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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ライバル

「ジルに何するんですか!」


 そう言って、今度は数えるのが億劫になるほどの無数の球体を出現させる。その数の多さに、兵士だけでなくギャレット様も驚いていた。


 ルイーズが右手を掲げて、今まさに球体を飛ばそうとしたその時。いつの間にか背後に移動していたロゼッタが、彼女の頭にチョップを食らわせてそれを阻止した。


「いったぁ……っ」


「決着は着きました。もう終わりです」


「でもっ」


 反論しようとしたら、再び彼女の頭頂部にチョップが叩き込まれる。


「あなた、私が背後にも気を配るようあれだけ口酸っぱく教えてきたのに、それを怠りましたね?」


「そ、それは……」


「言い訳は聞きたくありません。やはり、あなたはアンジェリーク様と同じで実戦向きのようです。次からは、私との実戦形式の訓練にしましょう」


「ひぇっ」


 顔を引き攣らせるルイーズ。そりゃそうだよね。この二週間、ロゼッタとの実戦形式の訓練で、私がどれだけひどい目に遭ってるか知ってるんだもんね。


 そんな彼女を置いて、ロゼッタはギャレット様達に深々と頭を下げた。


「弟子がご無礼を働きまして、誠に申し訳ありませんでした。今後このようなことがないよう、以後気を付けさせます」


「し、師匠が謝る必要はありません。あの人は師匠のことを悪く言ったんですよ」


「あれはわざとです」


「わざと?」


「ジルの本気を引き出すために、ギャレット様はあえて私の悪口を言ってあなたを焚きつけたのです。そうですよね? ギャレット様」


「ふん。お前への発言は本心だがな」


「なっ」


 今にも噛みつかんばかりのルイーズを、ロゼッタが静かに制す。そして、今度は彼女の頭に優しく手を乗せた。


「背後の警戒を怠ったのは見過ごせませんが。怒りに任せて魔法を暴走させなかったのは褒めてあげます。少し成長しましたね」


 そう言って、ロゼッタはルイーズの頭をよしよしと撫でる。それまで怒っていたルイーズも、この時ばかりは嬉しそうに笑っていた。


「いいなぁ。私も褒められたい」


「褒められるような働きをしてください。今のところ、あなた様は無茶をして倒れることしかしていません」


「それぐらい頑張ってる、と前向きに捉えることもできると思うけど」


「ご冗談を」


 ロゼッタが鼻で笑う。明らかに差別化されてるんだけど。そう思ったけれど、ルイーズの手前口をグッと閉じた。


「立てるか?」


 ギャレット様がジルに手を差し伸べる。ジルはその手を握ると立ち上がった。


「あのっ。俺、胸倉掴んだり失礼なことしてすみませんでした!」


「謝る必要はない。最後の攻撃は泥臭かったが、戦闘中はそんなの関係ないからな。最後は気持ちの強い方が勝つ。お前は合格だ」


「あ、ありがとうございます!」


 そう肩を叩かれ、ジルの顔が誇らしげに輝く。あっちもこっちも褒められていいなぁ。


 そんな彼の元へルイーズが頬を膨らませながら駆け寄っていく。


「ジル! この人はジルにひどいことしたんだよ。師匠のこともバカにしてたし。仲良くなっちゃダメ」


「何言ってんだ。近衛騎士っていったら、騎士の中でもエリート中のエリートだぞ。そんなすごい人がこんな俺にも稽古つけてくれたんだ。すっごく良い人だろ」


「そんなことないもん。本当に良い人なら、私に剣向けたりしないよ」


「それは、ルイーズがギャレット様に対して攻撃態勢に入ったからだろ」


「だって、師匠のことバカにされてムカついたんだもん。だからつい」


「つい、じゃないだろ。もうあんな危ないことはやめろ」


「やだ。やめない」


「はあ?」


「確かに今回は感情に任せてやっちゃったけど。でも、魔法の訓練も、今みたいな実戦もやめない。だって、私も強くなるって決めたから」


「いい加減にしろよ! さっきのだって、あれが真剣でギャレット様が本気だったら、お前死んでたんだぞ」


「それが何?」


 即答するルイーズに、ジルは「なっ」と言葉を詰まらせた。


「師匠の弟子になるって決めた時から覚悟はできてる。山火事の時、ジルは私を守って大怪我したでしょう? あの時、このままジルが死んじゃうんじゃないかってほんとに怖かった。もうあんな思いはしたくないの」


「ルイーズ……」


「だから、今度は私がジルを、みんなを守るの。養成学校行く前に師匠に教えてほしいってお願いしたのも、師匠に教わればもっと早く強くなれると思ったから。たとえ周りから何言われても、怪我して動かなくなったジルを見てるよりかはマシだもん。あの時以上に怖いことなんてないよ」


