じゃん。早く慰めに行ってきてあげなよ。僕手伝うからさ」


「んー……」


 確かに、そばにいって慰めてあげたい気持ちは十分ある。でも、私は小さく首を横に振った。


「やっぱやめとく」


「えっ、どうして?」


「今まで冷酷に徹するために感情を押し殺して生きてきたロゼッタが、ようやく人並みに悩むようになってきたの。だから、できればこれを邪魔したくない」


「それはそうかもしれないけどさ……」


「それに、悩みって自分で答え見つけないとなかなか納得しないから。そういう作業も含めて見守っていたいのよ。ちょっと歯痒いけどね」


 そう言って苦笑すると、ノアも肩をすくめて苦笑した。


「まるで、子どもの成長を見守る母親だね」


「そうかもね」


 ロゼッタも私が考え生み出したキャラクターの一人。そう考えたらあながち間違いではない。


「私もこれを機にちょっとロゼッタから自立しようかな。今日みたいにロゼッタがいなくても、情けなく泣くことのないように」


「周りの同世代の子息や令嬢なんかに比べたら、はるかに自立してる方だと思うけどね。だから僕アンジェリークのこと好き」


「はいはい、ありがとう」


「えー? 結構本気なのに」


「じゃあ、コドモダケとどっちが好き?」


「コドモダケ」


 即答だった。そうだよな、お前の結構本気なんて所詮そんなものだよな。


「聞いた私がバカだった」


「ねえ、ねえ。そんなことより、そろそろコドモダケに触ってもいい?」


「そんなことって……べつにいいけど。今日はこいつずっと寝てるわよ」


「へえ、コドモダケって寝るんだ」


 ノアは、まるで好奇心の塊のような子どもみたいな瞳で、ベッドで横たわるコドモダケを凝視する。すると、徐々に眉間にシワが寄っていった。


「どうしたの?」


「いや、なんかあまりに動きが無くて。まるで人形みたいだなーっと思ってさ。ほら、呼吸してるなら柄の部分が上下するはずだろ? でも、今はそれがない」


「ほんとだ。まるで死んでるみたい」


 思わず口を突いて出た言葉にハッとする。そして、二人同時にまさかと目を見開いた。


「まさか、ほんとに死んじゃったの!?」


「わかんない。でも、ここまで動きがないとその可能性が高そう。もしかして、アンジェリークが寝てる間に踏み潰したんじゃないの!?」


「そんなことするはずないでしょ。ちゃんとそうならないように避けてあったわよ。それにペチャンコじゃないし」


「えー? じゃあ、環境が悪かったのかな。ストレス与えると死んじゃうとか? ご飯が足りなくて死んじゃったとか?」


「ちょっと待ちなさい。まだ死んだって決まったわけじゃないでしょ」


「でもさぁ……」


「それに、死んじゃったんなら、解剖もできるし薬も作れるんじゃないの?」


「あ、そっか。それもそうだね」


 ノアの声が一気に声が明るくなった。ちょっとコドモダケに同情する。


「とりあえず、もうちょっと様子見てから……」


 考えよう。そう言いかけたその時だった。


 突然、コドモダケの身体に縦に切れ目が入った。そして、その切れ目の中から小さな突起物が二本ニュッと現れる。その異様な光景に、私もノアも悲鳴をあげる余裕もなく言葉を失っていた。

 そんな私達を知ってか知らずか、切れ目の中の何かはゆっくりと外へと姿を現す。まるで映画に出てくるエイリアンの誕生みたいだ。


「気持ち悪っ……」


「しっ。静かに」


 ノアが人差し指を口に当ててそう注意する。その顔は研究者のそれだ。


 そのままじっと観察を続ける。中から出てきたのは、見たことのあるいつものコドモダケだった。


「キノー!」


 彼はまるで古い皮を脱ぎ捨てたかのように、両手を挙げて伸びをする。その後で軽快に身体を動かし始めた。この感じまさか。


「……もしかして、脱皮したの?」


 べつにコドモダケに話しかけたわけではなかったが、彼は私の方を向いて「キノッ」と大きく頷いた。


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