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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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謎の大男

「はあ、はあ、はあ……っ」


 左腕を押さえつつ立ち上がる。爆発した箇所を見ると、未だ煙が上がっていた。

 その先、ロゼッタが左手を掲げているのが見える。たぶん、先ほどの爆発はロゼッタが魔法を使って起こしたのだろう。助かった。


「早く、みんなの所へ、行かないと……っ」


 出血してしまったから、このままじゃあ私もダークウルフの最重要標的になってしまう。

 血のついた手で剣を握り、疲れた身体に鞭打って歩き出す。すると、横から左目を押さえたままナイフを握るジェスが私に襲いかかってきた。


「てめぇだけはぶっ殺ぉぉぁぁす!!」


 ナイフは剣で防いだけれど、ジェスの勢いがすごくて弾き飛ばされる。なすがまま、私は後ろの木に衝突した。その時、握っていた剣が手から滑り落ちる。


「いっつー……はっ!」


「死ねぇぇぇ!」


 血走った目のジェスが、ナイフを掲げ私めがけて突進してくる。避けようにも、木に強く打ちつけてすぐに身体が動かない。


 ヤバイ、殺される!


 思わず目をつむる。しかし、その直後甲高い金属音が聞こえた。


 なんだろう。そう思いゆっくり目を開ける。すると、私の目の前にラインハルト殿下が立っていた。彼は私を守るようにジェスのナイフを剣で防いでいる。


「殿下!」


「まったく。お前はいつも勝手に動きやがって。ロゼッタに同情するぜ」


「邪魔すんな、テメェ!」


「断る。俺はこいつの護衛なんでな!」


 ナイフを弾いて、殿下はジェスへと攻撃を始める。片目が潰れている分不利なはずのジェスは、それでもなんとかかわしていた。


「殿下、そいつのナイフには毒が仕込んであります。気を付けてください」


「ほう。卑怯な奴だな。見ててイライラする」


「クソ、クソ、クソ、クソ! 邪魔すんじゃねーよ。アンジェリークだけはぶっ殺さないと、腹の虫が収まらねぇっ。ぶっ殺す、ぶっ殺ぉす!」


「その前にお前が死ね!」


 殿下が思いっきり剣を振るう。すると、ついにナイフがジェスの手から離れた。殿下の剣が丸腰になったジェスに襲いかかる。

 しかし、それは寸でのところで止まった。いや、止められたと言っていい。一般の物の倍はあろうかという大きな剣が、殿下の剣を防いでいた。


「なにっ?」


 殿下の目が、剣にくっついている腕をなぞっていく。そこにいたのは、筋肉で武装したかのような大男だった。

 その男が殿下ごと剣で振り払う。すると、殿下はいとも簡単に後ろに飛ばされてしまった。そのまま、大男は殿下めがけて剣を振るう。


「くっ」


 辛うじて避けた先。たった一撃で背後の木が切り倒されてしまった。


「うわ、すごい力」


 さすがにこの攻撃を真正面から受けるのはマズイと思ったのか、殿下はただかわすことに集中する。剣はあんなに大きいのに、動きは私達が携帯している剣と同じくらい軽やか。そのうち、避けきれなくなった一部が、殿下の右腕を掠める。


「殿下! 大丈夫ですかっ」


「……っ大丈夫だ。これくらいでいちいち騒ぐな」


 そう口では言っているけれど、その顔には焦りが見える。さらに大きな剣が加速度を増して殿下に襲いかかる。ついに避けきれなくなって剣を交えたが、パワーで圧倒され、殿下は後方に吹き飛ばされてしまった。


「殿下!」


 その様子を見て、ノアとギャレット様が殿下を守るように立ち塞がる。それでも大男はかかっていくのかと思っていたけれど。彼は攻撃は終わりとばかりに敵に背を向けて歩き始めた。そして、負傷したジェスをひょいと肩に担ぐ。


「グエン! テメェ何しやがる。降ろせ! 俺はアンジェリークをぶっ殺すんだっ」


「ここはもう危険だ。逃げた方がいい」


「あぁ? 人を殺したこともねぇ下っ端のくせに、俺に意見してんじゃねーよ!」


 その時、グエンと呼ばれた大男の目がギョロリとジェスを睨みつけた。その迫力に、さすがのジェスも言葉を飲み込む。その後でグエンは殿下達を一瞥した後、森の中へ消えてしまった。それを確認して、ノアもギャレット様も警戒を解く。


「殿下、大丈夫ですか?」


「あ! 腕に怪我してるっ」


「これくらい大丈夫だ。それよりも、さっさとここから立ち去るぞ」


 大男がいなくなったのを確認して、ロゼッタも私の元に駆けつけてくれた。


「アンジェリーク様、ご無事ですか?」


「……ええ。ちょっと左腕に矢が刺さっちゃったけど、これくらいなら平気」


「そうですか」


 ロゼッタがホッと安堵の息を漏らす。そんな姿に安心して、やっと肩の力が抜けた。ロゼッタは素早くハンカチを取り出すと、慣れた手つきで私の怪我をした左腕にそれを巻きつけ止血する。


「ロゼッタ、ありがとね。爆発であいつの気を逸らしてくれて」


「いえ。本当は炎で燃やしてやりたかったのですが。いかんせん、奴はアンジェリーク様に馬乗りになっている状態でしたから。あなた様も被害に遭われるのではないかと少し躊躇ってしまいました」


「十分よ。おかげで奴の毒の餌食にならずに済んだわ」


「毒?」


「あいつ、ナイフに毒仕込んでたの」


「ああ、なるほど。ダークウルフが不審な倒れ方をしたのはそのせいでしたか」


「めっちゃ焦ったわよ。でも、あなたとお父様の訓練のおかげで、なんとか死なずに済んだ。ありがとう」


「まったく、あなた様という人は……。立てますか?」


「うん」


 立ち上がって剣をしまう。そして、ロゼッタと一緒にジル達が待つ場所まで移動した。すると、心配そうな顔のルイーズが私を出迎える。


「アンジェリーク様! ご無事ですか?」


「うん。ちょっと怪我しちゃったけど大丈夫。みんなは?」


「無事です。誰も怪我とかしてません」


 ジルの言葉通り、ナターシャ達は無事そうだった。


「ジル、ルイーズ。みんなを守ってくれてありがとう。おかげで助かったわ。さすが私の私兵ね」


『はい! ありがとうございますっ』


 褒められた二人は、嬉しそうに顔を綻ばせて敬礼してみせる。たぶん、ギャレット様のが移ったんだろう。なんだか可愛い。

 そうこうしているうちに、全員が一箇所に集まり終わる。それを確認して、殿下が号令を発した。


「よし。では、今から全員でこの場から離れるぞ」


『はい!』


 コレットはもう限界そうだったので、ギャレット様が背負うことになった。ナターシャにも提案してみたけれど、自分は走ると言って辞退した。


「ロゼッタもおんぶしてあげようか?」


「必要ありません。怪我人に心配されるほどではありませんので。どうぞお気遣いなく」


「あっそ」


 まあ、そういうと思ったけど。ふと後ろを振り返れば、盗賊達もこちらへ逃げてきていた。


「行くぞ!」


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