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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ロゼッタの問い

「ケイトさんがあんたに感謝してたわよ。ロゼッタさんの意見は、的確ですごく参考になるって」


「意見を述べるという条件で試作品を使用しているのですから。それくらいして当然です。ですが、アンジェリーク様の意見も奇抜で面白いとおっしゃっていたじゃありませんか。私には想像もできないようなアイデアを出してくれるって」


「まあ、それは前世の時のやつを思い出しながら出してるだけなんだけどね。まるっきり私のアイデアってわけじゃないわ」


「前世ではこのような下着が流行っていたのですか?」


「流行ってたというか、それが主流だったわね。私の頃は、十二、三歳辺りで付ける子が多かったかな」


「なるほど。最初は懐疑的でしたが、確かに付けてみると胸が固定されて動きやすいですね。ただ、少し窮屈な気もします」


「……それは貧乳に対する当て付けか!」


「は?」


 ミレイア様ほど大きくはないけれど、私ほど小さくもない。言うなればちょうど良い大きさ。それでも、貧乳の私には羨ましすぎる。


「また嫉妬ですか」


「ため息つくな」


「見苦しいですよ」


「憐れんだ目でこっちを見んな」


「人としての器の小ささが露呈しています」


「もっと優しく嫌味言って!」


 つい大きな声を出すと、左脇腹に痛みが走った。そんな私を見て、ロゼッタが水を張った洗面器に浸したタオルを、怪我をした私の左脇腹に当てる。冷んやりとした感触が気持ちいい。


「もしコルセットしてたら、こんな怪我しなかったかな?」


「どうでしょう。一度コルセットを付けて検証してみてはいかがですか?」


「うーん……防御力はほんの少し上がるだろうけど、素早さが落ちそうね。ロゼッタの言う通り検証してみようかな」


 なんて考えていると、ふいにロゼッタが私の髪に触れた。


「良かったですね、護衛が決まって」


「全然良くないわよ。なんであいつに護衛されなきゃいけないの。実に不愉快だわ」


「仮にも国の王子ですが。その発言は如何なものかと」


「べつにいいじゃない。私にとってはキャラクターの一人。子どもみたいなものなんだから」


「そうですか。ですが、これで少し安心致しました。ラインハルト殿下が護衛に付いてくだされば、周りへの牽制にもなりますし。ギャレット様もおまけで付いてくるので護衛能力としては心配ないかと」


「近衛騎士をおまけ扱いって、あんたも大概失礼ね」


「仕方ありません。言動が主人に似てきたのでしょう」


「何でもかんでも主人にせいにすんな」


「はいはい」


 まるで相手にしてない声で、ロゼッタはそう相槌を打つ。そして、再び冷水にタオルをつけて絞ると、黙ってそれを患部に当て直した。


 ここを掃除してくれた人が、空気の入れ替えのためか窓を開けていたらしい。そこから心地よいそよ風と、稽古をしている人達の声が部屋に入ってきてなんだか落ち着く。


 そんな中、私は核心を突いた。


「それで? 私に何か言いたいことがあるんじゃないの?」


 雑談と同じ声のトーンでそう尋ねると、患部を押さえているロゼッタの力がわずかに弱まった。


「……どうしてそう思うのですか?」


「顔にそう書いてある」


「そう、ですか」


 ロゼッタは一度天を仰ぐ。その後で、ふう、と長い息を吐いた。


「今の人生に、本当に後悔していませんか?」


「は? どういうこと?」


「私が馬車の事故を起こさなければ、アンジェリーク様は問題なくレオ様とご結婚され、貴族の令嬢としての幸せを掴んでいたことでしょう。ですが、私がその幸せを摘み取ってしまった」


「摘み取ったって……」


「私は、アンジェリーク様に出会って人生が一変しました。それこそ、馬車の事故がなければ今の私はなかったでしょう。そのおかげで私を受け入れてくれる居場所ができ、コソコソと隠れて生きる必要もなく、普通に周りの人達と笑い合いながら生活が送れる。今の私は、昔の自分が想像できないくらい毎日溢れんばかりの幸せをもらっています。ですが、私はその十分の一でもアンジェリーク様に幸せを返せているでしょうか?」


「それは……」


「今のあなた様は、周りから嫌われるという経験もされ、魔物や盗賊にも襲われ、命を狙われて恐怖さえ感じている。前者とはあまりにもかけ離れた人生です。そんなあなた様にとって、今のこの状態は本当に幸せなのでしょうか」


「………………」


「私は、自分が思っている以上に罪深いことをアンジェリーク様にしてしまったのではないか。私があんなことをしなければ、アンジェリーク様は今よりもっと幸せに暮らせていたのではないか。前から思っていたことではあったのですが。子どもの姿になり、護衛としての機能を喪失してから、ずっとこのことが頭から離れません。私はただ、アンジェリーク様に同じくらい幸せになっていただきたいだけなのに」


 ロゼッタが強く拳を握りしめる。本当にこの人は、こちらが油断しきった時にそんな重たい話をぶっ込んでくる。どう答えようかと悩むような質問をぶつけてくる。


 それでも。今みたいに人間らしく苦悩する彼女を見ていると、不思議と愛しさを感じた。


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