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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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訓練風景

 翌日の午前。


 私は、お父様と一緒に剣の訓練をしていた。


「遅い! もっと脇を締めて、相手の剣を見失うな」


「はい……っ」


 お父様の攻撃を剣で防ぎつつ、反撃の様子を伺う。しかし、その前に私の剣はお父様の力技の一撃によって弾け飛ばされてしまった。


「くそっ、……はあ、はあっ」


「何度も言うが。相手が男の場合、女性のお前は力では圧倒的に不利だ。真正面からバカ正直に攻撃を受けていては、今のように力でねじ伏せられる」


「はい」


「だから、力の逃がし方、相手の力を利用して自分に有利に働かせる術を身につけないとならない。技術は教えた。あとは身体で覚えるだけだ。これはいつも言っていることだぞ。いつになったら覚える?」


「……っ今日中には覚えます!」


「いつもそう言っているな。聞き飽きたぞ!」


 そう言うと、お父様は再び私と剣を交えた。近くにいた居残り組のジルや訓練生の何人かは、木陰で休んだりして私達親子の訓練を眺めている。ロゼッタはというと、肩にコドモダケを乗せてルイーズと一緒に見学していた。


 お父様との一対一の訓練は、厳しいけど楽しい。何故なら、お父様は私が女性だからといって手を抜かないから。仕方のないことだけど、他の訓練生達だとどうしても女性に剣を向けるのには抵抗があるらしい。だからこそ、私を一人の剣士見習いとして扱ってくれるお父様の存在はありがたかった。


「遅い!」


 お父様が再び私の剣を大きく弾く。その勢いに負けて、私は背中から倒れてしまった。


「今日はここまで。きちんと復習するように」


「……はいっ」


 ダメだ。今日も一本取れなかった。


「あーもう! くーやーしーいーっ」


 寝転がったまま、手足をバタつかせて悔しがる。すると、そんな私にお父様が手を差し伸べてくれた。


「立てるかい?」


 今までの軍神の顔つきはどこへやら。今目の前にいるのは、優しく娘を見守る父親だった。


「ありがとう、ございます」


 差し出された手を握り、立ち上がらせてもらう。すると、今度はお父様が私の服に付いた土を払ってくれた。


「相変わらず、お父様はお優しいですね」


「そうかい? 娘に対しても本気で剣を向ける親だぞ」


「それが優しいと言ってるんです。私が喜んでるの知ってるくせに」


「ははっ、どうだかね」


 剣を教える時の凛々しい軍神の顔も好きだけど。こんな風に朗らかに笑うお父様の顔も大好きだ。人柄が出ている。


 そんな私達のところに、ロゼッタとルイーズがタオルと水筒を持って現れた。


「アンジェリーク様、タオルと水です。どうぞ」


「ありがとう、ルイーズ。それでどう? 勉強になった?」


「……正直わかりません。見ているだけなら問題ないんですけど、いざそこに自分も加わるとなると、どう動いていいのかなかなか想像できなくて」


 ルイーズは戸惑っているのか、指をモジモジさせている。それもそのはずで、少しだけ時間ができたというルイーズを、ロゼッタが半強制的にここへ連れてきたのだ。


「また盗賊がいつ襲ってくるかもわかりません。ですから、あなたも昨日みたいに直接攻撃だけでなく、剣士と共闘する戦い方も身につける必要があります」


「はあ」


「そのためには、まず剣士の動きをある程度把握しておかなければ意味がありません」


「なるほど。それでここへ連れてこられたわけですね、師匠」


「そうです」


「でも、何がなんだかわかってないですよ?」


「今は始めたばかりなので仕方ありません。本当ならあなたにも剣を習ってほしいところですが、メイドの仕事を抱えたあなたにそこまでさせるのは酷ですから」


「だから、今日は見学だけなんだね。でも、私の訓練風景だとあんまり参考にならなかったでしょ?」


「そんなことありません! アンジェリーク様すごいです! クレマン様の攻撃をちゃんとかわして。カッコ良かったです」


「そう? これでもまだまだ足元にも及ばないんだけどね。でも、褒めてくれてありがとう。またやる気出た」


 そう言ってルイーズの頭を撫でると、彼女は嬉しそうに笑った。それを横目に、ロゼッタがお父様へと顔を向ける。


「クレマン様、今度からルイーズも魔物討伐に参加させたいと思います。彼女もまたアンジェリーク様と同じで、実戦の方がはるかに覚えが良いようなので」


「そうか、師匠である君がそう言うのなら了解した。ヘルマンにも伝えておくよ」


「ありがとうございます」


「頑張ろうね、ルイーズ」


「はい!」


 お互いグーとグーでタッチする。不思議なことに、剣と魔法という違いはあるけれど、同じように頑張っている人がいると思うと自分も頑張れる。その存在だけで励まされる。だから私も泣き言を言わずにやれてこれたんだと思う。たぶん、その思いはジルも同じなんだろう。


「次は俺もお願いします!」


 ジルがお父様へそう進言する。お父様はというと、「ああ、いいよ」と答えてジルと剣を交え始めた。そんなジルの様子を、ロゼッタとルイーズがじっと見つめる。


「ジルも頑張ってるんだ」


「そのようですよ。今日も早朝からギャレット様に稽古をつけてもらっていたようですし」


「たぶん、ルイーズに負けたくないんだね。いいなぁ、私もそんなライバルがほしい」


 お互い切磋琢磨して高め合える存在。高校の部活動の時、同じポジションの子と競い合っていた時のことを思い出す。普段は仲良しなんだけど、部活の時だけはライバル。彼女がいなかったら、たぶん私はあんなに上達しなかった。そう思える相手。


「よお。お前もクレマンに見てもらってんのか?」


 その声に振り返る。そこにいたのは、木製剣を持ったラインハルト殿下とギャレット様だった。


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