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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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不審者発見

 そうこうしているうちに、北の森の入り口付近に着いてしまった。やはり、奥にある孤児院よりも近いので着くのが早い。


「へえ、入り口付近でも色々自生してるのね」


「カルツィオーネは土壌も良いので、色んな植物が自生してるらしいですよ。だから魔物もそれ目当てにやってくるんだろうって、この前ヘルマンさんが言ってました」


「昔から、怪我したり熱出したりした時は、みんなで薬草採りに行ったりしてたんです。ジゼルさんが詳しくて、みんなで教えてもらいながら」


「そっか。みんなたくましいね。そういえば、ロゼッタも怪我した私のために薬草で簡易的な薬作ってくれてたよね」


「基本、薬は高価ですから。庶民にはなかなか手が届きません。ですから、平民にとって薬草は重宝されるのです。私も幼少期にある程度の薬草の知識は叩き込まれました」


「軍でも一応教育はしている。魔物の討伐や戦争が起こった時など、薬が無くなった場合を想定してな」


「なるほど。結構薬草って需要があるんだ」


 前世の時は、ドラッグストアへ行けば薬が難なく手に入ったから、ありがたみなんて感じたことがなかったけれど。この世界に生きる人達からしてみたら、贅沢なことだったんだ。


 ジルとルイーズに教えてもらい、薬草を探して採っていく。ギャレット様は薬草そっちのけで、不審者を探すため周辺を見回っていた。


「ほんとに不審者いるのかな?」


「さあ。ですが、目撃者が多いということは、その可能性は高いでしょう」


「そっかぁ」


 しゃがみつつ、草をかき分けながら薬草を探す。すると、目の前の雑草の分け目がガサゴソと勝手に動いた。


「なんだろう」


 不思議に思いながらも、雑草をかき分ける。すると、そこから何かが勢いよく私の顔に飛び込んできた。


「キノー!」


「ふぎゃっ」


 衝撃はそこまで大きくなかったけれど、あまりの不意打ちに思わず尻もちをつく。異変に気付いたロゼッタが慌てて私の所へ駆けつけて来た。


「アンジェリーク様! 大丈夫ですか?」


「う、うん、大丈夫……ははははっ」


「アンジェリーク様?」


「ふ、服の中に、何か、入って……はははっ! くすぐった……ひひっ」


「服の中に?」


 私の服の中で何かが暴れ回っている。特に痛みはないけれど、動く度にくすぐったくて仕方ない。そんな私の異変に、今度はジルやルイーズだけでなくギャレット様まで気付いた。


