善処します
「こんなことなら、私設軍を作っておけばよかったですね。まさか私が機能不全に陥るとは思ってもみませんでしたから。これは、私の傲慢さと危機管理能力の低さが招いた結果です。申し訳ありませんでした」
「べつにロゼッタが謝ることじゃないでしょ。私だって本気で作る気なかったんだから。でも、確かにこういうことも想定して、作っておいてもいいのかもしれないわね」
「私にもしものことが起こった場合、代わりにアンジェリーク様をお守りする戦力」
「それだけじゃなくて。私の号令一つで代わりに手足となって動いてくれる戦力。うん、本気で考えよう」
「ただし、誰でも入れるようにはいたしません。私の代わりにアンジェリーク様の護衛を任せる可能性もあるのです。それ相応の実力者でなければ私は認めません」
「あんたの代わりになるような実力者なんてそうそう現れないって。むしろ、あんたがそうなるように強く鍛えてあげればいいんじゃない?」
「まあ、それもそうですね。ある程度の基準を設けて、さらにその上を鍛えて作り上げる。悪くない構成です」
「なんか、あんたが言うとマジで怖いわ。志願者が死ぬような訓練はやめてね」
「善処します」
完全否定ではなく、善処します、か。状況次第では致し方ないって考えてるところが怖いわ。
「あとはお金か。さすがに給料払わないと誰も来てくれないもんね」
「そこら辺はニール様とご相談されてもよろしいのではないですか? 小麦などの農作物が問題なく輸出できるようになれば、ここの財政はかなり上向くはずですから」
「でも、ニール様許してくれるかなぁ? 私的流用だ、って言われて断られたらどうしよう」
「それはアンジェリーク様の交渉次第ですね」
「交渉……。まあ、こればっかりはやってみないとわからないか。自称ニールキラー、頑張ります」
寝たまま拳を力強く握る。それを見て、ロゼッタは頷いてくれた。
「とりあえず、目下の課題はアンジェリーク様の護衛代理です。早急に見つけなければ」
「さっきも言ったけど。私からは他の護衛が欲しいとは言わないから。だから、護衛はあなたが見つけてきてね」
「本当に他人に仕事を押し付けるのがお得意ですね」
「だって、私が選んだ相手だったらロゼッタ嫉妬しちゃうだろうから」
「そんなことありません」
「じゃあ、ノアは?」
「確かにお強いですが、あの方の場合、アンジェリーク様よりコドモダケが優先されますから。あなた様の護衛には向いていません」
「確かに、コドモダケが逃げたら私置いて探しに行きそう。じゃあ、リザさんは?」
「却下」
「即答って……。なんでよ、強さ的にはロゼッタと同じくらいじゃん」
「私の方が断然強いです。それに、あの方は傭兵ですからお金がかかります。第一私が気に食わない」
「うわ、きっと最後の言葉が本音ね。なんでそんなに毛嫌いしてんだか。あ! もしかして、私がリザさんと仲良くしてるとこ見て嫉妬しちゃった?」
冗談で言ってみる。きっとすっごい睨まれると思っていたんだけれど。意外にもロゼッタは口を真一文字に引き結んで私から目を逸らした。なんだ、その反応は。
「え、えっ!? そうなの? うわ、どうしよう、可愛いすぎ!」
思わず寝転んだままのチビロゼッタに抱きつく。彼女は猫のように抵抗した。
「やめてください。迷惑ですっ」
「あなたが嫉妬するなんて久し振りね。可愛いとこあるじゃない」
「違います。彼女には人間的に欠けている部分があるからダメと言っているだけです。べつに嫉妬なんて……というか、いい加減離れてください!」
「よいではないか、よいではないか。こんな風に小さなロゼッタ抱きしめられるのも今のうちなんだから。心ゆくまで抱きしめさせて」
「はあ?」
思いのままロゼッタをギュッと力強く抱きしめる。身体が小さい分、ロゼッタはなかなか解けず苦戦していた。
「アンジェリーク様、いい加減に……」
「ありがとね、ロゼッタ。いつも私のこと考えてくれて」
「え?」
「確かにロゼッタが子どもの姿になって、護衛力が落ちてて不安に思っていても。やっぱり私にとっては、あなたがそばにいてくれることこそが最大の安心なの。だから、いつもそばにいてくれてありがとう」
抱きしめたまま、そう素直な気持ちを紡ぐ。すると、ロゼッタの抵抗が収まった。そして、そのまま彼女は私を抱き返してくれた。
「私にはもったいないお言葉です。ですが、ありがたくいただいておきます」
「うん、是非そうしてちょうだい」
「今夜は一人で寝られそうですか?」
「ううん、たぶん無理。不安で眠れないと思う。だから、子どもの姿の間は一緒に寝ましょう」
「わかりました。あなた様がそうお望みとあらばそういたします」
「ありがとう」
「ですが、あまりキツく抱きしめないでくださいね。今は身体が小さいので潰れてしまいますから」
「善処します」
そう言ってクスクス笑う。ロゼッタの方も同じように笑っていて、この時だけは不安がどこかに吹き飛んでいた。




