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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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 翌日。


 今日の午前中はマルセル様がいらっしゃるということで、剣の訓練は自主練となっていた。それでも、訓練生達は休むことなくここへ来て、ちゃんと自主練をしている。それが私の影響のおかげだというのなら、ロゼッタももう少し私を褒めてもいいと思う。


「いたっ」


 握っていた剣を弾かれ、木製剣の剣先を喉元へと突きつけられる。その後でロゼッタは大きなため息をついた。


「もうやめましょう。集中力が大きく欠落していらっしゃいます。そんな状態で練習をしても怪我をするだけです」


「あ……ごめん」


 素直に謝ると、ロゼッタの目がわずかに見開いた。


「昨日のこと、後悔されていらっしゃるのですか?」


「うん。ちょっと言い過ぎたかなって。みんな私のこと心配して言ってくれてただけなのに、あんな冷たい言葉で突き放して。私って最低だなって」


「アンジェリーク様が最低なのはいつものことです」


「知ってる。だから今へこんでるの」


 朝も、ミネさんやヨネさんとどこかぎこちなかったし、ココットさんとも喋ってない。エミリアに関してなんか、避けられている気がする。自分で蒔いた種とはいえ、それまで仲良くやってきたのに、みんなと気まずくなるのは心がへこむ。


 そう俯きそうになる私の顎下を、ロゼッタが剣の腹でペチリと叩いた。


「悪いと思っているのなら、さっさと謝るべきです。それ以外に解決方法はありません」


「それはわかってるんだけどさ……。なかなか勇気が出なくて」


「よく言いますね。盗賊を炙り出すために囮になる方が、はるかに勇気のいることだと思いますが?」


「それはそれ、これはこれよ。盗賊はロゼッタがいるからそこまで怖くはないけど、大好きな人達に嫌われるのは嫌だし怖いもん」


 シュン、と落ち込む。すると、また剣で顎下をペチリと叩かれた。


「ずっとこのままでよろしいのですか?」


「……嫌だ。仲直りしたい」


「では、今こそ勇気を出してください。大変不本意ではありますが、私も一緒に謝りにいきますから」


「なんで? ロゼッタは悪くないでしょ」


「主人の粗相はこれまた従者も然り。一人よりも二人の方が気が楽なのではありませんか?」


「うん。すごく楽。でも、本当にお願いしてもいいの?」


「愚問ですね。ここは、一緒に来い、とその一言だけで良いのです」


「……そっか、わかった。じゃあ、一緒について来て、ロゼッタ」


「主人の仰せのままに」


 ロゼッタの優しさが嬉しくて思わず微笑む。すると、彼女も小さくフッと笑った。


「ってか、顎ペチペチ叩くんじゃないわよ」


「ああ、すみません。なんだか楽しかったものですから。つい」


「こいつ……っ」


 一瞬でも優しいと感じた私がバカだった。顎下の剣を無造作に叩いてどける。すると、風に乗って孤児院の子ども達の楽しそうな声が耳に入ってきた。その中には、ジゼルさんではない大人の女性の声も一緒に混じっている。


「今日も来てくれてるんだ、街の人達」


「そのようですね」


 山火事で孤児院が焼け落ち、ヴィンセント家のお屋敷付近に子ども達が留まり始めてから、街の中年女性の人達がジゼルさんと一緒に子ども達の面倒を見てくれるようになった。


「前からずっと気にはなっていたんだけど、今まで城門の外に孤児院があったからなかなか行けなくてさ。でも今はこんなに近くにいるだろ? 子育ても一段落したし、ちょっとお手伝いしようかなって」


「ジゼルさんももうお年だしね。一番年長のエミリアも仕事始めちゃったし。だったら私達が代わりに面倒みようかなって」


「私達子ども大好きだからさ。またこんな風に小さい子達と関われて、毎日楽しくて仕方ないよ」


 というわけで、自主的に毎日ニ、三人の人達が交代でお世話をしに来てくれている。


「怪我の功名ね。ジゼルさんも助かる、って言ってたし」


「そうでしょうね。表には出していませんが、結構お辛そうでしたから」


「これもジゼルさんの人柄なのかな。じゃないとこんなに気にかけてくれないよね」


「それもあるでしょうね。メイド界の生ける伝説とまで言われる所以は、その技術だけでなく人間性も相まった評価なのでしょう」


 最近は、外で遊ぶ子ども達を椅子に座りながら眺めているジゼルさん。街の人達がお世話しに来てくれるようになってからは、日中お屋敷の中で休んでいることも多くなった。そんな院長先生の異変に、子ども達も肌感覚で気付き始めている。


「新しい孤児院は、せめて城内に作ってあげたいな。そしたら今みたいにみんなが子ども達の面倒見てくれるし」


「そうですね。そうできれば一番良いと私も思います」


 そのうち、一人の孤児院の女の子がこちらに迷い込んできた。前にも鬼ごっこをしていて同じようなことがあったから、今回もそうなのかもしれない。


「あ! アンジェリーク様だ」


 その子は私を見つけてこちらに駆けてくる。両手を広げて待っていると、彼女は私の胸に飛び込んできてくれた。


「どうしたの? また迷子?」


「えへへー」


 笑うだけで何も答えない。きっと確信犯だ。


「アンジェリーク様は、今日はたおれてないの?」


「へっ!? う、うん……今日は元気」


「そっかー、よかったぁ」


「子どもにまで心配されてますよ」


「そうね。誰に心配されるよりも効果的かも」


 ロゼッタの冷めた視線を横に胸を押さえて反省する。その子は訳がわからず首を傾げていた。


「ほら、そろそろ戻らないとみんな心配するんじゃない?」


「うん。でもちょっとアンジェリーク様に見てもらいたいものがあって」


「見てもらいたいもの?」


 すると、女の子は手近にあった木の枝を掴んで、地面に何かを書き始めた。


「これって……」


 地面に書かれたのは、「ニーナ」という文字だった。


「自分の名前書けるようになったの!?」


「そうなの! すごいでしょっ」


「すごい、すごい! いつの間に?」


「ジルにおしえてもらったんだ。そのジルにおしえてるのはアンジェリーク様なんでしょ? だからどうしても見てほしくって」


「そうなんだ……すごいよ。なんだか私も嬉しい」


「えへへー」


 頭を撫でてあげると、ニーナは嬉しそうに無邪気に笑った。


「字が書けるの嬉しい?」


「うん、嬉しい! 新しいこと覚えるのすっごく楽しいんだよ。だから、もっともっと色んなこと教えてください」


「いいよ。その代わり、ジゼルさんの言うことよく聞いてね」


「はーい」


 そのうち、向こうから中年の女性がニーナを見つけて声をかける。すると、彼女は「バイバイ」と手を振って女性の元へ走っていった。


「子どもの吸収力ってすごいね」


「覚えたいという好奇心や向上心があるからでしょう。ルイーズも学ぶこと自体が楽しそうですから」


「そっか。そうなると、やっぱり学校作ってあげたいなぁ。でも、これ言ったらニール様にきっと却下されるよね」


「平民に学校など必要ない、そんな金もないと、無下に断られるでしょうね。教師を雇えばかなりお金がかかりますし」


「自力で作ろうにも、私個人にそんな大金なんてないし……。はあ、前途多難だわ」


 やりたいことの前には、必ず大きな壁が立ちはだかっている。それを一つずつ壊していくのは時間がかかりそうだ。


「とりあえず今は仲直りが先決では?」


「そうだね。ロゼッタのいう通り、まずはそれが第一だ」


 さてどうやって仲直りしようか。そう頭を捻っていると、少し先に見知った人の姿を見つけた。


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