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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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四人の盗賊

「あなた様は、いつも人を動かすのがお上手ですね」


「ありがとう。褒め言葉として受け取っておく」


 ロゼッタの怒りも収まり、場が落ち着いたと安堵したその時。森の中から四人の男が現れた。


「おい、全員動くな」


「死にたくなければ、金目の物置いてけ」


 そう言って、子どもがいる前で堂々と剣を抜いてチラつかせる。どう見てもまともな連中じゃない。すぐさまギャレット様が戦闘態勢に入る。


「嫌だと言ったら?」


「そんな態度とっていいのかぁ? 俺達ゃ泣く子も黙る大盗賊団、常闇のドラゴンだぞ」


「どうだ、ビビったか」


 もう勝ったと言わんばかりに男達は笑う。常闇のドラゴンと聞いて、ジルはルイーズを、ロゼッタは私を守るように前へ出た。


「常闇の、ドラゴン……っ」


「大丈夫ですか、アンジェリーク様」


 震えそうになる身体をグッと堪える。いつの間にか私の服の中に戻っていたコドモダケが、心配そうに「キノォ?」と鳴いた。


 大丈夫。落ち着け、まずは深呼吸しろ。そして相手をよく観察するんだ。


 逸らしたくなる視線を無理矢理男達に向ける。すると、四人ともドラゴンの刺青は入っていなかった。


 そのうちの一人が、服から顔を覗かせていたコドモダケをめざとく見つける。


「おい、あの動くキノコ、コドモダケじゃね?」


「マジか! 一攫千金じゃん。俺達ツイてる」


 見つかったコドモダケは、男達の悪意に晒されて慌てて服の中へ引っ込む。奴らなら躊躇わずこの子を売り飛ばすだろう。でも、そんなことは絶対させない。


「やめろ! コドモダケはたくさんの病気の人を治せる希望なんだ。お前達みたいな薄汚い連中なんかには絶対渡さない!」


 そう叫んだのは、不審者の彼だった。手は後ろに縛られたままだが、その決意よろしく立ち上がる。そしてロゼッタと一緒に私の前へ移動した。


「なんだ、あいつ。変な仮面付けやがって」


「ぶっ殺してやる」


 盗賊達も戦闘態勢に入る。ギャレット様がジルにこそっと話しかけた。


「見た限りあいつらは雑魚だ。俺一人でも余裕だが。ジル、お前はどうする?」


「俺もやります。人相手の実戦は初めてですが、これくらいできなきゃ騎士になんかなれっこない」


「良い覚悟だ。そうでなきゃ稽古をつけた甲斐がない」


 ギャレット様とジルが顔を見合わせてフッと笑う。すると、後ろにいたルイーズに、チビロゼッタが声をかけた。


「ルイーズもやってみましょうか」


「え?」


「実戦をこなさなければ成長は見込めません。嫌だというならべつに構いませんが?」


 ロゼッタはあえて突き放す。すると、ルイーズの目つきが変わった。


「やります、実戦。教えてください」


「そうこなくては」


 ロゼッタが不敵に笑う。今回、ジルは反対しなかった。


「今回は初めてですから、あなたはギャレット様やジルの補助に徹しましょう」


「補助に?」


「ええ。直接攻撃はギャレット様との戦闘である程度やりました。ですので、今回は魔法師の主な役割の一つ、前衛の補助です。前衛というのは、剣などの武器で直接攻撃を仕掛ける人達のこと。ここでいえば、ギャレット様やジルのことですね。その前衛が相手に攻撃しやすい、または相手の攻撃を防御しやすいよう、魔法を放ちます」


「言葉の意味はわかりました。ただ、その……どうやって?」


「それは自分で考えてください」


「そんなぁ!」


「おい! 何呑気にお喋りしてやがる。なめやがって」


 ルイーズの叫びに、男の一人がイライラし始める。ジルは剣を抜き、ギャレット様は素手で構えた。


「べつに後衛の援助は必要ない。俺達だけで十分だ」


「ルイーズは自分のことだけ考えてろ」


 ギャレット様とジルの言葉に、男達の顔にイライラが募っていく。そしてそれはついに爆発した。


「調子に乗んなよ、ガキ!」


 男の一人がジルへと剣を振り回す。しかし、ジルは振りかかる剣撃をすべて剣で防いでいく。そして「このっ」と相手が大振りした隙をついて、自身の剣を相手のそれに巻きつけ、そして上へ持ち上げた。絡まった剣は男の手を離れ、回転しながら宙を舞う。その間にジルは男の懐に入り込むと、剣の柄を相手の鳩尾に叩き込んだ。「うげっ」という汚いダミ声と共に男が倒れ込む。その足元にちょうど宙を舞っていた剣が突き刺さった。お手本のような一戦だった。