「なんだ、どうした?」


「アンジェリーク様の服の中に、何かが入り込んで暴れ回っているようなのです」


「服の中に?」


 その時、背後の木の影から一人の男性が飛び込んできた。


「コドモダケどこいった!? ……ってうわっ」


「うげっ」


 あまりに突然のことに、私とその男性がぶつかる。その衝撃で、私の服の中にいた何かがやっと外に飛び出した。


「いたたたたっ……」


 男性が身体を起こし、私もぶつけた頭を押さえつつ目を開ける。すると、ちょうどその男性が私を押し倒しているような格好になった。


 首から上を覆う黒いフードに、仮面舞踏会などで使う目元だけ隠す派手な白い仮面を付けた顔。どこからどう見ても不審者だった。


『あっ』


 二人の目が合う。すると、フード奥の彼の耳が赤く染まった。


「ちちち、違うんだ! これは、そのっ」


 言い訳する前に、ロゼッタの鋭い横蹴りが彼に襲いかかる。完全に不意打ちだったのに、彼は咄嗟に腕でガードしてそれを防いだ。ただ、上手く力を逃しきれず後ろに吹き飛ぶ。


「外道が。私の目の前でアンジェリーク様を襲うとはいい度胸です」


「お、襲ってない、襲ってない! 今のは事故ですっ」


 すると、今度はギャレット様の剣が彼を襲う。しかし、彼は「ひいっ」と叫びつつも寸でのところでそれを回避した。


「ほう。今のをかわすとはなかなかやるな」


「い、いきなり何するんですかっ」


「お前がこの辺を彷徨いている不審者だな」


「はあっ?」


「目的はなんだ。命が惜しければ答えろ」


「目的? 命? あの、いったい何のことだか……」


「そうか、言わないのか。ならば無理矢理にでも吐かせてやる!」


 ギャレット様が剣を握って走る。そして遠慮なく剣を振り下ろした。


「ちょ、ちょっと待って……ひいっ」


 彼は次々襲いかかってくるギャレット様の剣撃を、間一髪のところですべてかわしていく。フードを被り、仮面を付けた不審者の姿で。


 何これ。喜劇か何かか。


「あの不審者すごい。ギャレット様の攻撃をかわしてる。しかも、仮面付けて視野が狭くなってるはずなのに」


 ジルが感心したように呟く。確かに、兵士三人相手でも余裕だったギャレット様の攻撃を、ギリギリとはいえかわしているのはすごい。


「ちょこまかと逃げやがって。やはり狙いは殿下達か?」


「殿下達っ? いったいなんのことですか。僕はただコドモダケを捕まえに来ただけですよっ」


『コドモダケ?』


 ジルとルイーズと私の声がハモる。すると、道の端にリスか子猫くらいの大きさの何かが動いているのが見えた。


 それは、キノコだった。茶と白のブチ柄の傘に太く白い柄。ここまでならただのキノコだが、その柄から小さな両手足が生えている。顔はないみたいだけど、まるでどっかの企業のCMキャラクターみたいだ。


「……ねえ、あそこに動くキノコがいるんだけど」


「キノコ? あ、ほんとだ!」


「すごい、動いてる! 動くキノコだ」


「あれはたぶん、コドモダケですね。私も初めて見ました」


 ロゼッタの声も少し驚いている。


「初めてって、そんなにいっぱいいないの?」


「絶滅危惧種です。彼らはあらゆる病気や怪我を治してくれる万能薬として乱獲され、その数を激減させました。今では幻のキノコとも呼ばれています。今ならかなりの高値で売れるでしょう」


「幻のキノコに高値……。あれ、植物なの?」


「いえ、厳密に言えばあれは魔物です」


「魔物? あんなに可愛い魔物もいるのね」


「ただ少し厄介な特性がありまして……」


「厄介?」


「あ、いた!」


 ついに、不審者がコドモダケを見つけた。見つかったキノコは身体をビクつかせる。


「捕まえたーっ」


 その不審者は、ギャレット様の剣を避けてコドモダケに飛びつく。しかし、コドモダケはジャンプしてあっさり逃げた。そしてなんと私に向かってくるではないか。


「うえ、何なに!?」


 驚いているうちに、コドモダケは再び私の服の中へと入り込む。ただし、今回は動き回ることはせず、私の胸の前で服の中から傘だけ見せていた。


「コラ! あんたいちいち人の服の中入り込むんじゃないわよ」


 そうお説教すると、傘がフルフルと左右に動く。その後で、チラリと服の中の胸を見下ろした。すると、傘が斜め下を向いて、まるで落ち込んでいるような姿になる。


 表情が無くてもわかる。コイツ、私の胸が無くてガッカリしやがったな!


「悪かったな、胸無くて。だったらここから出んかい!」


「キノーっ」


 捕まえようとしたら服の中に入り込み動き回る。そして私が疲れた頃合いを見計らって、再び胸の真ん中から傘だけ出して勝利を示した。


「いたく懐かれてますね」


「はあ、はあ……。感心してないで、コイツどうにかしてよ」


「そうしたいところなのですが。迂闊には手を出せないのです」


「はあ?」


「このコドモダケは、危険を察知すると瘴気を放つのですが。その瘴気が曲者で……」


「その子、そのまま捕まえててくださいっ」


 ロゼッタの説明を途中で遮るように、不審者が私にそう願う。そして、そのまま鼻息荒くこちらへ向かってきた。


「ひいっ、キモい」


 しかし、護衛であるロゼッタが私の前へ移動しその進路を塞ぐ。


「アンジェリーク様には指一本触れさせません」


「アンジェリーク? アンジェリークって確か……はっ! その特徴的な縦ロールの髪……っ。もしかしてあんた、極悪令嬢アンジェリークか!」


「様を付けて呼べ、不審者」


 しかし、彼には聞こえていないらしい。


「マズイ、マズイぞ。このままじゃコドモダケが危険だ。きっと、煮て焼いて食われるっ」


「私は妖怪か。失礼な」


「あの子を救出しないと。みんな、僕に力を貸して」


 そう呟くと、不審者は地面に両手をかざした。直後、そこから大量の蔓が発生。それは私以外の四人に絡みつき、その身体を宙に浮かせた。


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