魔法具の性能
その日以降、ノアは仮面を付けるのをやめた。そして、日中することが無く暇そうだったので、庭の手入れを提案すると、「いいの!?」と目を輝かせた。
「実はずっと気になってたんだよ。こんな荒れ放題の庭初めて見たから、植物達のためにどうしてもきちんとお手入れしてあげたくて。それに、一度でいいから自分でお庭を作ってみたかったんだ。でも、お父様には庭師みたいなことはするな、って怒られちゃったからさぁ。それに人ん家の庭だし。そう思って我慢してたんだよ」
「まあ、普通は庭師がやるんだろうけど。残念ながらうちに庭師はいないし。私は相手が貴族の子息だろうがなんだろうが、使えるものはなんでもこき使う主義だから。タダ飯食らいなんてもってのほか。ここにいる以上、三食分きっちり働いてもらうわよ」
「任せてよ! あぁ、こうしちゃいられない。早く道具取りに行かなきゃ」
「着替えもちゃんとすんのよー」
「はーいっ」
という感じで、ここにいる間、ノアは張り切って庭の手入れをしてくれている。
「さすがアンジェリーク様。男爵家の子息でも顎でこき使いますか」
「適材適所って言うのよ。ああ言っとけばノアもここに居やすくなるでしょ」
「べつに、居づらくなって家に帰っていただいてもよろしかったのに」
「なんであんたはノアに対してそんなに厳しいのよ」
「家に帰った方が良いのは事実ですから。それに、誰か様が安易にノア様をたらし込んだからです。まったく、面白くない」
「え? たらし込んではないでしょ。だったら彼の性格上もっとグイグイくるだろうし。ロゼッタったら何言ってんだか」
すると、ロゼッタが眉間に深いシワを作って私を睨んだ。何言ってんだコイツ、と顔が訴えている。
「なによ」
「いえ、呆れてものが言えないだけです。お気になさらず」
「あっそ。じゃあ気にしなーい」
フイとそっぽを向く。ロゼッタのため息が深くなったような気がした。
昼食後の昼下がり。私とロゼッタは屋敷の外にいた。
「さてと。じゃあ、こいつ試してみましょうか」
「はい」
こいつ、と言って指さしたのは、私の左手中指に嵌った例の指輪だった。前言っていた通り、本当に使えるのかこれから試すのだ。
お互い反対方向へ進み、ロゼッタはお屋敷の中へと入っていく。私はさらにお屋敷から離れて、敷地内ギリギリの所まで歩いた。どう考えても、肉声では届かないだろう。
ふう、と息をつく。すると、突然指輪の青い宝石部分が淡く光った。その後でロゼッタの声が続く。
『アンジェリーク様、聞こえますか?』
「うん、聞こえる。そっちは?」
『ええ、聞こえます。どうやらこれは本物みたいですね』
「すごーい。ほんとに声が届いた。魔法具ってすごいのね」
『声も鮮明に届きますし、なにより魔力消費がごく微量なのにこの性能は素晴らしいです。質の悪いものは、性能はそこそこなのに魔力消費だけは激しい物が多いですから』
「そうなんだ」
『ええ。ですから、少なくともここまで素晴らしい魔法具を見たのは私も初めてです』
「つまり、コスパ最高ってやつか。これ作った人すごい」
『それもありますが、ここまで性能の良い魔法具を、あの値段で販売していることが驚きです。普通なら今回購入した値段の二桁上はいくかと』
「二桁!? 大丈夫かな、あのおじいちゃん。ヨボヨボだったし、値段間違えちゃったんじゃ……」
『たとえそうだとしても、もう売買は成立した後です。それに、この価値に気付かず販売している可能性もあります。実際、そういう事例は多いですから』
「ただの落書きだと思ってたら、有名な画家の絵だった……っていう掘り出し物見つけたっていうパターンね。だったらおじいちゃんには申し訳ないけどラッキー」
そんなすごい魔法具を掘り当てる私ってすごい。ここんとこ魔物に襲われたり、盗賊に襲われたりでいいことなかったから。神様が憐れんでちょっとした幸運を分けてくれたのかもしれない。
「じゃあ、確認もできたし。そっちに戻るねー」
『わかりました』
ロゼッタの声の後、宝石から光が消える。すると、それはただの指輪に戻った。
「他にも魔法具ってあるのよね。どんなのがあるんだろ」
そんなことを考えながらお屋敷に向かって歩いていると、後ろから声をかけられた。




