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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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一番不安なこと

「こうなったら、直接コドモダケに聞いてみるしかなさそうですね」


 そう言って、ロゼッタはコドモダケに手を伸ばす。が、ちょいと上げただけでビックリするほど手が届かない。ムッとして精一杯背伸びするけど、それでも私の手にすら当たらない。終いにはジャンプしてみたけれど、私が自身の頭付近までコドモダケを上げると、伸ばした手は空を切るだけでまったく届かなかった。


 その光景が普段のロゼッタからは想像もできないくらい可愛くて。そのギャップに全員で『ぶっ』と吹き出してしまった。


「あははははははっ! 届かない、届かないねぇ、ロゼッタちゃん! ククク……っ」


「師匠、もう可愛すぎですよ! またギュッてしたくなるじゃないですか」


「ルイーズ、それ以上はロゼッタさんに失礼だろ……ふふっ」


「いいぞ、いいぞ! これで生意気な言動もできなくなっただろ。いい気味だ」


 全員でゲラゲラ笑う。すると、ロゼッタの身体がプルプルと怒りに震えだした。直後、彼女の周りに大きな炎が噴き上がる。


「全員、燃やし尽くして灰にして差し上げましょうか?」


 五歳でもブチギレたのはその表情でわかる。ただ、この炎は反則だろ。


「ちょっ、ロゼッタ! 熱い、熱いっ」


「まさか、五歳の身体でここまで大きな魔法が使えるのか? そんなバカな」


「いいえ、本当ですよ。私が五歳の頃にはこれくらいできていました。ただ、大人の時に比べたら十分の一も出てませんが。みなさんを燃やすには十分そうです」


 目が本気だ。暗殺者のそれになってる。これは本当に燃やされかねない。コドモダケですら、大慌てで私の服の中へ逃げ込んでしまった。


「からかってごめん! 調子に乗りすぎましたっ。反省してます。だからその炎しまって」


「嫌です。誠意を感じられない」


「師匠! 感情的になって魔法を暴走させちゃダメじゃないですかっ」


「これは暴走ではなく、きちんとコントロールしています。それに、今の私は五歳なのでいいんです」


「屁理屈こねた!」


 マズイ、このままじゃあ残った北の森すべてを燃やしかねない勢いだ。どうにかして止めないと。すると、捕まったままの不審者が大慌てて叫ぶ。


「やめてくれ! コドモダケは熱に弱いんだ。切っても分裂するだけで死なないけれど、焼いたり煮たりされると死んでしまう。だからその炎をしまってくれ!」


「嫌です。元はといえばあなたのせいでしょう。あなたがコドモダケを見つけて追いかけ回さなければ、コドモダケはアンジェリーク様の服の中に逃げ込むこともなかった。そしてそれを取り出そうとしてアンジェリーク様の服の中に手を入れようとするあなたに、私が怒ってコドモダケの瘴気を浴びることもなかった。そうか、あなたを殺せばいいんですね?」


 合点がいったという風にロゼッタが頷く。不審者は「待て待て待て待て!」と大慌てだ。


「しょ、瘴気を吸って身体が子どもの姿になったからと言って、悪いことばかりでもないよ。噂では、あらゆる毒とか、あと麻痺とか石化とか状態異常に耐性が付いて効きにくくなるらしいんだ。すごいラッキーじゃないか。むしろ僕の実験の被検体になって、一緒にその噂を実証しようよ。うん、それがいい!」


「はあ?」


 ロゼッタが不審者の彼に向かって火の玉を放つ。それは彼の横髪を掠めた後で消えた。チリジリになった髪から小さな煙が立ち昇る。


「今のはわざとです。次は外しません」


「ごごご、ごめんなさい!」


 彼の顔が「ひいっ」と引き攣る。これはどうにもならんな。


 そう観念すると、私は服の中からコドモダケを取り出すと、それをルイーズに渡した。


「ごめん、ちょっと預かってて」


「それは構いませんが。何をなさるつもりですか?」


「誠心誠意謝るの」


 そうウインクをしてルイーズの元を離れる。そしてロゼッタの前まで来ると、私はその場に正座した。ロゼッタの眉間にシワが寄る。


「なんの真似ですか?」


「ちゃんと謝りに来たの。子どもの姿になったあなたの気持ちも考えず、笑っちゃってごめんなさい」


 そう言って頭を下げる。その後で顔を上げると、ロゼッタの顔は驚いていた。


「確かに笑っちゃったのは悪かったわ。でも、ちょっと嬉しくもあったのよ」


「嬉しい? 私をからかっていつもの仕返しができるからですか?」


「それもなくはないけど。そうじゃなくて。あなたの子どもの頃が少し知れて嬉しかったの。こればっかりは、こんなことでもない限り叶わないから」


「っ……! 知ってどうするのですか?」


「べつになにも。ただ知りたいだけ。だって、大好きな人のことはなんでも知りたいじゃない。特にロゼッタは、私にとって家族同然なんだから」


 前世では、写真や動画が簡単に撮れて、幼少期の姿なんかすぐにわかった。でも、この世界ではそれが当たり前ではない。特に彼女は多くを語りたがらないから、知っているのは出会ってからのロゼッタだけ。それが少し寂しいと思う時もある。だから今、ちょっとだけ嬉しいのだ。


 微笑む私を見て、ロゼッタの周りから炎が消えていく。そして彼女は私にそっと近付くと、恥ずかしそうに視線を逸らしつつその頬を薄く染めた。


「……責任、ちゃんととってくださいね。こうなったのは、すべてあなた様が油断したせいですから」


「もちろんよ。煮るなり焼くなり好きにしてちょうだい」


「それはしません。ただ……たとえ一生このままの姿で、護衛としての機能が失われても、あなた様のおそばにいさせてください。それが私の考える責任のとり方です」


「何言ってんの! そんなの当たり前じゃん。たとえあなたが毒か何かにやられて一生寝たきりになったとしても、私が死ぬまで面倒見てあげるわよ。だから安心なさい」


 腰を浮かせてロゼッタを優しく抱きしめる。いつもより細い身体は、強く抱きしめると折れてしまいそうだった。だからこそ余計に愛しさが増す。


「約束、ですからね」


「うん」


 ロゼッタが私を抱き返す。彼女が子どもの姿になって一番不安だったことがなんだったのか、それが知れてまた一つ嬉しくなった。


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