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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第二章 辺境伯と花嫁候補

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ルベン先生とさようなら

 一週間後。


 馬車に揺られながら、私は窓から流れていく景色をぼんやりと眺めていた。


「どうされたのですか?」


「いや、早くカルツィオーネに着かないかなぁと思って」


「レンスからだとまだ近いほうです。王都からだと丸三日かかります」


「そっかぁ。でも、その田舎あるあるみたいなのは嫌じゃない」


「変わってますね」


「そうかもねー」


 ロゼッタに夜が明ける前に叩き起こされ、早朝数人の使用人達に見送られて出発した。もちろん、家族は誰も見送りに来なかった。


 でも、そのせいか眠い。欠伸をすると、さらに眠気が増す。


「まだ着くまで時間があります。その間寝ておられてはどうですか?」


「うん、そうする。じゃあ、ロゼッタこっち来て」


「何故です?」


「肩貸してほしいから」


 そう言うと、向かい側に座るロゼッタの動きが止まった。その後で、ため息をつきつつこちら側へと移動してくる。隣に座ると、私は遠慮なくロゼッタの肩に頭を預けた。


「やけに素直に甘えてきますね」


「こう見えて、それなりに緊張してんの。相手は軍神とまで呼ばれてる人だもの。好かれようとは思ってないけど、初っ端から嫌われるのは後々面倒だわ」


「大丈夫です。この一週間、礼儀作法の復習をみっちり行いましたから。きっと身体に染みついてるはずです」


「ははは、そうだといいけど」


 怪我の具合が良くなってから行く方がいいだろう、ということで、ルベン先生に事の経緯を話して確認をとることにした。すると、だいたいもう一週間くらいすれば、ルベン先生の処置は必要なくなるだろうとのことだった。


「一応、ガーゼと包帯と消毒液は渡しておきますので。向こうに着いてからも、傷口が完全に塞がるまでは処置は続けてください」


「わかりました。ありがとうございます」


「しかし、カルツィオーネに行けることになって良かったですね」


「ほんとに良かったです。でも、まさかクレマン様の花嫁候補として行くことになるとは思ってもみませんでした。さすがに歳が離れすぎです」


「まあ、良いではありませんか。ダメだったら二人暮らしを始めるつもりなのでしょう? お父上を説得するよりかははるかに効率的だ」


「やっぱりルベン先生もそう思いますか? 実は私もそう思ってたんです」


 そう言って、お互い笑い合う。その後で、ルベン先生の顔にフッと寂しそうな陰が落ちた。


「本当に行ってしまわれるのですね」


「ええ。たぶんこの家にはもう戻って来ないでしょう」


「そうですか……いや、その方がいい」


「ルベン先生には本当にお世話になりました。こんなに怪我ばかりする私を見捨てず手当してくださって。本当に感謝しています」


「私からも、本当にありがとうございました」


「やめてください、お二人とも。感謝しているのは私の方です。この前、妻とも相談して、一度娘と将来のことについて話し合うことになりました」


「本当ですか?」


「ええ。妻にアンジェリーク様のことをお話ししたら、若い頃の私を思い出したそうです。あなたも、身分関係なくたくさんの人々を救いたいと、キラキラした顔で言っていた、と」


「素敵な話じゃないですか」


「いやいや、お恥ずかしい限りです。ですが、今回のことで妻から、あなたにも本当にしたいことをしてほしい、と言われました。結婚して、子どもができて、みんなを養うために本当にしたいことを我慢させてきたことを、ずっと心苦しく思っていたそうです」


「うわぁ、良くできた奥さんだ」


「本当に、私にはもったいないくらい素敵な女性です。彼女と結婚できて、本当に良かった」


 ルベン先生が幸せそうに微笑む。もし愛に形があるのなら、きっとこんな感じなのだろう。


「今すぐにどうこうということではないのですが、色々落ち着いたらもう一度自分自身と向き合ってみようと思います。その時にはまたお茶でも飲みましょう」


「ええ、是非。いつでも遊びに来てください。ルベン先生なら大歓迎です」


「ありがとうございます。どうぞ、あなた方二人に幸せな未来がきますように」


 ルベン先生が手を差し出し、私もそれに応えて握手を交わす。


 ルベン先生とはまた会えそうな気がする。なんの確証もないのにそう思った。


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