 ルイーズがジルの手をキュッと掴む。彼はそれ以上何も言えなくなった。それを見て、ギャレット様がジルへ視線を向ける。


「ジル、お前なんで彼女が強くなることに反対する?」


「だって、危ないし……。さっきだってほんとの戦闘だったら彼女死んでたかもしれません。そんな危険なことに巻き込みたくないんです」


「それは本音か?」


「え?」


「いや、それも本音なんだろう。だが、それだけじゃないな」


「それは……っ」


「追いつけない」


 ギャレット様が、ジルの言葉を復唱する。すると、彼はガバッと顔を上げた。


「彼女は、十二歳で養成学校へ行くほどの魔力の持ち主だ。しかも、あのドラクロワの末裔に師事している。今日の様子を見る限り、問題なくいけば、彼女は早い段階で最強の魔法師になるだろう。それに対しての焦りがお前にはある」


「そうなの、ジル?」


 ジルは何も答えない。でも、それが答えだった。ギャレット様は言葉を続ける。


「いいじゃないか、彼女が強くなっても。その分、お前も強くなればいいだけの話だ」


「でもっ」


「お前は勘違いしてないか? 彼女はお前の守る対象じゃない。彼女はお前のライバルだ」


「ライバル……?」


「そうだ。敵じゃない、お前と切磋琢磨して強さを追い求められる同志だ」


「同、志……っ」


「彼女の覚悟は本物だ。でなければ、いくら師をバカにされたからと言って、近衛騎士の俺に立ち向かおうなんて思わない。だから、今度はお前が覚悟を決めろ。彼女の隣は誰にも譲らないという強い覚悟が、これからのお前を強くする」


「はい」


「彼女がお前の一歩前を行くなら、お前は二歩前へ行け。努力を怠るな、何事も貪欲に吸収しろ。その身に降りかかるすべての経験を糧にして強さに生かせ。それができなければ、お前は一生幼馴染のままだ」


「はい!」


 ジルの顔つきが、十二歳のそれから兵士のそれに変わる。彼もまた一皮剥けたのかもしれない。


「こうやって兵士教育がなされていくのね」


「ある意味お手本のようなやりとりでした」


「私には無理だわ。うっせえわってなる」


「アンジェリーク様は捻くれていらっしゃいますから。ジルのように素直でなければ無理でしょう」


 言い方にムカついたけど、その通りなので頷く。ルイーズはというと、ギャレット様を未だに睨みつけていた。


「あの、ギャレット様。これからも俺に稽古つけてもらえませんか?」


「いいぞ。ここにいる間は面倒見てやる」


「やった!」


 ガッツポーズをして喜ぶジルに、ルイーズが不服申し立てをする。


「なんでこの人に稽古つけてもらうの? クレマン様で十分じゃない」


「十分じゃないよ。見ただろ? ギャレット様とクレマン様とじゃ戦い方が違うんだ。俺はギャレット様みたいな戦い方も身に付けたい」


「えぇー……」


「それに、あんなに体格差がある相手をバンバンやっつけてるんだぞ。超カッコいいじゃんか!」


「か、カッコいい……っ」


 ジルの言葉に、ギャレット様がピクリと反応した。


「しかも、俺の悩みを見抜いて鼓舞してくれたり、平民のガキ相手に丁寧に稽古つけてくれる優しさもある。俺もあんな風になりたい」


「あんな風に……っ」


「ギャレット様。俺ギャレット様みたいに強くてカッコいい騎士になりたいです! 今日からギャレット様は、俺の憧れであり、目標ですっ」


「憧れ……目標……っ」


 ギャレット様の身体が小刻みに震えだす。その顔は、ニヤけそうになる口元を必死に抑えようとしている時のそれだった。


「しょ、しょうがないな。そこまでいうんなら、お前の目標になってやる」


「ほんとですか!?」


「か、勘違いするなよ! 嬉しくて許したわけじゃないからなっ」


「はい!」


 ジルの純粋な目には、ギャレット様の嬉しそうなオーラは見えないらしい。それでも、憧れていない私達にはそれが見えるわけで。


「嬉しそうね」


「嬉しそうですね」


「すっごく嬉しそうです」


 私とロゼッタとルイーズの女性三人は、ギャレット様についてそれぞれ冷静に分析する。


「きっと、今まで誰からもそんなこと言われてこなかったのね」


「むしろ、体格のことを指摘されてバカにされていたのではないですか? だからこそ、ジルにカッコいいと言われて胸がときめいてしまった」


「そう考えると、ちょっと可哀想ですね」


「おい、お前ら聞こえてるぞ!」


 私達のコショコショ話に対して、ギャレット様がものすごい勢いでツッコミを入れる。怒るということは、たぶん図星なんだろう。


「でも、ちょっと意外でした。ギャレット様がジルに稽古をつけてあげるばかりか、あんな風に鼓舞してあげるなんて。殿下達以外眼中にない人だと思ってました」


「俺は殿下達の護衛だが、その前に一人の騎士だ。兵の教育だって仕事の一環。自ら学びたいと志願する人間を教育するのも俺の仕事の内だ」


「そうですか」


「それに……あいつの気持ちもわからなくもないからな」


「は?」


 どういう意味かと聞き返そうと思ったけれど、ギャレット様はそれ以上は話さないと言いたげに顔を逸らしてしまった。


 そのうち、ルイーズが「あっ」と声をあげる。


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