「ジルすごい!」


「い、いや、こいつが弱すぎなんだよ」


「だが、良い動きだった。クレマン様にも報告しておこう」


「あ、ありがとうございます!」


 ギャレット様に褒められて、ジルは嬉しそうに顔を弾けさせる。残りの三人の盗賊の勢いがちょっと弱くなった。それを見て、ギャレット様が相手を挑発する。


「さっきまでの勢いはどうした? まさか、もうおしまいじゃないだろうな」


「くそ、なめやがって!」


 一人の男がギャレット様に向けて剣を振り下ろす。しかし、彼は木の葉のようにヒラリ、ヒラリとかわしていく。


「へっ。避けてるだけじゃ勝てないぜっ」


「そうだな」


 ギャレット様の姿がフッと消える。そして、男が姿を見失っているうちに、彼は男の斜め後ろから後頭部めがけて回し蹴りを食らわせた。それは見事にクリーンヒットし、男は声も出せず地面に倒れていった。


「さすがギャレット様です。剣を使わず一撃で倒すなんて。やっぱカッコいいっす!」


「は、はしゃぐな。これくらいは誰にでもできる」


 そう言いつつ、口元の緩みを必死に隠している。だから君は素直に喜びなさいよ。


「く、くそっ」


 三人目の男は、ギャレット様やジルと対峙するのを諦め、女である私やルイーズの方へと走ってくる。


「私が対処しましょうか?」


「ううん、ロゼッタはそこで見てて。私も訓練の成果を試してみたい」


「まあ、相手は雑魚ですから。お手並み拝見といきましょう」


 チビロゼッタが私の後ろへ下がる。私は一度深呼吸をした。大丈夫。落ち着いてやれば私でもできる。


「どけ、女ぁ!」


 男が剣を掲げる。そして、剣を振り下ろしたギリギリのタイミングでわずかに身体を逸らす。そして、その相手が振り下ろした力を利用して、剣を下にしたまま前のめりの相手のお腹に手を当てて上に持ち上げる。すると、相手の身体が目の前で一回転した。成功だ。なすがまま、男は「いだっ」と地面に仰向けに転倒する。


「やったロゼッタ! できたよ」


「まだです」


 ロゼッタがそう言った直後、男ががばりと起き上がり、背後から私を襲おうとする。ヤバイ、ガードが間に合わない。


 その時、男の真上からサッカーボールくらいの土の塊が垂直に落ちてきた。それは見事男の頭に命中。彼はそのまま気絶してしまった。


「アンジェリーク様、大丈夫ですか?」


「ルイーズ! ありがとう、助かったわ」


「ルイーズ、今のは良かったです。アンジェリーク様を囮に使って本当の狙いを隠す。合格です」


 チビロゼッタがパチパチと手を叩いて褒める。


「そうなの、ルイーズ!?」


「ち、違います! アンジェリーク様を囮になんて使ってません。ただ、もしもの時のために備えていただけです」


「正解です。アンジェリーク様は油断しすぎです。投げは上手くいっていましたが、相手が動けるかどうか確認せず喜んでしまったのは減点です」


「くっ、正論だからぐうの音も出ない」


 まさか実戦で成功するとは思ってなかったから、ついはしゃいでしまった。ルイーズがきちんとフォローしてくれていて良かったと思う。


「ルイーズ、ありがとう」


「いいえ。アンジェリーク様もお見事でした」


 そう言って二人ハイタッチする。さて、と四人目を探すと、彼はいつの間にかチビロゼッタを捕まえて、顔に剣先を向けていた。それを全員が見つけて、思わず『あっ』とこぼす。


「う、動くな! 動くとこいつ殺すぞっ」


「いやー……その子はよした方がいいわ。あなたのために」


「はあ?」


「いや、ああいう経験もしといた方がいいんじゃないか。あんまりなさそうだし」


「でも、今機嫌悪いみたいですから」


「師匠、ストレス溜まってるからって、その人灰にしちゃダメですよ」


 みんながみんな好き放題言い放つ。ロゼッタの片眉がピクリと反応した。


「お前ら何言ってやがるっ」


 叫んだ直後、突然男の右腕の袖に火がついた。彼は「あつっ」と叫んで慌てて火を消す。そんな彼の目の前にいたのは、驚くほど冷めた目をした五歳児だった。


「私を人質に取るとはいい度胸です。死ぬ覚悟はできているのでしょうね?」


「……へ?」


 その後、男がどうなったかはみなさんの想像にお任せする。


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