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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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保育園を作りたい

「ここにいたのね、コリン。探したわよ」


「ごめんなさい」


「あの、どうしてコリンはここにいるんですか? 普段はケイトさんと一緒にいますよね?」


 素朴な疑問を口にする。すると、その人は「ああ、そのことですか」と苦笑した。


「今、ケイトは仕事が忙しいみたいで、コリンを見てる余裕がないから、孤児の子達と一緒に面倒見てくれないか、って頼まれたんです」


「そうだったんですか」


「べつにここら辺じゃ珍しいことでもないですよ。魔物討伐で自警団員の夫を亡くし、幼い子どもを養うために働いている女性は結構います。だから、周りの人が協力して子どもの面倒を見てるんですよ。今だって、コリン以外にも何人か夕方まで預かっています」


「まるで保育園みたいですね」


「ほいく……なんですか?」


「いえ、気にしないでください。それよりも、そんなことになっているなんて知りませんでした。ヴィンセント家の者として恥ずかしい。ごめんなさい」


「いーえ、むしろこんなことを勝手にしてしまって、こちらこそ申し訳ありませんでした。お昼ご飯もココットの善意で提供してもらって。よろしかったですか?」


「もちろん、構いませんよ。むしろ気にせずどんどんやってください。相変わらず食材は保管しきれないくらいみなさんからいただいてますし。子ども達のためになるのなら、お父様も反対はされないでしょう。ニール様は私が説き伏せます」


「まあ、頼もしい。ありがとうございます」


 そう笑いながら、女性はバイバイするコリンと一緒にみんなの元へと戻っていった。


「みんな大変なのね」


「そうですね。特に子持ちの未亡人は、なかなか雇ってくれる場所が少ないので大変かもしれません。そういう嘆きを昔よく聞きました」


「子どもの預け先とか、子どもが体調不良の時の取り扱いとか、制約がいっぱいあるもんね。働いて稼がないと生きていけないし」


 うーん、と顎に手を当てて考え込む。元盗賊の四人は何事かとオロオロしていた。


 この世界での女性の立ち位置はそれほど良くない。ましてや平民レベルだと、それほど社会保障も確立されていないから、シングルマザーなんか絶対大変に決まってる。それは子ども達の未来のために良くない。


「このままの流れで保育園でも作るか」


「保育園?」


「大雑把に説明すると、ケイトさん達みたいな働いてる親のために、代わりに子どもを預かって保育する場所のこと。今日のコリンみたいな」


「その場所をカルツィオーネに作ると?」


「うん。そうしたら、夫を亡くした母子でも少しは働きやすくなるかなって。別に片親世帯に限らず、両親が共働きの世帯とかも。そうすれば、潜在的な労働者が増えるかもしれないし」


「なるほど。そういえば昔、子どもの将来のために自身も働きたいという女性の話を複数聞いたことがあります。でも、子どもの面倒を見ないといけないから難しいと」


「なんであんたはさっきから、昔の話ばっかりなのよ」


「あなた様と出会ってからは、ずっとアンジェリーク様のおそばにしかいませんから。下町に下りることすらなくなりましたし」


「そっか、それもそうね。もしかしたら、もっとこうして欲しいって言う要望はいっぱいあるのかも」


「だからといって、直接領主に意見することはないと思いますよ。下手をすれば領地運営を批判しているとみなされ罰が与えられるかもしれませんし」


「お父様はそんなことしないわ」


「ニール様はわかりませんよ」


「……あり得る」


 あの腹黒眼鏡ならあり得る。クレマン様を非難するとは何事かと。まあ、そこまでバカな人じゃないと思うけど。


「んー、でもやっぱり保育園は作りたいな。働き手が増えればそれに越した事はないし。学校ができたら、ある程度の年齢になったらそこへ行くようにすれば、預かり場所が学校になるだけで、しかもそこで勉強もできるし。長期計画だけど、カルツィオーネの底上げにも繋がる」


「今さらですが。どうしてそこまで子どもの環境にこだわるのですか?」


「これ、私の持論だけど。子育て環境が整ってる地域には人が集まりやすい。何故なら、子どもの幸せだけでなく、自分の幸せも確保されるから。どちらかの自己犠牲で成り立つ環境は、どこかで歪みを生む。それが解消される場所があるなら、みんな住みたいと思うんじゃないかな」


「なるほど」


 前世の時、働きたいのに子どもができたから仕事を辞めた人とか、社会との繋がりを欲している人とか、自分の時間が欲しい人とか、色んな人の話をテレビやネットで見聞きしたことがある。


 もしかしたら、それはこの世界でも一緒なんじゃないだろうか。今回の話を聞いてそう思った。案外、異世界でも共通の問題なのかもしれない。


「学校に保育園と、作りたいものがいっぱいですね」


「誰か私にお金をちょうだい」


「自身で稼いでください。それか、クレマン様に頼んでみては? 娘には激甘なようですし」


「そんな大きなワガママ言えるわけないでしょ。それに、きっとニール様がダメって言うわ。お前のワガママに金なんか使えるか、ってね」


「すごいですね、その時の表情まで想像できました」


「私もよ」


 はあ、とため息をつく。ふと男達四人に視線を向けると、彼らはみな一様にポカンと口を開けて固まっていた。


「何よ。どうしたの?」


「あ、いやっ。アンジェリーク様がカルツィオーネのことを真剣に考えてる姿が意外だったというか……」


「領地運営まで考えるんだって思って」


「ほんとに十五歳っすか? 俺には話が良くわかんなかったっすけど」


「えっ!? な、何言ってんのよ。私は正真正銘十五歳よ。ちょっと人より大人びてるだけ」


『はあ』


 そうだった。今の私は十五歳。あんまり派手な事すると怪しまれるかもしれない。


 背中に冷や汗が流れたその時、お屋敷の玄関扉が開き、そこからニール様が現れた。


「なんだ、四人ともいたのか。遅いから仕事が立て込んでいるのかと思った」


「あっ、すみません! 途中でアンジェリーク様と出会って、つい話し込んじゃいまして」


「そのようだな。だいたい見ればわかる」


「いちいち嫌味ったらしい言い回しありがとうございます」


 ニール様に向けて唇を尖らせる。彼は不愉快そうに眼鏡の位置を正した後、男四人に声をかけた。


「早く中に入れ。クレマン様がお待ちだ」


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