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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ジルの憂鬱

 私は、「ぅおっほん」とわざとらしく咳払いをして話を戻す。


「そういえば、この時間に二人一緒って珍しいね。何かあったの?」


「実は、ミネさんとヨネさんに薬草を採ってきてほしいとお願いされたんです」


「薬草を?」


「肩や腰が痛くなってきたそうです。それで痛み止め作用のある薬草をルイーズに採ってきてほしいと」


「あと、ココットさんからも手が荒れ始めたから、しもやけや肌荒れに効く薬草を採ってきてほしいってお願いされて。私も他の子達もそうだったからちょうどいいかなって思って。そしたら、その話を聞いてたジルが、今日は自主練だから一緒に採りに行くって言ってくれたんです」


「それで二人で薬草採りデートに行くんだ」


 ニヤリと笑いながらわざと含みのある言い方をすると、ジルは顔を赤くして「なっ」と声をあげた。


「ち、違うよ! デートなんかじゃねぇしっ」


「でも、二人っきりなことには変わりないじゃん。いいなぁ、若いって」


「だから、そんなんじゃないんだってば!」


 ジルは興奮すると口調がタメ口になる。そうやって顔を真っ赤にしてムキになっているところが可愛い。お姉さん、ニヤニヤが止まらないよ。


 そんなムキになっているジルとは対照的に、ルイーズは不思議そうに小首を傾げていた。


「これ、デートじゃないですよ。薬草採りに行くだけですし、相手はジルですから」


 最後の一言が見えない矢となってジルの胸を射抜く。あまりの痛さにジルは俯いてしまった。


「どうしたの、ジル。どこか痛いの?」


「いや……べつに」


「ごめん、これは私が悪かったわ」


 居た堪れなくなって、ジルの肩を優しく叩く。ロゼッタはというと、特に同情するでもなく、城門のはるか先を見つめていた。


「どこへ薬草を採りに行くつもりですか?」


「今日は北の森の入り口付近です。孤児院があった奥の方は山火事で燃えてしまいましたが、手前の方は雨のおかげで残りましたし。そこなら行き慣れてるから大丈夫かなって」


「そうですか」


 そう短く答えた後で顎に手を当て考え込む。そして一度頷いた。


「それ、私達も行きましょう」


『えっ?』


 ロゼッタ以外の三人の声がハモる。


「師匠も一緒に来てくださるんですか!? やった!」


「ちょっとロゼッタ。さすがに空気読みなさいよ。ジルが可哀想じゃん」


「ジルには申し訳ありませんが。あの辺はよく魔物が出ます。それに盗賊が出るかもしれません。だからこそ、ジルも護衛のために一緒に行くと手を挙げたのではありませんか?」


「それは……その通りですけど」


「それなら、私達も一緒について行った方がより安全です。それに、ルイーズが実戦経験を積む良いチャンスです。あの山火事以来、実戦訓練はやってませんから」


「ちょっと待ってください! ルイーズは魔法を習い始めたばかりです。実戦はまだ早すぎるんじゃないですか?」


「普通の人ならそうかもしれません。ですが、ルイーズは一度実戦で経験を積んでいます。そこで感じたことですが、ルイーズもまたアンジェリーク様と同じで、実戦で学ぶ方がはるかに飲み込みが早いようです。強くなりたいのであれば、どんどん実戦を積んでいくのがベストでしょう」


「でも……っ」


「これは私達が決めることではありません。ルイーズ、これはあなた自身のことです。実戦訓練をするのかしないのか、あなた自身が決めなさい」


 ロゼッタがそう言って、弟子であるルイーズを見た。強制せず自分で決めさせる。それが彼女のやり方。


 たぶん、私もルイーズもその方が訓練に身が入ると思っているんだろう。実際、お互い教えてほしいとロゼッタにお願いしたのは自分からだし、強制されるより自分で選んだ方が責任感が出てきてよりやる気になっている。そういう個人の特性もいかに見極められるかが、良い師の条件かもしれない。


