図星
「よし。これであの元盗賊達の一件は片付いたわ」
「しかし、上手くいくでしょうか?」
「さあ。それは彼ら次第よ」
「ですが、もし上手くいってしまった場合、私達の企みに気付いた常闇のドラゴン達が、あなた様を狙ってくる可能性も十分考えられます。やはり、誰かに協力を呼びかけるべきです」
「なるべく気を使わなくても良い人にしてね。私、こう見えて人見知りだから」
「今はそんなワガママを言える立場ではないと思いますが。まあ、考慮します」
お茶会も終わり、ロゼッタと二人で部屋に戻る。そして、そのままベッドへダイブした。その衝撃で、コドモダケが服の中から飛び出してくる。
「はしたないですよ」
「いいじゃん、ちょっとくらい。たまにはのんびり休ませてよ。今考えることが多すぎて、頭パンクしそうなんだから」
ムーっと目だけで抗議する。すると、ロゼッタはため息をつきつつベッドへ登ってきた。そしてそのまま寝転がる私の頭を撫で始める。
「ミレイア様のロイヤー子爵をぶっ潰せという無茶な要求に始まり。常闇のドラゴンに、エミリアの愛人問題に、ノアの家出に、ロゼッタの子ども化……。こんな問題が一気に重なるとかあり? 私にどうしろっていうのよ」
「あなた様は一人で抱え込みすぎです。もう少し周りを頼られてもいいと思います」
「十分頼ってるわよ。今もこうして、あなたにだけは弱さを見せてる」
「わかっています。本当は平静を装っていても、私がこうなってしまって内心怖がっていることも」
図星を突かれ、咄嗟に言葉が出てこなかった。
「……気付いてたんだ」
「従者ですから。主人の心の機微には敏感なんです」
「そっか」
たぶんそれは、普段からロゼッタがそれだけ私のことを見てくれてて、なおかつ心配してくれているからだと思う。私の頭を撫でる彼女の手が心地良い。
「あなたの言う通り、とても怖い。今の私は、いわばあらゆる所から命を狙われたまま最大戦力を失った状態。ほんとは外に出ることも怖い」
「そうですか」
「呆れた? こんな情けない人だったなんてって」
「いいえ。むしろあなた様にもこんな人間らしい弱さがあったのだと知って安心しました。あなた様も私達と同じ弱い人間だったのですね」
「知ってたくせに。でも、そう言ってくれてありがとう。ちょっと安心した」
フッと笑う。すると、ロゼッタも同じように笑い返してくれた。
「あなた様を不安にさせてしまったのは、すべて私の責任です。申し訳ございませんでした」
「謝んないでよ。あれは誰のせいでもないんだから。もちろん、こいつのせいでもね」
そう言って、同じように寝転がるコドモダケの柄の辺りを、人差し指でよしよしと触る。気持ちが良いのか抵抗はしてこなかった。
「でも、さっき言ったことも本当なの。あなた以外の誰かに私の命は預けられない。心から信じられないの。そんな相手を護衛としてそばに置いておきたくない」
「それもわかっています。ですが、今は緊急事態です。常にそばに置いておかなくてもいいので、何か動き出す時くらいは誰か別の方に護衛を頼んでもよろしいのかと。でなければ、私が安心できません」
「わかってるわよ。はあ、困ったなぁ」
ロゼッタ以外の護衛、か。考えたこともなかった。どうしよう、想像できない。
うーん、と頭を悩ませる。すると、それまで私の頭を撫でていたロゼッタの手が止まった。
「正直、他の誰かにアンジェリーク様の護衛は任せたくありません。あなた様の隣を誰にも譲りたくはないし、あなた様の一番は私でありたい。そんなワガママな自分もいます」
「ロゼッタ……」
「ですが、それ以上にあなた様を失いたくはないのです。ですから私は今、苦渋の決断をしています。それくらい主人なら汲み取ってください」
そう声を尖らせると、ロゼッタは私の隣に寝転んだ。透き通った丸い瞳が、まるで抗議するように私の目を覗き込む。その愛らしさに、私は思わず笑ってしまった。
「今笑うところではなかったと思いますが」
「ごめん、ごめん。あなたのワガママが嬉しくてつい」
「……っ! こんなことを言うのは、あなた様だけですからね」
「うん。私はいつもロゼッタに甘えてばかりだから、あなたも私には甘えていいからね。今みたいに」
そう言って、ロゼッタの頭をよしよしと撫でる。彼女は嫌がる素振りも見せずに、「……はい」と頷いてただ大人しく撫でられていた。
つ、ついに目標にしていた1,000pt達成しましたー!
すごい、すごーい!
それもこれも、いつも読んでくださるみなさまのおかげです。いつもやる気をありがとうございます。
4月から忙しくなり、なかなか思うように執筆の時間がもてなくなって、1話分の量が少ないことが多く、いつも申し訳ないと思っています。
ですが、なるべく毎日更新を継続できるよう頑張りますので、引き続き楽しんで読んでいただければ幸いです。




