目指すは世界一の魔法師
大きな火の玉は、私達の背後にあった大きな木に直撃する。すると、その木や周辺の植物達が燃え始めた。それを見て、コレットが悲鳴をあげ、ノアが叫ぶ。
「マズイ! 植物達が……森が燃えちゃうっ」
「バカな! こんな深い森の中であんな大きな火の魔法を使えば、森が燃えるリスクが高くなることくらいわかるでしょうに。相手は何を考えているのか」
ロゼッタが不快感を露わにする。同じ火の魔法使いとして許せないのかもしれない。それよりも、早く消さないとまた大規模な山火事に発展しちゃう。
「くそっ」
私は火の元まで走ると、上着を脱いで、それを叩きつけるように火に当てる。それを見て、ラインハルト殿下が顔を赤くした。
「おまっ……痴女か!」
「早く消さないと! また山火事になったら、今度はシャルクの人達が危険に晒されるっ」
「っ……! わかった」
「殿下!」
ラインハルト殿下が、ジャケットを脱いで私と同じように火を消そうとする。ノアもギャレット様も同じように参加した。しかし、火の勢いは強く、どんどん周りの植物達を侵食していく。それを見て、ロゼッタがルイーズに指示を出した。
「ルイーズ、あの炎に向かって、思い切り土を被せなさい。消えるまで何度も」
「土を?」
「できますか?」
ロゼッタがルイーズを見つめる。一応尋ねてはいるけど、あなたならできる、とその目は語っていた。ルイーズも師匠のその思いに応える。
「もちろんです」
力強く頷くと、地面に手を添える。すると、周辺の地面が激しく蠢き始めた。ナターシャとコレットが不安そうな顔をする。
「な、何っ?」
「すみません、ナターシャ様、コレット様。少し揺れますよ」
直後、二十五メートルプール程の地面が宙に浮いた。そしてあっという間に砂レベルまで粉砕される。
「みなさん、逃げてください!」
ルイーズのその叫びで、私達は炎から一旦離れる。そして、それを確認した後、彼女の号令で土は炎へと覆い被さっていった。それは波のように、何度も、何度も。
「おいおい、マジかよ……」
「こんな大きな魔法を正確にコントロールできるなんて。しかも顔色一つ変えずに。彼女何者?」
殿下とノアがルイーズの魔法を見て唖然とする。
「ジル、これは相当努力しないと彼女に追いつけないぞ」
「わかってます。でも、負けるつもりはありません」
ギャレット様の言葉に、しかしジルは不敵に笑って応える。焦っているのではなく、どこか誇らしそうなその顔を見て、ギャレット様は「そうか」と同じく不敵に笑った。
そのうち、何回目かの土アタックでようやく火は消えた。
「ルイーズすごい! あんな魔法の使い方ができるなんて」
「これも師匠の指導のおかげです」
ルイーズは少し照れながらも、魔法を使って飛んでいった砂達を集めて、くり抜かれた地面を元に戻していく。すると、あっという間に植物の生えていない土だけの地面が完成した。
「師匠、どうでしたか?」
「合格点です。火も消えましたし、抉った地面も完璧に元に戻っています。ただ、少々大きく地面を抉りすぎですね。周囲に人がいる場合は、あそこまで大きく抉り取るより、中程度をその都度火が消えるまで取っていく方が、周囲へのリスクが軽減されるのではないかと」
「なるほど」
「あと、土を飛ばす時のコントロールも気になりました。ギャレット様との戦闘の時も思いましたが、目標物への命中率がまだまだ低いようです。これは今後の課題ですね」
「あー、やっぱりそうですか。なんかまだ上手く操れないんですよね。重いというか、動きが鈍くなるというか」
「まだ魔力が上手く土に伝えられていないのでしょう。こればかりは数をこなして、自分なりの操るコツを掴むしかありません」
「はい、わかりました」
「ですが、今のであなたは実戦の方がはるかに覚えが早いと確信しました。突然の指示にも関わらず、自分で考えあそこまでできるとは。私も教え甲斐があります」
「……は、はい! ありがとうございますっ」
ロゼッタの微笑みを見て、ルイーズが誇らしげに胸を張る。ジル以外の男三人はというと、ロゼッタの批評を聞いて、信じられないと言いたげに口をポカンと開けていた。
「ウソだろ……。あれでまだまだだって言うのかよ。あんな魔法使っといて息一つ乱してないんだぞ。それだけでもすげーだろ」
「魔法師団の魔法師でも、あそこまで使いこなしている奴なんて見たことありません。国王軍の魔法師団なら、未経験と年齢と身分を考慮しても、入団と同時に小隊長を任せてもいいくらいのレベルです」
「ロゼッタさんの指導どうなってんの? 合格基準高すぎじゃない?」
殿下、ギャレット様、ノアがそれぞれ呟く。すると、ルイーズとロゼッタが淡々とそれに反論した。
「私が目指しているのは、世界一の魔法師ですから。師匠にもそのことを伝えて、厳しい指導をお願いしています。これくらいのことで満足してはいられないんです」
「彼女がそこまで覚悟を決めている以上、私も手を抜くわけにはいきませんから。たとえ私の指導で彼女が大怪我をしたとしても、彼女が音を上げない限りはこのスタイルを変える気はありません」
「変える必要なんてないですよ。むしろ、可哀想だからって手を抜いたら怒りますよ」
「私がそんな生優しい人間だとでも?」
「師匠はお優しいですから」
「そんなことをいうのは、アンジェリーク様とあなたくらいのものです。ですが、安心なさい。訓練に関しては情を持ち込みません。優しさは死に直結するだけですから」
「それを聞いて安心しました。これからもよろしくお願いします」
そう言って、ルイーズはロゼッタに頭を下げる。相変わらずルイーズは素直だな。指導に手を抜くなという意見には同意するけど、私はそこまで素直に従えない。
「何今の……何がどうなってるの?」
ナターシャが信じられないものでも見たかのようにボソリと呟く。それに私は笑顔で答えてあげた。