 ルイーズの目は迷っている。それでも、ジルを一瞥した後でロゼッタへと力強い目を向けた。


「やります、実戦訓練。ジルだってもう実戦訓練始めてるし、私ももっともっと強くなりたいから」


「ルイーズ……」


「決まりですね。では次から自警団の人達に混じって魔物討伐に参加させてもらいましょう」


「はい」


 顔を強張らせながら返事をするルイーズの頭に、ロゼッタが優しく手を乗せた。


「安心なさい。はじめのうちは私も同行します。あなたが生命の危機に晒されるようなことは絶対にしませんから」


「……ありがとうございます。やっぱり師匠は優しいですね」


「勘違いしないでください。あなたに何かあれば、ジゼルさんに申し訳がたたないというだけです。あなたのためではありません」


「はーい」


 ロゼッタの言葉に、しかしルイーズは嬉しそうに頬を緩ませる。私はそれに待ったをかけた。


「ルイーズ、勘違いしちゃダメよ。生命の危機ってことは、死ぬギリギリまでは手を貸さないって意味だからね。この鬼畜教官にそこら辺の人と同じ優しさを求めちゃダメよ」


「そうです。私は倒れるまで訓練する主人を、止められずにみすみす野放しにしているような師です。本当に優しいのであれば、主人を気絶させてでも止めるでしょう。ですから、私は鬼畜教官なのです」


「さらっと私への嫌味入れるのやめてくれる?」


「事実ですから」


 ムッとお互い睨み合う。すると、ルイーズがクスクス笑った。ただ、ジルの顔は晴れない。


「ジルは反対なんだね、ルイーズの実戦訓練。やっぱりルイーズに危ないことはさせたくない?」


「べつに……なんでもありません」


 タメ口ではないけど、声のトーンは低い。明らかに賛成していないようだ。


 理由を聞こうと口を開きかけた時、向こうにギャレット様の姿を見つけた。彼は国王軍の兵士達に稽古をつけている。


「うわっ」


「遅い! そんなことでは、相手に隙を突かれるぞ」


「は、はいっ」


 薙ぎ払った兵士に向かって檄を飛ばす。「次!」と叫ぶと、ギャレット様の前に三人の兵士が現れた。三対一の実戦形式だ。


「はあぁっ」


 三人の兵士が木製剣を構えて一斉にギャレット様へ襲いかかる。彼は一人一人の攻撃をヒラリヒラリとかわしていく。かと思えば剣を交えて攻撃を防ぎ、できた隙を突いて剣撃を食らわせる。それの繰り返し。


 なんというか、クレマン様やラインハルト殿下が、その攻守のほとんどを剣を交えて行っているのに対し、ギャレット様のは無駄に剣を交えず、かわせるものはかわして必要な時だけ剣を使っているような感じ。つまり、動きに無駄がなく、体力の省エネ。


 木の葉というか、柳の木のようなしなやかな動きはどこかで見たことがある。


「あの動き、どことなくロゼッタの動きに似てる気がする」


「そのようですね。これは憶測ですが、彼は華奢で身体もそんなに大きくありません。つまり、私達女性のように体格の良い男性相手に真正面からぶつかっても力で負けてしまう。だから、私と似たあのようなスタイルになったのではないでしょうか」


「なるほど。そう思うと、あの体格で近衛騎士ってすごいね」


「ええ。相当な努力を積んだものと思われます」


 私達の話が終わるのと同時に、三人の兵士が呻きながら倒れる。その真ん中で、ギャレット様は優雅に立っていた。


「次!」


 そう声をかけるが、なかなか次がやってこない。見ると、みんな肩で息をしながら地面にヘタり込んでいた。


「これしきで根をあげるとは情けない」


 ギャレット様はそう嘆くと、木製剣を手近にいた兵士に渡そうとする。その時、ジルがそれに待ったをかけた。


「俺にもお願いします!」


 そう言って、勢いよく手を挙げる。ここにいた全員の視線がジルに集まった。


154部分「女傭兵リザ」を一部改稿いたしました。

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