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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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二人の妹

「何者でしょう?」


「動き方から見て、盗賊ではなさそうだが……」


 こういう時の二人は息ピッタリだ。ジルとルイーズまでもが警戒の色を強くする。そんな中、何かに気付いたノアが「あっ」と声をあげた。


「ナターシャにコレット!?」


 私達が、誰、と聞く前にノアが駆け出していく。すると、二人のうちの一人がノアに向かって走りだした。


「お兄様ぁ!」


 近付いてみると、それは二人の少女だった。一人はジル達と同じくらい。もう一人は十歳くらいの子だった。その小さな子は、ノアに勢いよく抱きつく。


「どうして二人ともここへ? しかも護衛も付けてないなんて。ここは魔物が出るから、僕やお父様か護衛が一緒じゃないと来ちゃダメって言われてるだろ?」


「だって、コレットがどうしてもお兄様に会いたいって言うから。コレットだけじゃなくて、他の妹達もお兄様に会いたがってます」


「そうなの?」


「そうだよ。でも、みんなで行ったらお兄様のご迷惑になるから、コレットが代表して会いに来たの。すごいでしょ」


 そう言って、コレットは誇らしそうに笑った。その笑顔が可愛くて、ノアも怒れないらしい。


「でも、そしたら護衛くらい付けなよ」


「お父様が行くのはダメだとおっしゃって、護衛を付けてくださらなかったんです。ですから、私が護衛の代わりになろうかと」


「ナターシャが?」


「私だって、お父様から剣を習ってますから。お兄様より筋が良いとも言われました。魔物くらい私が倒してみせます」


「そりゃ、お父様は娘には甘いから。僕と違って褒めて伸ばそうとしてるだけだよ。それに、魔物を倒すのはナターシャが思ってるより大変なんだよ。いくらなんでも、習いたての君じゃ危険すぎるよ」


 すると、明らかにナターシャの顔が面白くなさそうにムッとなった。


「武術が嫌いだと逃げ出すような弱虫なんかに言われたくありません。お兄様はダルクール家の跡継ぎとして失格です!」


「うっ……」


 痛いところをズブリと刺されたらしい。ノアはわざと心臓を押さえるフリをして、傷付いたアピールをしてみせる。そんな彼を、コレットは不思議そうに眺めていた。


 というか、私達完全に置いてけぼりなんですけど。


「ノア、傷付いてるところ申し訳ないんだけど。この子達は?」


「あ、ああ、ごめん。この二人は僕の妹だよ。こっちが長女のナターシャ、そしてこの子が次女のコレット。ほら、二人ともラインハルト殿下にご挨拶」


「殿下?」


「この国の王子様」


 そう言って、ノアはラインハルト殿下を指す。すると、抱きついていたコレットは、人懐っこい笑みを浮かべながらスカートの端を軽く持ち上げた。


「はじめまして。コレット・ダルクールと申します。よろしくお願いします」


「ああ、こちらこそよろしく、コレット」


 ラインハルト殿下が優しく微笑みかける。すると、コレットは恥ずかしそうにノアの後ろに隠れてしまった。小さなお下げ髪が緩く揺れる。


「さすが女性にモテると豪語した殿下です。もう可哀想な子猫を増やしましたか」


「悪いな。特に年下にはモテるんだ」


 殿下は、ふふん、と自慢げに笑う。その様子がなんか腹立たしい。


「ほら、ナターシャもご挨拶」


「お兄様に言われなくてもそれくらいできます」


 ナターシャと呼ばれた彼女は、ノアにツンと強く当たる。先ほどの発言からわかるように、かなり気が強そうだ。それは貴族の令嬢には珍しいショートの髪型にも現れている。


「ナターシャ・ダルクールです。父がいつもお世話になっております」


「こちらこそ。魔物に襲われている時、マルセルの勇ましい戦い方に兵士達の士気も上がりとても助かった。良い父親を持ったな」


「……は、はいっ! 私も、父の勇猛果敢な戦い方は尊敬しています」


「そうか」


 うわー、マルセル様の話をしただけで、ナターシャの表情がパァッと明るくなったよ。


「殿下は、天然の女たらしですね」


「なんだ、ヤキモチか?」


「違います。軽蔑しているんです」


「そうか、そうか」


 私の嫌味に、しかしラインハルト殿下は楽しそうにクククっと笑う。軽蔑してると言ったのに笑って返すとは。どういう神経してるんだろ。


 そんな風に睨んでいる私をナターシャがじっと見つめる。


「お兄様、こちらの方は……」


「ああ、彼女? 彼女はあの悪名高い極悪令嬢、アンジェリーク・ヴィンセントだよ」


「あんたケンカ売ってるわね。高値で買うわよ」


「アンジェリーク様!」


 ノアを睨む私に、ナターシャが弾んだ声をあげる。その頬は紅潮しているようだ。


「アンジェリーク様って、あの山火事の中孤児二人を助けに行ったという、あのアンジェリーク様ですかっ?」


「そ、そうです。そのアンジェリークです」


「うわぁ! その特徴的な縦ロールの髪を見て、もしやとは思っていたのですが。まさかこんなところで本物に出会えるなんて感激です!」


「か、感激!?」


「ずっとお会いしたかったです。魔物が多くて誰もが諦めた二人の救出を、みなの制止を振り切って行ったとか。その勇敢なお姿、間近で拝見したかったです。是非お話聞かせてください!」


「…………………」


 その身にあまる羨望の眼差しに、思わずラインハルト殿下の背後に隠れる。


「どうした、そんなコソコソ隠れて」


「いや、あまりにも疑いのない真っ直ぐな瞳を向けられたので、私には眩しすぎるというか……」


「普段褒められ慣れていないので、我が主人はどう対処してよいのかわからないのでしょう」


 ロゼッタの言葉にうんうんと頷く。すると、ラインハルト殿下が悪戯っぽく笑った。


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