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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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コドモダケ

「なんだこれっ」


「きゃあっ」


「ジル、ルイーズ!」


「くそ、魔法か」


「木の魔法使いですね。厄介な」


 ギャレット様とロゼッタまで蔓に縛り上げられている。よほどの使い手かもしれない。ただ、コドモダケがいる私だけは無傷だった。


「その子を返してくれ。その子がいれば、今まで治らなかった病気も治るかもしれない。そんなとても貴重な子なんだ。己の欲のために手荒に扱っていい代物じゃない」


「よく言うわね。あんたこそ、この子高値で売り払うつもりなんでしょ。そういう下衆な人間にこの子は渡さない」


 人の胸見てガッカリするような奴だけど。懐かれていると自覚したら不思議と愛着が湧く。不審者から守るように胸を隠すと、コドモダケは小さな声で「キノォ……」と鳴いていた。


「そんなことしない! それをしようとしているのはお前だろ」


「はあ? 名前だけで勝手に決めつけないでよ。私にだって優しさはあるんだからね」


「言葉ではいくらでも言える」


 不審者が右手を振ると、それに合わせて蔓が一斉に私めがけて襲ってきた。


「アンジェリーク様、逃げてください!」


「言われなくてもわかってるわよっ」


 襲ってくる蔓をなんとかかわしていく。魔法なら私に効かないとは思うけど、木の魔法の場合、前に捕まったことがあるから油断できない。


 なんとか襲ってくる蔓を避けきって、近くの木で一休みする。すると、その木を這うように下から蔓が伸びてきた。しまった、と思った時には、両手足を木に縫い付けられていた。その間に、不審者は私に迫ってくる。


「やっぱり、なんでっ」


 嫌なシーンがフラッシュバックする。しかし、私は頭を振ってそれを無理矢理追い出した。


 思い出すな。今負けたらこの子が危ない。


 ついに、不審者は私の前まで来てしまった。そして、コドモダケに手を伸ばす。服の中に逃げようにも、木の幹にキツく縛られた私の身体には動き回れるような隙間はない。コドモダケは「キノっ、キノーっ」とその小さな身体を震わせていた。


 ダメだ、捕まる。そう思ったけれど。


 不審者の手はコドモダケの頭の前でピタリと止まった。


「さ、さすがに女性の服の中に手を入れるのはちょっと……。ほーらコドモダケ、こっちに飛び移っておいでー」


「は?」


 不審者は優しく語りかけるが、コドモダケは傘をフルフル左右に振って拒否する。


「ほら、怖くないよ。良い子だから出ておいでー」


「キノーっ」


「いや、あんためちゃめちゃ怖いでしょ、格好が」


「そんなバカな。確かにちょっと変装はしてるけど、これくらい普通だろ」


「どこがよ!」


 まだフード被るのは良しとしても、その仮面のチョイスはあり得ないだろ。


 不審者は何度も優しくコドモダケに語りかけるが、コドモダケは一向に動こうとしない。そんな姿を見て、不審者は首を傾げた。


「おかしいな。コドモダケは警戒心が極端に強いから、人間に懐くなんてあり得ないのに。何故か君からは離れようとしないなんて」


「私、魔物に好かれる体質なの。だからじゃない」


「そうなの? それは大変だね」


「まあね」


 なんて、私もなに呑気に話してるんだか。そう冷静にツッコミを入れてみるけど。なんだろう、見た目はめちゃくちゃ怪しいのに、まとうオーラは不思議と怖くない。身の危険だと思えない。


「ねえ、なんでコドモダケを捕まえたいの?」


 純粋に聞いてみる。すると、仮面の向こうの目が私を捉えた。


「この子は、食べれば不老不死とか、万能薬だとか言われてるけどそうじゃないんだ。でも、確かに治せる病気の種類の豊富さとその完治度は高くて、この子一匹で何万という病気の人を治せる力を持っている」


「すごっ! この子が?」


「そうだよ。でも、そのせいで乱獲されて数が少なくなっちゃったから、まだまだすべての生態を把握できてはいないんだ。もしかしたら、人間では治せなかった不治の病をも治す力を持っているかもしれない」


