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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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チビロゼッタの屈辱

 お茶の時間。


 今日は、お父様とニール様とロゼッタの四人でお茶を飲むことになった。例の捕まえた盗賊達の件で話があると伝えると、じゃあお茶を飲みながらという話になったからだ。殿下達はノアに触発されたのか、もう少し剣の訓練をすると辞退された。


「どうしたの、ロゼッタ?」


「……いえ、べつに」


 前を見つめたまま固まっているロゼッタ。その視線の先には、私達が座る椅子があった。ああ、なるほど、と思わず口元が緩む。


「手伝ってあげようか?」


「結構です。一人で座れますから」


 実際、ご飯を食べる時なんかは一人で座っていた。ただし、それはいつも使っている、女性使用人達用のテーブルに対する高さの椅子。


 このお父様の部屋に置いてある椅子やテーブルは、背の高いお父様用に一般的な物より少々高く作られていた。よじ登るまではいかないまでも、五歳の身体ではけっしてスマートには座れない高さ。しかも、足が届かなくなるので、座った後椅子を引くこともできない。


 身分は自分が一番下。誰かを頼ることもできないし、頼りたくもない。それに、そんな無様な姿を見せるのは恥ずかしくてプライドが許さない。たぶん、今の彼女が考えていることはこんなとこだろう。


「べつに、今さら遠慮することないじゃない。こういう時こそ主人を頼りなさいよ」


「結構です。どうせ後で笑うのでしょう? それなら多少居心地悪くても自分でなんとかします」


 そう言って、ツンとすまして歩きだす。すると、それを途中でお父様が妨げた。五歳の身体のロゼッタを軽々と抱っこしたのだ。


「ク、クレマン様!? なにを……っ」


「こんな機会、もう無いだろうからね。ちょっとやってみたくなった」


「はあっ?」


「君が子どもの頃は、よくこうして抱っこしてあげたものだよ。懐かしいな」


 そう言って、嬉しそうに微笑むお父様。こんな顔されたら、さすがのロゼッタも文句は言えないらしい。頬を薄く染めつつそれ以上は抵抗しなかった。


「いいなぁ。私もお父様に抱っこされたい」


「んー、私がもう少し若ければできたかもしれないが。今は腰にきそうだ」


「アンジェリーク様は甘い物の食べ過ぎて重そうですからね。おやめになられた方が賢明です」


「こら、ロゼッタ。イライラを私にぶつけないでよ」


「本当のことですから」


「おい、二人ともやめないか。みっともない」


 ニール様の呆れた声に、ロゼッタがシュンとうな垂れる。だから、その萌え仕草やめろ。キュン死する。


 お父様がロゼッタを抱っこしたまま席まで移動する。しかし、すぐには座らさず、じっと椅子とテーブルを見つめた。


「どうされたのですか?」


「いや……」


 そう呟いた後、ロゼッタを抱えたまま歩きだす。そして手近にあったクッションを掴むと、それを椅子の座面に置き、その上にロゼッタを座らせた。


「うん、これで高さも大丈夫だろう」


『ぶっ』


 クッションの上にちょこんと座るロゼッタを見て、私とニール様が同時に吹き出す。


「良かったねロゼッタちゃん! 高さピッタリになって」


「お前、それは言い過ぎだろ……ぷはっ」


 クククっ、と二人の笑いは止まらない。そんな腹を抱えて笑う私達二人に対して、チビロゼッタは容赦なく殺意を向ける。


「この屈辱は忘れませんから。覚えておいてくださいね」


 ただ一人、お父様だけが首を傾げていた。


 ひとしきり笑い終わった後。みんながやっと席に着く。すると話題がノア様に移った。


「別荘に引きこもっていると聞いていたからどうかと思っていたが。遠目に見ていても、ノア君の剣技は衰えていないらしいな。きちんと鍛錬は続けているようだ」


「お父様は、ノアと剣を交えたことがあるんですか?」


「ああ、もちろん。妻が生きていた時はよくうちにも来ていたからね。マルセルに鍛えられている分、幼いながらも戦っていて楽しかったよ」


「へえ。お父様がそうおっしゃるのなら、相当強いんですね、ノアは」


「センスが良いんだよ。スピードもそうだが、ノアは戦いながら相手の太刀の癖や、呼吸や、間の使い方なんかを無意識に覚えて、それに合わせて自分の剣を変えていくんだ。だから戦う身としては厄介だよ」


「なるほど。では、色んな人と戦えば戦うほど、ノア様の剣術レベルは上がりそうですね」


 ロゼッタの言葉にお父様は頷く。


「その通り。マルセルもそう考えているから、ノア君を魔法師としてではなく、騎士希望として養成学校へ入学させたいと言っていた。ただ、ノア君本人は難色を示しているみたいだけどね」


「武術なんて意味ない、って言っちゃうくらいですからね。でも、ギャレット様と戦ってる時は、楽しいって言ってたのにな」


「根っから剣が嫌いというわけではないんだと思うよ。私も、彼は本当は剣が好きなんだと思う。ただ、それを素直に認めたくないだけなのかもな」


 そういうと、お父様は紅茶を一口すすった。


 親に反発したくなる、思春期特有のやつだろうか。コドモダケに異様に固執するのもそのせい? いや、それだけじゃない気がするんだけど。


 うーん、と考えていると、ニール様がわざと咳払いしてそれを止めた。


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