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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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遠い先の未来

「ジルにルイーズ!」


 そう声をかけると、向こうもこっちに気付いてくれた。


「アンジェリーク様にロゼッタさん」


「今日は倒れていらっしゃらないんてすね。師匠も怒ってないですし」


「………………」


「大いに反省してください」


「はい、ごめんなさい」


 ロゼッタの冷めた視線を受け止めつつ、胸に手を当てて反省する。彼らもニーナと同じように首を傾げていた。


「そういえば。アンジェリーク様、ココットさん達と何かありました? 今日はミネさんもヨネさんもココットさんまで、なんだかアンジェリーク様によそよそしい気がするんですけど」


「えっ」


「そうそう、エミリア姉ちゃんもなんか変だった。元気がないっていうか、落ち込んでるっていうか。あんなエミリア姉ちゃん初めて見た気がする」


 ルイーズとジルが眉根を寄せて顔を見合わせる。その理由を知っている私は、思わず二人から顔を逸らした。そんな私を二人は目ざとく見つける。


「何か知ってるんですね」


「知らない」


「私達の目を見て言ってみてください」


 ルイーズにそう言われ、チラリと二人を見る。しかし、直視できたのは三秒だけですぐに顔を逸らしてしまった。もう何かあったことは一目瞭然だ。


 二人がじーっと私を見つめる。それでも口を割らない私を見て、ついにルイーズが痺れを切らした。


「師匠、教えてください」


「昨日のお茶会で、アンジェリーク様がみなさんとケンカしてしまったのです」


「ちょっ、ロゼッタ!」


「べつに黙っている必要もないでしょう。二人ともこうして心配しているわけですし、すべての原因はアンジェリーク様にあるのですから」


「それはそうだけど……」


「アンジェリーク様がみなさんとケンカなんて珍しいですね」


「どんなことでケンカしたんですか?」


「言わない」


「アンジェリーク様の結婚についてです」


『結婚!?』


「こら、ロゼッタ!」


 慌ててロゼッタの口を塞ぐ。しかし、もう遅かった。二人の顔には興味津々と書いてある。


「アンジェリーク様、結婚するんですか?」


「お相手はどんな方ですか?」


 ジルとルイーズがずずいと顔を近付けてくる。私は「わかった」と言って、それ以上の二人の侵攻を阻止した。


「誰かと結婚するっていう話じゃなくて。私が結婚する気はないって言ったの。そしたらみんながそんなこと言うなって言ってきて。それで放っておいてくれってケンカしちゃったの」


「アンジェリーク様は結婚する気はないんですか?」


「ない」


「どうして?」


「そんなこと考えてる余裕ないから」


「じゃあ、余裕ができたら考えるんですか?」


「え?」


「だって、そういうことですよね」


 純粋に聞き返されて、思わず答えに詰まってしまった。


 もし、レインハルトとエミリアを無事結婚させて、物語を無事完結させることができたら。その後私はどうするのだろう。そういえば、物語を完結させることに必死で、その後のことなんて考えたこともなかった。


「アンジェリーク様?」


「……わからない。毎日生きるのに必死で、そんな先の未来のことなんて考えたこともなかった」


「じゃあ、今から考えてみてくださいよ」


「それは無理ね。私の場合、明日生きてるか死んでるかわからないもの。そんな状態で自分の将来なんて想像できないわ」


 事実すぎて、思わず苦笑する。すると、二人は私の袖口をちょんと摘んだ。


「そんな悲しいこと言わないでください。アンジェリーク様は死にませんよね?」


「俺、剣士になってアンジェリーク様守れるくらい強くなります。だから、自分のこともっと大切にしてあげてください」


「二人とも……」


 しまった。正直に話しすぎた。二人は不安そうに私を見つめる。


 どう答えたもんかと悩んでいると、ロゼッタが代わりに口を開いてくれた。


「安心なさい。アンジェリーク様はこの私が命をかけてお守りします。それでも不安に思うということは、師である私のことを信じていないということですね? 嘆かわしい限りです」


「そ、そんなことありません! 師匠は世界一の護衛です。きっとアンジェリーク様を守ってくださると信じています」


「今さらフォローしても遅いです。悲しいので、師弟関係を解消してもよろしいですか?」


「ダメです、絶対ダメ! いくらでも謝りますから許してくださいよ、師匠ぉーっ」


 すがりつくルイーズに、しかしロゼッタはツンとすまして塩対応する。


「珍しい。ロゼッタが私以外の人間をからかって遊ぶなんて」


「え?」


「あなた様が二人に余計な不安を与えるからです」


「それは……ごめん」


「あなた様は生き急ぎすぎです。二人ではありませんが、たまには息抜きしてご自身の将来について一度じっくり考えてみてはいかがですか?」


「将来について、って言われてもね……」


 そう言われ、試しに「んーっ」と伸びをしてみる。そのまま空を仰いだけれど、物語完結後の自分は想像できなかった。


 それでも。


「一つ思い浮かんだわ。みんなにごめんなさいする自分が。ちゃんとみんなと仲直りしなくちゃね」


 そう言ってウインクしてみせる。すると、ジルとルイーズは顔を明るくして頷いてくれた。


 今はまだ先の将来のことなんて想像できないけれど。それなら、すぐ先の未来を考えていこう。そうすればいずれ遠くの未来のビジョンも見えてくるだろうから。


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