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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ジルの思い

「お前は……」


「ジルといいます。クレマン様のところで剣を習っています」


「知っている。そんなお前がどうして?」


「もっともっと強くなりたいからです!」


 迷いなくそう言い切る。すると、ギャレット様がその目を細めた。そして、何かを見定めるようにジルを見つめる。少しして、彼は再び木製剣の柄を握った。


「いいだろう。特別に稽古をつけてやる」


「ジル、やめときなよ」


 そんな心配するルイーズを振り切って、ジルは近くの兵士から木製剣を受け取りギャレット様と対峙する。そして剣を構えて向かった。


「はあぁっ」


 剣を振り下ろす。しかし、ギャレット様はそのことごとくをヒラリヒラリとかわす。そして、足を引っ掛けて転ばせたり、剣を遠慮なく身体に叩き込んだり、とにかく手加減なしでやり返す。


「視線を逸らすな、もっと相手の動きを見ろ」


「はいっ」


「ガードが遅い。相手の攻撃を何も考えず直感だけで防げるのは天才だけだ。そうでないお前は、次にどんな攻撃がくるか相手の攻撃をある程度予測しながら動け」


「……はいっ」


 そう言われてもすぐには実行できないわけで。あれよあれよと言う間にジルはボロボロになってしまった。


「ロゼッタ、今の聞いた? 直感だけで防げるのは天才だけだって。もしかして私天才――」


「違います」


 ロゼッタが食い気味に否定する。その顔には、勘違いするな、と書いてあった。言われなくてもわかっとるわ。


「ジル!」


 たまらずルイーズがジルの元へと駆けつける。しかし、ジルは「来んな!」と強く否定した。そして、剣を杖になんとか立ち上がる。


「もう一回、お願いします」


「ジル! もうやめなよ」


「ルイーズは黙ってろ!」


 叫びにも似たジルの制止に、ルイーズも思わず立ち止まる。ルイーズに対してあんなに声を荒げるジルは初めて見たかもしれない。


 そんな二人のやりとりを見て、ギャレット様がジルに質問を投げかけた。


「ジルとか言ったな。お前はどうして強くなりたい?」


「守りたいものが、あるからです。でも、今のままじゃ、追いつけないっ」


 息切れしながらもそう答える。彼の目はまだ死んでいなかった。


「追いつけない?」


 ギャレット様がふいにルイーズを一瞥する。その後で私とロゼッタへと視線を移した。すると彼は何か合点がいったという風に、ふん、と鼻を鳴らす。


「そこの女、ルイーズとか言ったな。あの山火事の時、大地震を連発するほど巨大な魔法を暴走させていたのはお前か」


「その通りです。その反省も踏まえ、今はとある方に魔法の使い方を教えてもらっています」


「あの暗殺者から魔法を習っているんだな」


「暗殺者ではありません。師匠はアンジェリーク様の護衛です」


「師匠?」


「私は、自らロゼッタ・ドラクロワの弟子にしてほしいと志願いたしました。今その師匠から魔法を教わっています。とても素晴らしい師です」


「素晴らしい? どこが。金さえ積めば平気で人を殺す、誇りもプライドもないハイエナのどこが素晴らしいというのか。お前は騙されているだけだ」


「それ以上師匠をバカにしないでください!」


 直後、ルイーズ近辺の地面がまるで生き物かのように蠢いた。周りの兵士達からどよめきが起こる。


「ほう、俺と一戦交えるというのか。面白い」


「ルイーズ、やめろ!」


「ジルは黙ってて」


 ジルの制止をルイーズがバッサリ切り捨てる。そして、蠢いている地面からいくつかの土の球体が現れた。その一部はさらに形を変えて、尖った石槍のような姿になる。本気の戦闘態勢だ。


 ルイーズが右手を掲げる。すると、数本の石槍がギャレット様へ向かって飛んでいった。しかし、ギャレット様はそれらを難なくかわしていく。そしてルイーズの前まで来ると、剣を構えて振り下ろした。


「ルイーズ!」


 ジルが叫んだ直後、ルイーズの目の前に突如土壁が出現。それはルイーズを守るようにギャレット様の剣を防いだ。


「なるほど。いい反応だ。魔法も上手く使いこなせている。その歳でここまでできるとは大したものだ」


「ありがとうございます。あなたに褒められても嬉しくないですけど」


「ふん。口振りまであいつに似てきたか」


 ギャレット様はルイーズから一旦距離をとる。そして再び走り出した。


 飛んでくる石槍もどきを、軽やかに避けながらルイーズに近付く。そして再び剣を振り下ろした。しかし、また土壁が現れる。ただ今回は様子が違っていた。


 土壁が引っ込んだ後、ルイーズの目の前にギャレット様の姿はなかった。


「あれ? いったいどこに……」


「ここだ」


 ルイーズの背後に回ったギャレット様の低い声。握っている剣はもう頭上高くに掲げられている。ルイーズもやっと反応したけど間に合わない。


 そして、容赦なく剣は振り下ろされた。


 ただし、それが彼女に当たることはなかった。何故なら、剣を持ったジルがそれを防いでいたから。


「ジル……っ」


「なにっ?」


「うおおぉあぁぁっ」


 ジルが今までにないくらいの勢いで剣を振るう。ただがむしゃらにではなく、基本に忠実に。もちろんギャレット様はすべてを防いでいるけれど、少し押され気味。その攻撃を止めようと、隙を突いてジルに蹴りを食らわす。それでも、ジルは倒れることなくすぐさま立ち上がり、そのままギャレット様の懐に潜り込むと、彼にタックルを食らわせた。


「ぐっ」


 勢いのまま、ギャレット様が仰向けに倒れ込む。その隙にジルは馬乗りになり、彼の胸倉を掴んで叫んだ。


「ルイーズには指一本触れさせない。ルイーズは俺が守る!」


 屋敷中に響き渡るような、力強い声。恥ずかしがるでもなく、照れるわけでもなく、彼の顔つきは真剣そのものだった。


 たぶん、ギャレット様にもジルの真剣さが伝わったのだろう。胸倉を掴まれているにも関わらず、彼は嬉しそうにフッと笑った。その後で、容赦なくジルの鳩尾に掌底打ちを食らわす。


「がっ」


 ジルは鳩尾を押さえながらうずくまった。ギャレット様は再び自由になりジルを見下ろす。


「良い面構えだ。その気持ち忘れるなよ」


 むせ込みながらも「え?」と不思議がるジル。そんな彼の姿を見て怒っていたのはルイーズだった。


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