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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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良い相棒?

「ノアの話はそれぐらいでいいだろう。で、お前の話というのは?」


「あ、はい。今日捕まえた常闇のドラゴンの下っ端四人組なんですけど……」


 とりあえず、ヘルツィーオ出身とか諸々の事情をひとしきり説明し、今ヘルマンさんのところで働いていると付け加える。


「それで、彼らには現在市民権が無い状態なので、今は私の奴隷と言うことにして衣食住を確保してあげています。ですが、これでは不十分です。自立させるためには、働いて賃金を得なければ」


「なるほど。そのために市民権を提供できないか。そう言いたいんだな?」


「はい。無茶は承知で言っています。どうでしょうか?」


「それを行ったとして、我々への利点は?」


「人手不足の解消。そして、常闇のドラゴンへの牽制と、規模縮小への道筋の構築です」


 私がそう言うと、ニール様の眼鏡の奥の目がわずかに細くなった。お父様が静かに待ったをかける。


「人手不足はいいとして。彼らを自立させることが、常闇のドラゴンの規模縮小に繋がるのか?」


「あくまで仮定の話になりますが。常闇のドラゴンの末端の多くは、彼らと同じ境遇で仕方なく入った者が多いと推測されます。そんな中、もし、カルツィオーネに捕まった盗賊達が、見事職を得て更生していると聞きつければ、同じ境遇の者達の興味をそそること間違いなしでしょう。そして、それが事実だとすれば、自分もそうなりたいと、組織を抜け出してカルツィオーネに来るかもしれません」


「なるほど。それで向こうの人手を意図的に減らすのか」


 頷くお父様に、今度はニール様が言葉を続ける。


「それだけではありません。他の領地を抜け出した連中が、常闇のドラゴンを経由することなく、直接カルツィオーネに来るようになるかもしれません。そうすれば、向こうの人材確保の補給元を潰すことができる」


「そうか、組織を抜け出させつつ、入れさせない。だから彼らの自立は常闇のドラゴンの規模縮小になり得るということか」


「そうです。ただ闇雲に捕まえるよりも、こちらの方がより効果的。さらにこちらにも利がある。組織管理のずさんさを利用した、なかなか面白い作戦です」


「まあ、正直上手くいくかどうかはわかりませんが。失敗したとしてもさほどこちらに害は無いと思いますし。試してみる価値はあるかと」


「よくもまあ、こんな作戦を思いついたものだ。感服するよ」


「きっかけは、彼らに対する同情からのようですよ。どうやら、我が主人にも人の心は存在していたようです」


「ロゼッタの中の私への認識を改める良いきっかけになりました」


 いつものロゼッタの嫌味を軽くかわして紅茶をすする。相変わらずミネさんとヨネさんの淹れた紅茶は美味しかった。ついホッとする。


 ニール様の顔は険しい。もとよりダメ元で交渉している。きっと、見ず知らずの奴にそんな簡単にホイホイと市民権なんかやれるか、現実的に考えろこの能無し、とディスられるに違いない。やはりダメだろうか。


 そう思っていたけれど。意外にもニール様の答えはイエスだった。


「いいだろう。奴らに市民権を与えてやる」


「ほんとですか!?」


「ああ。ただし、ある程度条件はつけるがな。悪用されても困る」


 まさかオッケーが出るとは思わなかったので、目を見開いてニール様を凝視する。そんな私の態度に、ニール様は不服そうだった。


「なんだ?」


「いえ……。きっと断られると思っていたものですから。今驚いているんです」


「だろうな。普段の俺なら断っている」


「じゃあ、どうして」


「常闇のドラゴンが関係しているからだ。奴らはロイヤー子爵と結託して、カルツィオーネとクレマン様を貶めようとしている。とても看過できるものじゃない。どんな手段を使ってでも壊滅させる。たとえそれがお前の思いつきでもな」


「つまり、常闇のドラゴン壊滅のためならなんでも利用する、ということですね?」


「そういうことだ」


 そう言い切って、ニール様は紅茶をすすった。


 ここまでするということは、ニール様はガチで常闇のドラゴンを壊滅させるつもりだ。きっと、私のことも躊躇いなく利用するだろう。でも、その方がかえってありがたい。


「わかりました。では、よろしくお願いします」


「まだ奴らには言うなよ。市民権をやるかどうかは奴らの働きっぷりを見てからだ」


「もちろんです。彼らが本気で更生したいかどうか見極めなければ。悪用されたら元も子もないですし」


「ふん。わかっているじゃないか」


 そんな私達二人のやりとりを見て、お父様が髭を撫でつつ微笑んだ。


「なんだ、二人とも仲良しじゃないか。良い相棒だな」


『それはあり得ません』


 お互い顔を見ることなくそう答える。それなのに、お父様は「そうか、そうか」と嬉しそうに笑った。


「スラム街の者の多くは市民権が無いと聞いたことがある。だから、そういう連中はまだいいとして。市民権を持っていた場合どうする?」


「それは普段通り、そこの領主と相談して、その市民権を移動させる手続きをこちらで担います」


「でも、ヘルツィーオは市民権の放棄にお金かかるんですよね? それはどうするんですか」


「こちらで一旦肩代わりする。その後で借金という形で返還させる」


「肩代わりって……ここにそんな金銭的余裕あるんですか?」


「それくらいの蓄えはある。といっても、今は城門の修復などで支出が多いから、あまり多くは無理だがな」


「へえ」


「それに、ロイヤー子爵への当て付けにもなる。お前達が見捨てたスラム街の連中を、カルツィオーネでまとめて更生。しかも、常闇のドラゴンへの人材補給を断つ。宣戦布告にはもってこいだ」


「ニール様でも熱くなることはあるんですね。でも、そんなことしたらスラム街の人達だけじゃなく、住民までこっちになだれ込んできませんか?」


「それはないだろうな。税金すら払えないスラム街の奴らは子爵にとってただの厄介者だが、税金を支払う住民達は貴重な納税者だ。スラム街の奴らより逃げ出さないよう厳重に管理しているはず」


「つまり、なだれ込んでくる心配はない、と」


「その通りだ」


 なんだか可哀想な話だ。市民権が無いから辛いのはわかるけれど、市民権があるからこそ苦しいなんて。カルツィオーネならそんなことないのに。貧乏だけど。


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