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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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不審者情報

「ジル、そろそろ薬草採りに行かないと、私昼食の仕込みに間に合わなくなる」


「あ、そっかごめん。すっかり忘れてた」


「もうっ」


 ギャレット様のおかげか、二人がいつも通りに戻った気がする。たぶん、ジルの悩みが解消されたからだろう。そんな二人の様子に思わず笑みがこぼれる。


「なんだ、お前達薬草を採りに行くのか?」


「はい。これから北の森の入り口付近で。そこならある程度知ってますし、魔物もそこまで多く出てきませんから」


「なるほど。北の森、か」


 ジルの説明を聞いて、ギャレット様が思案顔を作る。それをすかさずロゼッタが指摘した。


「何か、北の森で気になることでも?」


「いや、今朝何人かの兵士が、見回り中に北の森近辺で不審者を見かけたと言っていたんだ」


『不審者?』


 私、ロゼッタ、ジル、ルイーズの四人の声がハモる。


「どんな方でしたか?」


「それが、フードを被っていて顔は見えなかったらしい。ただ、動きが挙動不審だったので声をかけたら、一目散に森の奥へと逃げていってしまったらしくてな。後を追ったが撒かれてしまったと」


「複数の兵士を撒いて逃げるなんて。なかなかの人物ですね」


「そうなんだ。ただの不審者ならべつに問題ないが、もし殿下達の命を狙うような輩なら見過ごせない」


「もしかして、山火事の放火犯だったりして」


 ルイーズが冗談っぽく言う。すると、全員の視線が彼女に集まった。


「ルイーズ、どうしてそのことをあなたが知っているのですか?」


「だってミネさんとヨネさんが言ってましたよ。あの連日の山火事は放火犯の仕業で、放火をやめさせるために私達が一肌脱いだんだって。すごく嬉しそうに話してくれましたけど」


「俺は自警団の人達から聞きました。その人達は噂で聞いたって言ってましたけど」


 ルイーズとジルが不思議そうな顔を私達に向ける。


「そうよね、私達がその噂を流した張本人。あれから結構経つもんね。みんな知ってて当然か」


「ですが、あれから数週間、火事は起きていません。そう考えると、やはり放火犯は逃げたか、あるいは絶命したか。そのどちらかでしょうね」


 ロゼッタが淡々と答える。しかし、ただ一人ギャレット様が険しい顔をしていた。


「いや、そうとも限らない」


「というと?」


「実は、今日マルセル様がいらっしゃったのは、シャルクの街外れで火事が起きたからなんだ」


『火事が!?』


「もしかして、山火事ですか?」


「いや、誰も使ってない空き家が二件と、ワイン用の葡萄畑が一件燃えたらしい。まあ、葡萄畑の方はすぐに鎮火できたからそこまで被害は大きくなかったようだが。さすがに先週一週間で三件は多いからな。念のためマルセル様はクレマン様や殿下達に報告しに来たというわけだ」


「ちょっと待って。そこまで重要な話なのに、なんで私達だけ蚊帳の外なんだろう?」


 イラっときて、ブーっと頬を膨らませる。すると、ギャレット様がため息をついた。


「殿下達が気を遣ったんだ。今のお前は常闇のドラゴンのことで頭がいっぱいだから、これ以上余計な心配を増やしたくないと。もちろん、クレマン様も同意の上でな」


「そんな……」


「自業自得です。毎日倒れるほどの無茶を続けて周りに心配をかけるからこうなるのです。大いに反省してください」


「くっ、正論すぎて言い返せない」


 ロゼッタの言葉に、ジルやルイーズまでもが頷いている。そこまでひどかったのか、私。


「あれ? でもギャレット様は今私にそのことを話しても良かったのですか?」


「俺は殿下達ほどお前に甘くないからな。不安材料が増えて大いに悩むがいい」


「うわ、ひどい」


「それに。ここまできたらその不審者は怪しいからな。捕らえて話を聞く必要がある。どっかの暗殺者に誤って殺されては困るんだ」


「また師匠の悪口をっ」


「ルイーズ、やめなさい。確かにその通りですから。普段はアンジェリーク様に殺人を止められていますが、主人に危険が迫ればその限りではありません。ですが、事情を知っておけばそれなりに対処もできます」


「師匠は優しすぎですよ。もっと怒っていいと思います」


「そんなことを言うのはあなたぐらいのものです。私にはそれだけで十分ですよ」


 そう言ってロゼッタが微笑む。すると、ルイーズは少し恥ずかしそうに笑った。


「というわけで、俺も北の森へ行くぞ。殿下達への危険因子は、この俺が早めに摘み取る」


「ほんとですか!? やった!」


 ジルが嬉しそうにガッツポーズする。それをルイーズは面白くなさそうに見ていた。


「べつに来なくてもいいのに」


「何言ってんだ。間近で近衛騎士の実戦が見られるかもしれないんだぞ。こんなチャンス滅多にないだろ」


「確かに殿下達を助けに行った際、ギャレット様お一人だけが、重傷で動けなくなったレインハルト殿下をダークウルフの群れから守る盾のように戦っておられましたから。ジルには良い教材になるかもしれません」


「殿下を守る盾のようにっ……やっぱカッコいい!」


 ジルの目がいっそう輝きを増す。すると、ギャレット様の頬が大いに緩んだ。


「よ、よぉし。俺が基本の戦い方を教えてやろう。ジル、ついて来い!」


「はい!」


 ギャレット様が張り切って先頭を歩く。その足取りはどこか軽やかだった。


「やっぱり嬉しそう」


「嬉しそうですね」


「嬉しいって素直に認めればいいのに」


 最後のルイーズの呟きに、思わず女性全員で頷いてしまった。


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