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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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エミリアの覚悟

「実は、私にまつわる例の噂の件でちょっと」


「例のって……貴族がエミリアを愛人にしたがってるっていうやつ?」


「はい。とても心配しているとおっしゃっていました。特に、ロイヤー子爵には気を付けろと。今一番私を狙っているのは彼だと、メイド達の話の中でそう感じたそうです」


「ここでも出てきたか、ロイヤー子爵」


「ええ。彼は大の女好きだし野心家だから、どんな手を使っても私を愛人にしようとするだろう。だから、そうならないように気を付けなさい。もし捕まっても、相手は貴族とはいえ毅然とした態度で断りなさい、と」


「さすがジゼルさんですね。言葉の重みが違います」


「はい。あと、一人で抱え込まずに、困ったことや不安なことがあれば必ず周りの人を頼りなさい、とも言われました。各家のメイドさん達にもジゼルさんから協力を要請してくださったみたいですし、あなたの味方は多いから、と」


「ジゼルさん、いいこと言う。それが一番大事よ、エミリア。少なくとも私にはなんでも話して。私の私設軍に入りたいのなら、まずは主人である私になんでも報告するのがあなたの義務よ」


 すると、エミリアはクスっと笑った。


「今の笑うとこじゃないんだけど」


「すみません。ただアンジェリーク様の優しさが嬉しかっただけです」


「そう、私優しいの。誰も気付いてくれないけど」


「今のはエミリアの勘違いですから。一刻も早く目を覚ますことをおすすめします」


「うっさい、ロゼッタ」


 チビロゼッタをムッと睨む。彼女はしらっと顔を逸らした。そんな私達のやりとりを見て、エミリアはクスクス笑う。そんな彼女を私は優しく抱きしめた。


「どんなに平気なフリしても、怖いものは怖いよね。でも、安心して。あなたは私が必ず守る。絶対貴族どものオモチャになんかさせない」


 エミリアは、大事な私の小説の主人公。でも今はもうそれだけじゃない。


 彼女はロゼッタと同じで、私にとって家族同然だから。今は頭を痛めて産んだ娘以上の愛情を感じている。絶対、誰にも傷付けさせない。


 決意を込めて、抱きしめる腕に力を込める。すると、エミリアも抱き返してくれた。


「アンジェリーク様は、いつも私に勇気を与えてくださいますね」


「勇気?」


「ええ。あなた様が守ってくださると思うだけで、私の胸に不思議と勇気が湧いてくるんです。大丈夫、この方がいれば私はどんな困難にも立ち向かえるって」


「そんな大げさな」


「でも、本当のことですよ」


 そう言うと、エミリアはハグを解く。そして、私の目を真っ直ぐ捉えた。


「私にも戦わせてください」


「え?」


「守られてばかりは嫌なんです。自分のことならなおさら、私自身も立ち向かいたい」


「本気? きっとかなりの危険がつきまとうわよ。失敗すれば貴族の愛人になっちゃうかもしれないし、下手をすれば死ぬかもしれない。その覚悟はある?」


「あります。貴族の愛人になるくらいなら自ら命を絶つと、ジゼルさんにも伝えました。それでも命があるだけマシと考える人もいるかもしれませんが、私はアンジェリーク様のように私らしく生きていたいのです。ですから、誰かのオモチャになるだけの人生に未練はありません」


 毅然とした態度で、迷いのない言葉。凛と立つ彼女の姿は、それだけで大きな決意と覚悟を私に感じさせる。


 本当なら、ダメ、と止めなきゃいけないんだろうけれど。何故か私の口角は上がっていた。


「ほんと、誰の影響受けたんだか。きっとそいつはロクな人間じゃないわね」


「巷では極悪令嬢だと言われている方ですから。でも、その方のために何かしたいと周りに思わせてくれる、とても素敵な人です」


「私も同じような人を一人知ってるわ。その子は希少な回復魔法の使い手なのに、偉ぶることなく人のために動くの。自分のことは後回しにしてね。そんな子だから、みんなその子のために動きたくなる。みんな好きになる。本当ズルい人よ」


 言い終えて、可笑しくて二人顔を見合わせて笑った。それを見てロゼッタもフッと笑う。


「お二人は似た者同士ですね。もしかしたら、血の繋がり以上の強い何かで繋がっているのかもしれません」


「そうかもしれませんね。私も、不思議とアンジェリーク様との間には、親近感というか、特別な何かを感じます」


「それはね、私もよ」


 なんたって、原作者とその主人公キャラですから。彼女は自己投影した私の半身と言ってもいい。小説を作る中で一緒に戦ってきた同志だ。


「常闇のドラゴンを捕まえるためにご自身の命ですら利用するアンジェリーク様です。ですからどうぞ、あなた様の目標を達成するために、私のことも思う存分利用してください」


「いいの? 後悔するかもよ」


「いいえ、後悔なんてしません。あなた様の目標は、いつも誰かを幸せにするものですから。そのお力になれるのなら本望です」


「わかった。そこまで言うんなら遠慮なく利用させてもらうわ。ただし、命の危険を感じたら迷わず逃げなさい。死んだら絶対許さないんだから」


「はい、わかりました」


 二人で力強く握手を交わす。すると、その手に小さなロゼッタの手が重なった。


「あなたは私の弟子です。ですから、師である者の責任として私もあなたを全力で守ります」


「ロゼッタさん……」


「まあ、優先順位的にはアンジェリーク様の次になりますが。それでも十分安心して良いレベルかと」


「もちろんです。ロゼッタさんが助けてくれると思うだけで、私の心は安心します。これ以上心強い師はいません」


「それもそうですね」


 そう言ってロゼッタも笑う。重なった三つの手は、どれもとても温かかった。


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