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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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僕の恩人

「研究を続けるにしても、金は必要だ。研究費はどう賄う?」


「耕作放棄地の多いカルツィオーネの土地を一部借り上げ、そこで一般市民に需要の高い薬草を育てて販売します。その利益を研究費に回そうかと。幸い、アンジェリークも協力してくれるとのことで、賃料は格安に抑えてくれるようクレマン様達に交渉してくれるそうです。そうだよね、アンジェリーク」


「ええ、そうです。ノアとの共同経営者としてならば、お父様もニール様も、カルツィオーネの土地を貸し出すことにそこまで抵抗はしないのではないかと」


「だが、土地はどうにかなっても、土地を耕したり薬草を育てるための人手は必要だろう? それはどうする? 経営が軌道に乗るまでタダ働きさせるつもりか?」


「いいえ、お母様。最初は規模を小さくして、僕とアンジェリークの二人で全部やろうかと。それなら人件費はかかりません」


「お前とアンジェリークで? ほんとにできるのか?」


「できます。私達は、自らが動くことを苦に思わないタイプなので」


「だが、今の話だと君はノアにふりまわされてるだけで、利益が無いような気がするが?」


「そうでもありません、マルセル様。私は今私兵を集めています。その維持のためにはお金が必要です。ですから、共同経営者としてその利益の一部をこちらにも流してもらおうかと。その代わりに働くので苦ではありません」


「お前は私兵を集めてるのか?」


「ロゼッタがこのような姿になり、護衛としての機能が低下したため、それを私兵で補おうかと」


「なるほど。お前も大変だな」


 ミレイア様に同情され、思わず苦笑する。私の話はいいんだ、私の話は。目だけでノアに続きをと促す。


「販路は、今まで薬草の取引をしていた業者や薬師を見込んでいます。話し合いでそこのツテを使って新しい取引先を教えてもらうのもアリかと」


「なるほどな。だが、それだけだととても研究費を賄えるほどの利益は見込めないと思うが?」


「そこなんですよね」


 ミレイア様の言う通り、今のままの狭い販路だけじゃ、きっと多くの利益は見込めない。それは将来私兵が増えるかもしれないことを考えると、どうしても心許ない。なんとか、もっとこう広く多くの人に薬草を買ってもらうためには……。


「ドラッグストア……」


「え?」


「王都やレンスといった都会に、薬草専門の店舗を構えるというのはどうでしょう」


「店舗を? それはまた大胆な賭けに出たな。だが、そこまで薬草自体に需要があるとは思えないが?」


「薬草だけでなく、薬草を加工した商品を一緒に陳列するんです。例えば、肌艶に良い化粧水とか、匂いの良い薬草を使ったアロマ……つまりお香とか、吐き気を抑えるカモミールティーとか」


 思わずノアの方を見ると、彼と目が合った。その顔は驚いている。


「ノアが、私が痛めた脇腹を数種類のハーブを使って手当てしてくれたでしょう? あの時ノアが言ったように、女性はああいう優しい匂いは好きだと思う。癒されるというか、それだけでリラックス効果が期待できるというか。お香を嗜む貴族は多いけど、たぶん平民レベルでも需要はあるんじゃないかな」


「確かに、薬草を親しみやすいように加工するのは良い案かもしれない。たまに僕が淹れるハーブティーとか、みんな美味しいって言ってくれるし」


 そう言ってノアが扉の前に集まっている使用人達に視線を向ける。すると、彼らはみんなうんうんと頷いていた。


「薬としての薬草を売りつつ、それらを親しみやすいよう加工した、いわば嗜好品としての商品を一緒に売りに出すことで購買層を広げる」


「薬草を安定的に大量栽培できれば、価格だって平民にも無理ない程度に抑えることだって可能。しかも、自分達で店舗を構えることで業者の言い値に左右されない」


 ノアと二人、顔を見合わせて不敵に笑う。すると、それを見たミレイア様が大きな笑い声をあげた。


「ど、どうしたの、お母様?」


「いや、さすが私の息子だと思ってな。武術だけでなく、商人としての血もしっかり受け継いでいたようだ」


「え?」


「ノアは、私と出会うずいぶん前から薬草を売る計画を立てていたみたいですよ。薬草には需要があると見込んで。恐ろしい嗅覚です」


「大事なことだ。それがなければ商売は上手くいかない。私のお父様が話を聞いたら、きっと飛びつくだろうな」


「おじい様が? それ本当?」


「ああ。今度、今の商売の計画を話してやればいい。これはいけると判断したら、きっと援助してくれるばすだ。ああ見えて、孫の誰かが商売に興味を持たないかと期待していたんだ、父は」


 そう言った後、ミレイア様はマルセル様に片手を挙げた。


「私は、ノアの意思を尊重する。ここまでしっかり計画を練っていたんだ。それだけ叶えたいという強い意思を感じる」


「お母様……」


「これはお前の人生だ。ノアの思うがまま、存分にやってみたらいい」


「ありがとうございます!」


「となると、あとは……」


 全員の視線がマルセル様へと集まる。彼はノアを睨みつけた後、盛大なため息をついた。


「ただの思いつきなら若気の至りということで却下しようかと思っていたが。俺が思っていたよりもずっと真剣に考えていたんだな」


「はい」


「わかった。そこまで本気ならもう止めない。ただし、男が一度やると決めたら、簡単に音をあげるな。上手くいかないことがあっても、とことん突き進め」


「はいっ」


「あと、武術の訓練も怠るな。研究を理由に怠けることは、この俺が許さん。いいな?」


「はい! ありがとうございますっ」


 ノアの顔がパァっと明るくなり、その分声も弾む。すると、嬉しさが抑えきれなくなったのか、ノアはこちらまで駆けてくると、なんと上半身裸のまま私へと勢いよく抱きついた。


「ちょっ、ノア!?」


「ありがとう、アンジェリーク! 君のおかげで両親に認められたよ。これで心置きなく研究が続けられる。本当にありがとうっ」


「私は何もしてないわよ。あんたの熱意がちゃんと伝わっただけ。でも、良かったわね」


「うん、本当にありがとう。君は僕の恩人だ」


 そう言うと、嬉しさのあまり勢い余ったのか、ノアはなんの躊躇いもなく私の左頬に口づけた。


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