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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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アンジェリークの奴隷になるということ

「アンジェリーク様!」


「あ、元盗賊の奴隷達」


 滑らかにそう言うと、四人は「えぇー……」と肩を落とした。


「その言い方はないですよ」


「だって、ほんとのことじゃない」


「そりゃそうですけど……」


 その顔は不服そうだ。そんな四人はというと、所々顔や服が汚れている。あれからというもの、彼らは毎日クタクタになって帰ってきては、朝バタバタと兵舎を飛び出している。


「ちゃんと働いてるみたいね」


「そりゃそうっすよ。毎日布団で眠れて、三食まともな食事にありつけてるんすよ」


「これが奴隷として働いた報酬だってんなら、これが続くよう頑張りますよ。もう前みたいな惨めな生活はごめんっす」


「そっか。ヘルマンさんからも、三人はちゃんと真面目に働いてて戦力になってる、って聞いてるから。だから、これからも頑張ってね」


『はい!』


 盗賊として初めて出会った時とは比べ物にならないくらい、四人とも顔つきが良くなった。煤で汚れていた食器が、綺麗に磨かれて本来の姿を取り戻したような、そんな感じ。


 こっちは四人を利用している手前、こういうことを思うのは偽善なんだろうけれど。何か良い事をしたような気になって嬉しい。


「そういえば、どうしてここにいるの? まだ仕事中よね?」


「それが、ヘルマンさんから、ニール様が呼んでるから屋敷へ行け、って言われて。それで来たんです」


「ニール様から? なんだろ」


『さあ』


「もしかして、カルツィオーネから出て行け、って言われたりして」


『えぇ!?』


「冗談よ、冗談。あんた達はこの人手不足のカルツィオーにとって、大切な若い働き手なんだから。利用価値が下がるか裏切って逃げ出さない限り、出て行けとは言わないはずよ」


「良かったぁー」


 ほんとにホッと胸を撫で下ろしてるから面白い。私もお屋敷に向かっているので、途中まで一緒に行くことにした。


「どう? 職場は。働きづらくない?」


「それが、俺達もある程度キツく当たられるの覚悟してたんですけど」


「アンジェリーク様の奴隷だって言ったら、みんななんか同情的というか、憐れみの込もった目で俺達を見てて」


「は?」


「逆に心配されたりしてるんすよね。お前ら大丈夫か? って」


「アンジェリーク様、いったい何したんですか」


「……べつに何もしてないわよ」


「ほんとにぃ?」


「ほんとだってばっ」


 たぶん、みんな冗談で言ってるのよね? 私そんなにひどい扱いしてないし。気のせい、気のせい。


 ははは、と乾いた笑いをしてみる。すると、向こうから二人の少女が走ってきた。よく見ると、一人はロゼッタ、もう一人はケイトさんの娘のコリンだった。


「ロゼッタにコリン、どうしたの?」


「いえ、アンジェリーク様がなかなか戻って来られないので。心配で見にきました。コリンとはその途中で出会っただけです」


 ロゼッタがそう言うと、コリンはペコリと会釈した。


「そうだったんだ。ごめん、ごめん。さっきこの四人と出会って話聞いててさ。ちょっとのんびりしちゃった」


「ロゼッタさん、アンジェリーク様の奴隷だって言ったら、みんな同情的な目で俺達を見てくるんすけど、あれなんでなんですか?」


「こら! それ言うなっ」


 聞かれたロゼッタは一度瞬きをする。その後でフッと笑った。


「知らないのですか? アンジェリーク様は、極悪令嬢という通り名を欲しいがままにしている大悪女です。領民ばかりでなく、目的のためなら手段を選ばず、あの殿下ですら平気で顎でこき使う。自身の利益のためならば、領民やクレマン様ですら手のひらの上で操り高笑う。そんな欲深い人です」


「え……」


「今あなた達が修復している城門も、アンジェリーク様が私に壊せと命令したからああなったのです」


「な、なんでそんなこと」


「魔物討伐を渋っていた自警団員や国王軍の兵士達を、強制的に戦わせるためです。自身の保身のためなら他人の犠牲も厭わない。本当に恐ろしい悪女です」


「かなり誇張されてるんですけど!」


「あなた達も気を付けた方がいいですよ。殿下ですら鼻歌混じりに利用する方です。アンジェリーク様にとって奴隷など、人とは考えていないでしょう。どんな過酷な命令を下されるか、日々覚悟して生きることをおすすめします」


『は、はい!』


 あわあわと四人は身体を震わせて返事をする。ロゼッタの言ったことを真に受けたらしい。こいつ、ちょっと楽しんでんな。


「誇張しすぎだとロゼッタを怒りたいけど、それを信じるこいつらも許せん。もっと過酷な仕事をさせてやろうかしら」


『えっ!?』


 四人が一斉に顔を引き攣らせる。そんな情けない姿を見ていると、怒るに怒れなくなった。


「冗談よ。ただ勘違いしてほしくないのは、私が善意であなた達に仕事を与えているのではないということ。詳しくは言えないけど、とある目的達成のために、私はあなた達を利用している。だから、感謝なんかしちゃダメよ」


 そう言うと、四人は口を開けてポカンとしていた。男四人の間抜け面はなかなか面白い。なんて微笑んでいると、コリンがロゼッタの服をツンツンと引っ張った。


「アンジェリーク様は、そんなひどい人じゃありません。だって、家が燃えてる時私を助けてくれましたから。とっても良い人ですよ」


 そう必死になってロゼッタへと食い下がる。すると、さすがのロゼッタもたじろいだ。


「いえ、今のは戒めというか何と言うか……」


「いましめ?」


「これはあくまで推測ですが。みながアンジェリーク様の奴隷と言われた四人に同情的なのは、たぶん従者である私を見ているからなのではないかと。主人の命令で死にかけたこともありますし、奴隷であればもっと大変に違いないと考えているのやもしれません。ですから……」


 ロゼッタの必死の説明に、しかしコリンは首を傾げる。そりゃそうだ。子どもに話すにはちょっと難しすぎる。たぶん、ロゼッタもそう思ったのだろう。


「アンジェリーク様のことを悪く言ってしまって、申し訳ありませんでした」


 降参とばかりに、ロゼッタはコリンに頭を下げる。コリンはと言うと、自分の主張が伝わったとホッと安堵の表情を浮かべた。


「人類最強の暗殺者も、子どもには勝てないのね。弱味握ったり」


「べつに弱味ではありません。苦手なだけです」


「はいはい」


 ロゼッタの反論は軽く受け流し、私は守ってくれたコリンの頭をなでる。


「私を守ってくれてありがとね」


「いいえ。どういたしまして」


「それで。コリンはどうしてここにいるの?」


 彼女は孤児ではないし、ヴィンセント家のメイドでもない。普段はケイトさんと一緒にいるはず。それなのにどうしたんだろう。


「お母さん、今忙しいみたいで。それでここに行きなさいって言われて来たんです」


「ここに? なんで?」


 しかし、コリンは首を横に振る。彼女もそこまでは知らないらしい。


 すると、孤児達のいる方角から一人の中年女性がコリンに駆け寄ってきた。あの人は知ってる。ボランティアでジゼルさんの代わりに孤児の子達の面倒を見ている人だ。


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