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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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いったい何者?

 ルイーズが、ふう、と息を吐く。あまりの驚きの光景に、私だけでなく、ジルとルイーズとロゼッタ以外の全員が唖然としていた。それだけじゃない。周りにいた盗賊達までもが、今の光景に怯えて後退りする。


「今の何!? 石早すぎて見えなかった。あんなの、もう銃じゃん!」


「銃? 銃とはなんですか?」


「へっ? じゅ、銃とは……今みたいな小さな金属を火薬を使って遠くに飛ばす武器よ。目に見えない速さで飛んでいくから、殺傷能力は極めて高い」


「なるほど、金属ですか。確かに、金属属性の魔法を使う人が、弓矢に代わるこのような技を使っていたのを覚えています。それで今回採用したのですが。それに近いということですね?」


「まあ、実際に見たことないから何とも言えないけど。多分合ってると思う」


 いやいやいや、その説明は置いといて。


「ルイーズ、今のなに?」


「実は、孤児院にいた頃、みんなに内緒で魔法使ってジルと二人で的当てゲームをしてたんです。今回のはそれの応用です」


「なるほど。例のヤツってのは、その遊びのことだったんだ」


「はい。もちろん、遊んでいた時はこんなに速くありませんでしたよ。ジルが石を投げるのと同じくらいのスピードでした。ただ、その話を師匠にしたら、使えそうだからそれを応用しようということになって」


「使えそうって……さすが鬼教官ね」


「有効的な技は多いに越したことはありませんから」


「でも、なんであんなに早く飛んだの? ギャレット様に向けて放った石槍みたいなのは、そんなに速くなかったよね?」


「ああいう複数の物体を飛ばす場合、どうしても魔力が分散してしまい、その分威力が落ちてしまいますから。それに、大きければその分空気抵抗も受けてしまう」


「だから、そこまで速くならない」


「ええ。ですが、小石程度なら空気抵抗は少なく済みますし、その分スピードも上がる。そこに魔力を一極集中させ加速のみに専念させれば、スピードも破壊力も桁外れの代物になります。今回はそこに焦点を当ててみました」


 ロゼッタがルイーズに目配せして、周りを払うような仕草をする。すると、ルイーズは私達の周りを囲うように土の球体を浮かせると、それらを盗賊達に投げつけた。男達は「ひいっ」と顔を引き攣らせてさらに後退する。これならすぐに襲ってくることはなさそうだ。


「理屈では可能ですが、実際やってみるとなかなか難しかったようです」


「だって、今までは何も考えず土にまんべんなく魔力をかけるだけでよかったのに。それを小石一個に過不足なく集中させるのって、結構集中力を使うんですもん」


「はじめのうちは、全然飛ばなかったり、むしろ集中させすぎて木を倒したりしてたもんな」


『木を!?』


 ジルの言葉に、私とエマとナターシャの声がハモる。ルイーズは恥ずかしそうに頬を染めた。


「自分でも、そんなに破壊力があるなんて思いませんでした。それに、魔力を意図的に一箇所に集中させるのって結構大変なんですね」


「慣れればそこまでではありません」


 ロゼッタはしれっと言う。あんたにかかれば、すべてのことは大概そうだろうよ。


「今のってさ、ロゼッタでもできんの?」


「いいえ。私は土魔法の使い手ではないので、魔力を石に伝えることができません。ですから不可能です」


「そうなんだ」


「私の場合は、魔力を一箇所に集中させて爆発を誘因することはできます。ああ、でもそうですね……石は脆いのでわかりませんが、そこそこ強度のある金属片の手前に魔力を集中させ爆発させれば、爆発時の風圧でルイーズのように飛ばせるかもしれません。今度やってみましょう」


「やるの!?」


「はい。上手くいけば先ほどのルイーズのように、弓より速く物体を飛ばせますし、破壊力もありますから」


「それこそ銃じゃん……」


 もしロゼッタが銃ほどの武器を手にしたら、それはもはや人間兵器。それこそ無敵じゃん。そんなルイーズを見て、エマがボソリと呟く。


「あなた達、いったい何者……?」


「それはこっちのセリフ。あなた達こそ、なんで盗賊なんかに追われてるのよ」


「それは……」


 エマは押し黙る。よっぽど言いにくいことなんだろう。イネスの咳も先ほどよりひどくなっている。


「まあいいわ。話はこいつら片付けた後に聞きましょう。どうせあともうちょっとで終わりそうだし」


「油断大敵ですよ。まだ戦況はわかりません」


「確かに人数は多いかもしれないけど。こんな雑魚達相手に私達が負けるとでも?」


「もし、相手が盗賊達だけなら問題ないでしょう」


「盗賊達だけ? 何その含みのある言い方」


「いえ。ただ、今ここは人の血が溢れています。もしかしたら、もうそろそろ厄介な奴らが嗅ぎつけてくるかも……」


「厄介な奴ら? それって……」


 何、と聞こうとしたら、奥の方から「ぎゃあっ!」という悲鳴が聞こえた。見ると、先ほどルイーズが射抜いた弓使いが、ダークウルフに襲われている。少しして、彼の声は聞こえなくなった。


「ダークウルフ!? なんでっ」


「人の血の匂いを嗅ぎつけてきたのでしょう。元々ここは魔物が出る地域らしいですから、もしやとは思っていたのですが。予想が当たってしまいましたね」


「予想がって……それもっと早く言いなさいよ」


「言うタイミングがありませんでした。申し訳ありません」


 ロゼッタが素直に謝る。ということは、本当にタイミングがなかったのだろう。なら、これ以上文句言えない。

 よく見れば、もう四方八方から「ぎゃあっ」だの「助けて!」だの、盗賊達の悲鳴があがる。そこでようやく殿下達も異変に気付いたようだ。


「おいおい、ダークウルフの群れかよ」


「いつぞやの再来ですね」


「うわぁ、これヤバイんじゃない?」


 そうこうしている間に、ダークウルフはどんどん私達へと近付いてくる。ノアじゃないけど、確かにこれはヤバイ。


「殿下、どうしますか?」


 一応お伺いを立ててみる。でも、武人気質の彼なら、残らず駆逐する、とか言い出すかもしれない。まだ周囲には盗賊達がいて、さらには俊敏な魔物の群れまで現れて。尚且つこっちには小さい子までいる。どう考えても、その答えは現状把握ができてなさすぎる。


 そう思っていたんだけれど。


「逃げるぞ」


 彼が出した答えは、逃げる、だった。


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