「つまり、この子は医療の可能性なのね」


「そう。病気で苦しむ人達の希望の光なんだ。だからどうしても生態を調べたい。だからお願いだ、コドモダケ。僕に力を貸してくれないか?」


 不審者は両手を合わせてコドモダケに懇願する。とても良い話の後だから、小説なんかだったらここでコドモダケがうんと頷いて男の手の中へ飛び込んでいくんだろうけれど。


 しかし、現実はそんなに甘くなかった。


「キノっ」


 まるで嫌だと言わんばかりに傘を左に向ける。プイっと顔を背けたな。まあ確かに、この子からしてみたら人間の都合なんて関係ないんだろうけど。


「あんた、嫌われてるわね」


「結構追っかけ回しちゃったからなぁ。よし、こうなったら仕方ない」


 そう言うと、彼は私の目の前でごめんのポーズをしてみせた。


「ごめんなさい、アンジェリークさん。これもコドモダケを捕まえるため、病気で苦しむ人達のためです。服の中に手を入れさせてください!」


「はあ!? それとこれとは関係ないでしょがっ」


 そう悪態をつくが、逃げようにも蔓に縛られて動けない。彼の手がだんだん私の胸へと近付いてきた。


「ちょ、ちょっと待って……っ」


 悪意はないんだろうけれど、やっぱり男性に服の中に手を入れられるのは抵抗があるわけで。私は「ひいっ」と顔を引き攣らせる。


 すると、コドモダケがプルプル震え出した。さっきまでの怖くて震えているやつじゃなく、例えるなら便を出す時の犬みたいな感じ。そういえば、この子危険を察知すると瘴気を出すってロゼッタが言ってたっけ。もしこれがそうならチャンスだ。


 よし、いいぞ。このままあいつにお前の瘴気を食らわせてやれ。


 そんなことを考えている時だった。ゴウっという轟音と共に、灼熱の熱風が身体中を撫でる。見ると、ロゼッタが巨大な炎でみんなに絡みついた蔓を一瞬で焼き払っていた。それのおかげか、私に絡み付いていた蔓も消えていく。ロゼッタはというと、不審者の彼を睨みつけていた。


「下衆が。アンジェリーク様から離れろ」


 低く冷たい声。その顔つきは暗殺者そのもの。一瞬で空気が冷たく張り詰める。それを見て怯えたのは不審者の彼だった。


「ひいっ! 殺されるっ」


 そう叫ぶと、魔法でたくさんの蔓をロゼッタに向ける。しかし、走り出したロゼッタはナイフでそのことごとくを切り捨てていく。そして、あっという間に彼の前まで来ると、足を払い、仰向けに倒れた彼の鳩尾を足で踏んづけた。


 彼は「うげっ」と呻きつつもがくが、地面に縫い付けられたように動けない。そんな彼に、容赦ないロゼッタの殺気が放たれる。


「主人の身の危険を察知。殺します」


 ナイフを掲げて冷たく宣告する。殺していいか、と私にお伺いをたてるのではなく、ストレートに殺すの一択のみ。うわぁ、マジでブチギレてるよ。


「ロゼッタ待って! その人、悪い人じゃないかも」


「はあ?」


 刺すような鋭い視線がギョロリと動く。さすがの私も、あまりの迫力に気圧されてしまった。ジルとルイーズなんか、あまりの恐怖に二人肩寄せ合って震えている。


「いや、だから……」


「殺します」


 私の言葉を聞かず、ロゼッタは「やめて!」と叫ぶ彼の顔の上にナイフを掲げる。これはマズイ!


 その時だった。


「キノ、キノ、キノ、キノ、キノーっ!」


 コドモダケの傘の天辺から、紫色の煙みたいなものが噴射される。それは見事ロゼッタにかかった。踏まれていた不審者が叫ぶ。


「瘴気だ!」


「なんでこのタイミングで噴射すんのよ!」


「ロゼッタさん!」


「師匠!」


 大変だ。もしこれが毒だったりしたら、ロゼッタが死んじゃう。


「ロゼッタァ!」


 力の限り叫ぶ。すると、紫色の煙の中から「ごほ、ごほっ」と咳き込む声が聞こえてきた。良かった、生きてる。


 ホッと胸を撫で下ろす。しかし、瘴気が晴れて現れたロゼッタの姿を見て、私は我が目を疑った。


「ロゼッタ……?」


 不審者の胸の上。そこに座り込んでいたのは、どう見ても五歳くらいの女の子だった。その周辺には、つい先ほどまでロゼッタが着ていた服が散乱している。


「これはいったいどういうこと?」


 その私の呟きを無視して、不審者の彼が叫び声をあげる。


「あー! せっかくの瘴気が消えていくぅ! 待って、僕にも吸わせてっ」


 女の子を除けるようにがばりと起き上がると、彼はコドモダケに詰め寄る。しかし、コドモダケは顔をプイっと逸らして服の中に潜り込んでしまった。その近付いてきた顔を、私は両手でガッシリと掴む。


「ねえ、どういうことか説明して」


「へ?」


「ロゼッタはどこ?」


 一部始終を見ていたギャレット様やジルやルイーズもこちらに近付いてくる。すると、むせ込んでいた女の子がやっと口を開いた。


「私としたことが。怒りに任せて周囲の警戒を怠ってしまいました。反省です」


 五歳らしからぬ喋り方。それには聞き覚えがある。


「・・・・・・もしかして、ロゼッタなの?」


「はい。そうですが、何か?」


『えぇーー!!』


 不審者以外の全員の声が、空高く響き渡った。


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