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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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絶対自分が助けるという強い意志

 マルセル様とミレイア様は、お互い抱き合って治療の行く末を見守っている。ナターシャは、安心させるようにコレットの手をずっと握っていた。部屋の扉は開いていて、そこからたくさんの使用人達が心配そうに覗きに来ている。その中にアンナさんの姿もあった。そんな様子からもわかる。ノアがどれだけ使用人達から愛されているのかが。


 ロゼッタが反対側のベッドの端からよじ登り、ノアの傷口の治癒状況を確認する。


「いいですよ、その調子です。止血もきちんとできています」


「ありがとうございます」


「ですが、少し急ぎ過ぎですね。前にも言いましたが。急いで傷口を塞ぐ必要はありません。魔法練度の低い者が急激な修復を試みた場合、身体への負担が大きい上に、組織の結合に失敗するリスクが高くなります。特に傷がひどい場合は、一つ一つ確認するようにゆっくり丁寧に行いましょう」


「はい、わかりました」


「もっと訓練を積んで練度を上げれば、今の半分の時間でより早くより正確に傷を癒すことも可能になるでしょう。ですから、今焦る必要はありません」


「はい」


「大丈夫、止血は完璧です。きちんと傷口も塞がり始めています。ノア様の顔色も呼吸も良くなってきました。焦らず確実にいきましょう」


「……相変わらず、ロゼッタさんは優しいですね」


 エミリアがそう言って微笑む。ロゼッタはというと、何故かため息をついていた。


「どうして私の弟子達は、こうも師に甘いのでしょうね」


「きっと、師匠のことが大好きだからですよ」


「はあ?」


「厳しく指導してくださるのは、私達の将来を見据えてのこと。できればきちんと褒めてくださいますし、今みたいに不安になった時は、心を汲んで励ましてくれる。こんなに素晴らしい師に出会うことができて、大好きにならないはずがありません」


「……言い過ぎですね。褒めても何も出てきませんよ」


「本心ですから」


 エミリアはクスリと笑う。後ろでルイーズがうんうんと力強く頷いていた。

 こんな風に会話していても、傷口周りの青い光はブレることなく漂っている。それだけでもエミリアの成長を感じた。それと同時に、ロゼッタの指導がいかに優れているのかも。


「では、その師として言わせてもらいますが。あなたは一度、瀕死の重傷を負ったレインハルト殿下を、その回復魔法で見事救っています。ですから、もっと自信を持ちなさい。あなたが不安がっていては、それが周りや怪我人に伝播してしまいます。それは良い治療方法ではありません」


「……はい」


「ここにいるノア様の無事を祈る人達のように、周りはあなたに希望を託してくるでしょう。ですから、あなたはそれを堂々と受け取り、絶対自分が助けるという強い意志を示しなさい。たとえ救えなくても、あなたのその姿勢はきっと誰かの救いになるはずですから」


「強い意志……」


 すると、エミリアの背後からレインハルト殿下が現れて、彼女の肩にそっと手を添えた。


「大丈夫、不安になったらいつでも俺が支えるから。確かに君のおかげで助かった命があるのだと、俺の存在を見て感じればいい。それで自信に繋がらないかな?」


「レインハルト殿下……ありがとうございます。殿下の存在は、これ以上ないほどの自信と勇気を私に与えてくださいます。今この時のように」


「そうか。それは良かった」


 そう言って、お互い微笑み合う。


 なんとなくだけど、前より二人の間に信頼関係ができている気がする。レインハルト殿下がそばにいてもエミリアに緊張した感じはないし、殿下がそばにいるのが当たり前かのようにごく自然に振る舞っている。いつの間に二人の距離はこんなに縮まっていたんだろうか。


 そんな私の驚きは、ロゼッタには関係ないらしい。


「エミリア、今のあなたならこの状態のノア様を回復させた後でも魔力は残るのではありませんか?」


「はい。今の段階でまだ余裕があるので全然大丈夫だと思います」


「では、ノア様を回復させた後、ラインハルト殿下やギャレット様、それとジルとルイーズにも回復魔法での治療をお願いします」


「みなさんもお怪我をされていらっしゃるのですか?」


「ええ。ノア様の秘密基地から帰る途中、盗賊と魔物に襲われたものですから」


「盗賊と魔物に!?」


「はい」


「もしかして、アンジェリーク様も……」


「左腕に矢が刺さっちゃった。でも、私は全然大丈夫。だから、ノアの治療に専念して」


「ですが、アンジェリーク様は私の魔法が効きません。早く消毒するなり手当てしないとまた高熱が……っ」


「エミリア、魔法がブレ始めています。集中してください」


「でもっ」


「エミリア!」


 強い口調で名前を呼ぶ。すると、エミリアは肩をビクつかせた。


「私の傷は浅い。だから大丈夫って言ったの。後でちゃんとロゼッタに手当てしてもらうし、あなたが気にすることじゃないわ。それより、ノアの回復にしくじったら許さないんだから。心得ておきなさい」


「アンジェリーク様……」


「ラインハルト殿下やジルやルイーズも私のために戦ってくれたの。だから、後できちんと回復させること。これ、極悪令嬢命令」


「……わかりました。アンジェリーク様のご命令とあらば必ず回復させてみせます」


「そうこなくちゃね」


「ですが、辛い時は必ず教えてください。それが命令を果たす条件です」


「……なんでみんな私の命令にすんなり頷かないのかな。もしかして舐められてる?」


「ええ、たぶん」


「おいコラ。冗談で言ったんだけど、ロゼッタはそう思ってるってことね。でもまあいいわ。約束します」


 私がそういうと、エミリアはやっと納得した顔で頷いた。そのままノアの治療に専念する。

 今の話を聞いて、慌ててマルセル様が殿下に詰め寄った。


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