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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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あなた以外の護衛はいらない

「……ほんとに大丈夫なんですか?」


「これは先行投資だ。後できちんと回収する」


「そのアテはあるんですか?」


 すると、ニール様が私を一瞥した。


「カルツィオーネの基幹産業はなんだかわかるか?」


「農業ですよね」


「その中で生産量が最も多いモノは?」


「それは……」


 思わず言葉に詰まる。そういえば考えたこともなかった。そんな私の心の声が聞こえたのだろう。ニール様はわざとらしく大きなため息をついた。


「小麦だ。ヴィンセント家の子どもならそれくらい覚えておけ」


「……申し訳ありませんでした」


 おっしゃる通りだ。ぐうの音も出ない。ロゼッタまでもがニール様に賛同するように首を縦に振っていた。


「この国の主食はパンや麺類だ。つまり、小麦はどこの領地も喉から手が出るほど欲しがっている。常闇のドラゴンを壊滅し、輸出ルートが安全に確保されれば、うちの小麦は必ず売れる」


「なるほど。回収の目処が立ちますね」


「それに、人材が確保できれば、耕作放棄している農地を復活させることも可能だ。そうすれば、小麦の生産量を今の倍以上に伸ばすことも可能になる。そうなればさらに収益は増えるだろう」


「なるほど、だから先行投資ですか。そう考えると悪くないですね」


「そういうことだ」


 ニール様が紅茶をすする。クレマン様も納得顔だ。


「でも、肩代わりして、相手が借金踏み倒そうとしたらどうするんですか?」


「俺とロゼッタで制裁を加える。借金を返すか、ここで死ぬか選べと。はじめからそう脅しておいてもいいな」


「待ってください。私も参加するのですか?」


「当たり前だ。ドラクロワの名前は相手を脅すにはもってこいだろ。こういう時使わないでどうする」


「………………」


「ロゼッタもわかってたことでしょう? ニール様はこういう人だって」


「ええ、わかっていましたよ。ただ、ここまではっきり言われるとあまり良い心地はしませんね」


「アンジェリークの従者になった時点で諦めろ。俺なんかまだマシな方だと思うぞ。お前の主人はきっと、俺よりもひどい使い方をするだろうからな」


「それは否定しません。アンジェリーク様は人をこき使うのが得意ですから」


「あれ? 何故か私が非難されてる。おかしいわ」


「まあ、まあ。いいじゃないか」


 お父様が朗らかに笑う。なんだか腑に落ちないけれど、お父様が楽しそうなので、モヤモヤしたモノを紅茶と一緒に流し込んだ。


「まあ、とはいえロゼッタも今はこんな状態だからな。利用どころか護衛すら危ういだろ。大丈夫なのか?」


「さあ」


 あっけらかんとそう答えると、お父様とニール様が「え?」という顔をした。


「さあって、お前……」


「だって、大丈夫かどうかなんて今わかんないじゃないですか。ロゼッタだって、どこまで動けるかもまだわかってないでしょうし」


「それはそうだろうが。いつ元に戻れるかわからないんだろ?」


「ノアの話では、二日で元に戻った人もいれば、一年以上そのままだった人もいるとか」


「一年以上、か。そんな長い間アンジェリークが大人しくしてるとは思えないな。どれ、私がお前の護衛をしようか?」


「ありがとうございます、お父様。でも、お気持ちだけ受け取っておきます。でないと、ロゼッタが拗ねてしまいますから」


「お言葉ですが。いつ元の姿に戻れるかわからない以上、私以外の人間を護衛に付けるのも有りだと思います」


 そう冷静に言われ、私は思わず紅茶を置く手を止めた。


「ウソ。あのロゼッタが私の護衛を誰かに譲るなんて」


「譲るのではありません。協力してもらうのです」


「協力? みんな嫌がりそうな気がするんだけど」


「確かに、今までのアンジェリーク様の行いを見てきた者達からしたら、手を挙げる勇敢な者はいないでしょう。だからこそ、私と共に協力するという手をとるのです。少なくとも、私が一緒にいるということで相手の精神的ハードルを少しでも下げられるかと」


「そりゃそうかもしれないけどさ。私が落ち着かないんだけど。今まではロゼッタだったから自由に無茶してきたのよ。それなのに、他の誰かも一緒だと無茶しにくくなるんだけど」


「なるほど。そういう抑止力効果もありましたか。覚えておきます」


「やめて。私から自由を奪わないで」


 しまった、ロゼッタに弱みを与えてしまった。このカードは、いつか本気で大人しくさせたい時にきられそうだ。


「まあ、それは置いといて。目下アンジェリーク様の護衛確保は急務です。危険に晒された後で後悔されても遅いですから」


「でも私は、あなた以外の護衛はいらないわ。他の誰かじゃ安心して自分の命を預けられないもの。たとえあなたがその姿のままでもね」


 そうはっきり断ると、珍しくロゼッタが言葉に詰まった。


「あなたの言い分はわかってる。私のことを心配して言ってくれてるのも。だから、あなたがそれで安心するというのなら、私は護衛の協力者を見つけるのには反対しない。でも、私の本心は今のだから。けっして自分から他の護衛が欲しいとは言わない。覚えておいて」


「……そう、ですか。わかりました」


 ロゼッタの声が小さくなる。たぶん、照れてるんだろう。その証拠に、その顔を隠そうと慌てて紅茶を一口すすったけれど、「あっ」とすぐさま唇から離していた。あれきっと舌火傷したな。


 そんな私達二人のやりとりを、お父様が楽しそうに眺める。


「君達のお互いに対する信頼関係は強固なんだな。少し羨ましくなるよ」


「まあ、それほどのことをロゼッタは私にしてくれてますから。彼女には絶大な信頼を寄せています」


「褒め殺し作戦ですか? 新しい攻め方を試していらっしゃるんですね。悪趣味な」


「こういう素直じゃないところも、可愛くて好きです」


「それ以上続けると怒りますよ」


「おぉ、怖い」


 わざとらしく身体を震わせてみる。すると、ニール様がため息をついた。


「まあ、せいぜい飼い犬に手を噛まれないようにするんだな」


「はーい」


 間の抜けた声でそう返事を返すと、私はフッと笑ってロゼッタにウインクしてみせた。


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