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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ノアのコンプレックス

「ごめんね、アンジェリーク。僕は本当に差別してるつもりはなかったんだ。ただ、僕妹が五人もいるから。一番下なんかまだ三歳だし、いつもみんなの面倒見てたから、この子達を守らなきゃって思うようになってて。だから、その……。ああ、でもこれじゃあ言い訳っぽいね」


「確かに言い訳っぽく聞こえるわね」


「言い訳ですね」


「そう、だよね」


 ロゼッタの追い討ちに、ノアがシュンと肩を落とす。そんな姿が可笑しくて、私はまたクスっと笑った。


「あんたの言い分はわかったわよ。今回はこうして湿布も作ってくれたわけだし。ここら辺で仲直りとするわ」


「本当!? 良かったぁ。もう二度とコドモダケに触らせてもらえないかと思った」


「やっぱり今すぐ出て行って」


「じょ、冗談だって!」


 いや、たぶん七割は本心だろう。まあ、それがノアだから仕方ない。そのコドモダケはというと、いつの間にか私のベッドのど真ん中でくうくう寝息を立てて寝ていた。


 窓からは、相変わらず穏やかな風と訓練生達の声が入ってくる。この心地よい静寂を破ったのはノアだった。


「僕さ、見た目で判断されるのが嫌なんだ」


「は? どゆこと?」


 首を傾げていると、ノアは白い仮面をスルスルと外した。現れたロゼッタ顔負けの美貌に、思わず眩しくて目をつむりたくなる。しかし、その顔は深刻そうだった。


「この顔見てどう思う?」


「嫌味かこのやろうって思う」


「いや、そうじゃなくって」


 ノアがため息をつく。そうじゃないって、いったい何が言いたいのだろう。


「ダルクール家は、代々武術に長けた一族だって知ってるよね?」


「うん」


「そのせいか、お父様も、おじい様も、歴代のご当主様も、みんな顔つきが勇ましいんだ」


「勇ましいって……。まあ、確かにマルセル様は格闘家みたいな厳つい顔つきしていらっしゃるけれど」


「そう。でも、僕だけ違う。昔から綺麗とか、女の子みたいとか、天使みたいって言われることが多くって」


「え、これ自慢?」


「しっ。お静かに」


 ツッコミをロゼッタに止められた。ノアは気にせず続ける。


「子どもの頃はそれでも良かったんだけど。大きくなるにつれて、僕の顔はダルクール家に相応しくないとか、ダルクール男爵の本当の子どもじゃないんじゃないかとか、周りから色々言われるようになってさ。あまりにもそう言われ続けると、だんだんと自分の顔が嫌になってきて」


「ああ、だから仮面付けてたのか」


「そう。なんでみんな見た目だけでそんなこと言うんだろう。どうして僕個人をちゃんと見て評価してくれないんだろう。そんな風に見た目だけで判断する連中なんか最低だ、ってずっと蔑んでたんだけど。でも、今日の一件でわかった。僕もそいつらと一緒だったんだって。だから、女性だからって差別してごめん」


 ノアはそう言って頭を下げた。つられてマルセル様譲りの金髪がサラサラと流れ落ちていく。


 ノアは、興奮すると無意識に失礼な発言をしたり、不審者扱いされるような言動が多いけど。根は素直で優しい子なんだろうと思う。だからこそ、みんななんとなく許してしまう。今の私みたいに。


「もういいよ。こうやってちゃんと謝ってくれたし。それに、こんな素敵な湿布も作ってくれたしね」


「ほんと?」


「本当」


 思わず苦笑する。ロゼッタはというと、何も言わずただ肩をすくませただけだった。


「人間ってさ、自分のことはよくわからないものなのよね。私だって、貴族の令嬢だからって周りの訓練生達が手加減してて、女だからって差別すんなって思うけど。でも、ノア見てて、男なんだからもっとシャキッとしろ、って思うのもきっと差別なんだろうし」


「そんなこと思ってたの!?」


「ほら、私の周りの男性ってしっかりしてるから」


「そりゃ、クレマン様やラインハルト殿下に比べたら、僕はウジウジしてるように見えるだろうけど。そんなことないよ……たぶん」


「そうね。きっとそうなんだと思う。つまり何が言いたいのかというと、人間自分の気付かないところで無意識に誰かを傷付けてるってこと。だから私は、みんなが見た目や性別で自分を差別したり決めつけたりするように、自分も誰かに対してそうしてるんだって思って、気を付けようと戒めてる」


「その割に、先ほどノア様には激怒されておりましたが?」


「それはそれ、これはこれよ」


「そうですよね、他人に厳しく自分に甘くがアンジェリーク様ですものね」


「……ロゼッタうるさい」


 図星なので大きく否定できない。ロゼッタもそれをわかってて言ってるんだと思う。ムッと睨むけど完全スルーされた。


「無意識に誰かを、か。確かに君の言う通りだね。僕もギャレット様を見た目だけで判断してたし」


「そうよ。ギャレット様なんかあの容姿のせいで、周りから散々ノアと同じこと言われてきたんだろうし。それでも腐らず努力して殿下達の近衛騎士になったんだから。あんたも見習いなさい」


「見習えって言われても……」


「戦闘能力は顔に出るわけじゃないでしょ? 顔が厳つくても虫一匹殺せない人だって世の中にはいる。だから、次何か言われたら、あんたの剣術見せてやればいいのよ。ギャレット様みたいに、人は見かけによらないって周りの連中に教えてやりなさい」


「それはそうだけど……」


「まあ、気にするなって言っても無理なんだと思うけど。じゃなきゃコンプレックスなんかになってないだろうし」


「そりゃそうだよ。わかってんなら言わないで」


「はいはい」


 そう適当に相槌を打つと、私はそのまま立ち上がった。そして、ノアの透き通った頬に触れる。


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