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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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見た目で判断するな

 空を舞い終わった剣が虚しく地面に落ちる。直後、唇を尖らせて抗議したのはノアだった。


「えぇー! ちょっと待って。第三者が入ってくるなんて卑怯だよ」


「ギャレット、お前っ」


「すみません、殿下。ですが、どうしてもこいつと剣を交えてみたくてお邪魔してしまいました。お叱りなら後で受けます」


「……いや、お前がそこまで言うのは珍しい。俺も是非見てみたい。許可する」


「ありがとうございます」


 ギャレット様は丁寧にお礼を言った後、ノアに向けて剣を構える。彼は未だ不満そうだ。


「ノア、もしギャレット様に一発でも当てたら、コドモダケに触らせるだけじゃなくて、一日貸してあげる」


「ほんとに!? じゃあ頑張る!」


 それまでの不満顔がウソかのように、まるで子どものように声が弾む。コドモダケはというと、「えぇー」と不満そうに私をじとっと見ていた。そんな彼に私はごめんのポーズをとる。


「ああでも言わないと、あいつ本気にならないから。ね?」


「キノー」


 傘が一旦上がった後、ゆっくり下りていく。どうやら大きなため息をつかれたらしい。こいつも大概私を舐めくさっている気がする。


「近衛騎士ってことは、殿下よりも強いんですよね?」


「さあな。試してみるといい」


「それもそっか」


 瞬間、ノアとギャレット様の剣が交錯する。これが本物の剣なら、さぞかし耳障りな金属音を発したことだろう。


「殿下の時よりも、今の攻撃をしっかり受け止めてる。やっぱり強いんじゃん」


「そうだな、お前よりも強いぞ」


「ほんとに? じゃあ試してみるね」


 その後はもう、目で追うのが億劫になるほど両者の激しい剣撃の応酬だった。ギャレット様は殿下のように防戦一方ではなく、防いだ後で自らも攻撃に転じている。ノアもそんな感じだった。


「これって、互角ってこと?」


「おそらく。よく見ておいた方が良いですよ。こんな戦闘間近で見る機会なんてないでしょうから。良い勉強になります」


「よく見ろって言われても……」


 習い始めの私には目で追うのがやっとなんですけど。周りの兵士達も、その激しい戦闘に声も出せず圧倒されていた。


「すごい、すごい、すごい、すごい! やっぱり君強いんじゃんっ」


「お前もなっ。正直ここまでとは思わなかった」


 ギャレット様が大きく剣を振り、ノアを遠ざける。すると、彼の口元に笑みがこぼれた。


「……楽しい」


「は?」


「楽しいよ! 領地にいる兵士や騎士は、弱すぎて相手にならなくてつまんなかった。リザっていう傭兵さんは強かったけど、女性だし気が引けて。手を抜いたら、手を抜くな、って怒られるし」


「リザさんとも一戦交えたことあるんだ」


「うん。でも、こんなに剣を交えて楽しいと思えたのはお父様以来だ。ギャレットすごいよ!」


 うわ、ギャレット様を呼び捨てにした。どうやら、テンションが上がると本音が出るらしい。これにはギャレット様が敏感に反応する。


「……貴様、俺を何歳だと思ってる?」


「え、同い年でしょ? 僕と同じ十五。いやー、最初はその歳で近衛騎士とかあり得ないって思ってたけど、この強さなら納得だよ。近衛騎士はコネでなる人が多いって噂で聞いたことあるけど、君は実力で勝ち取った本物なんだね。僕そういう人好き」


「同い年……コネ……っ」


「あれ? でも、騎士養成学校にはいつから入ったの? 魔法師以外の募集は基本十六歳からだよね。いったいどうやって……」


「俺は今二十歳だぁ!」


 ノアが言い終わる前に、カンカンに怒ったギャレット様が一撃を食らわす。しかし、ノアは「二十歳!?」と驚きつつもそれを防いでいた。


「養成学校もとっくの昔に卒業している。様を付けて呼べ、呼び捨てにするな!」


「ごごご、ごめんなさい! まさか年上だとは思わなくて」


「見かけで人を判断するなっ」


 そのギャレット様の叫びに、ノアの動きが一瞬止まった。攻撃を続けていたギャレット様の顔が「なっ」と驚きに包まれる。それでも、急に止めることはできずに、ギャレット様はノアの剣を遠く弾き飛ばした。周りの兵士達が「おぉ!」と感嘆の声を漏らす。


「貴様、何故手を止めたっ?」


 ノアは俯いたまま答えない。そんな彼にギャレット様はイライラを募らせる。そのうち、ノアがギャレット様に向かって頭を下げた。


「見た目で判断してごめんなさい」


 そう言い残し、ノアは立ち去っていく。途中私の横を通ったけれど、コドモダケのことにはいっさい触れずに通り過ぎた。そんな彼の様子に、コドモダケでさえ首を傾げる。


「どゆこと?」


 その疑問に答えられる人は、この場に誰もいなかった。


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