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受け継がれる意志

「先生?」


「あ、ああ、すみません。ちょっと娘のことを思い出してしまって」


「娘さん、ですか?」


「ええ。三人兄弟の三番目なのですが、人を守る仕事に就きたいから、騎士になりたいと言ってきたのです。その時の目が、今のあなた様と同じで。あまりにも懇願するので、とうとう私が根負けして、とりあえず学校だけならと、今は騎士・剣士コースのある学校に通うための準備をしております」


「女性で騎士! カッコイイじゃないですか。あれ、でも女性の騎士って多いんですか?」


「いいえ、滅多におりません。剣士ならまだしも、女性で騎士など聞いたことがない」


「おぉ! なおさらカッコイイ」


「ですが、親としてはそんな危ないことはしてほしくないのです。魔物の討伐で命を落とす者も多いですし、もしまた戦争など起こってしまったら……」


「ルベン先生は、今でも反対されておられるのですね」


「はい。娘には結婚して、子どもを産んで、幸せになってほしい。それが親心というものです」


「私のお父様とは大違いだわ」


 そう言うと、ルベン先生は苦笑した。


 普通の親であれば、そう願うのが普通なのかもしれない。女性の幸せは、結婚と出産。特にこの世界では、そういうジェンダーへの偏見が強い。それに抗うのは、相当な覚悟が必要なはずだ。


「私は、やはりその娘さんはカッコイイと思います。周りから何を言われても、叶えたい夢があり、それに向かって真っ直ぐ突き進んでいる。今の私の手本のような人です」


「ですが……」


「その人の幸せは、その人が決めるものです。たとえ娘さんが騎士を諦め結婚したとしても、私は幸せにはならないと思うのです」


「騎士になり、人を守ることが幸せだと?」


「もっと欲を言えば、騎士のまま結婚して、出産して、子どもに自分の騎士姿を死ぬまで見せ続けることだと思います。まあ、これはあくまで私の想像ですが」


「驚いた……そこまで私は想像したこともありませんでした」


「世間的には、そこまでは無理かもしれません。でも、やってみなければわからない。少なくとも、私は娘さんの夢を応援します」


「夢を応援、ですか」


「それに、私はちょっと感銘を受けているんですよ」


「というと?」


「人を守りたい。形は違えど、その根本的な信念は、父親であるルベン先生と同じなんです。親から子へ受け継がれる意志。すごいと思いませんか?」


 そう言って笑いかけると、ルベン先生は大きく目を見開いた。


 流されるまま親の職業を引き継ぐ。そんな家族の形もあるけれど。私はルベン先生とその娘さんのような形も素敵だと思う。


 顔も見たことないけれど、娘さんはどういう風に育ってきたのか、ルベン先生はどういう人なのか、なんとなくわかった気がした。


「あっはっはっ!」


 突然、ルベン先生が手を叩きながら笑い始めた。私とロゼッタは何事かと驚く。


「せ、先生? 大丈夫ですか」


「ああ、すみません。アンジェリーク様の話は、どれも私には目から鱗なものだったものですから。まさか、そんな風に思ってもらえるとは思ってもみませんでした」


「いや、はははっ。そうですよね」


「ルベン先生のお気持ち、よくわかります。アンジェリーク様は、我々には理解し難い意味不明な方なのです」


「こらロゼッタ、さらっとディスんな」


「ディスるとは?」


「えっ! えーと……悪口言うなってこと」


「悪口ではありません。事実です」


「なお悪いわ!」


 この私達のやりとりを見て、再びルベン先生が笑う。そして、ふっと父親の顔になった。


「ありがとうございました。もう少しで私は、娘を私と同じ目に遭わせてしまうところでした。子ども達にはもっと自由に生きてほしいと願っていたはずなのに、いつの間にか縛りつけようとしていたのですね。歳を取ると、どうも保守的になっていけない」


「心配だからですよ。言い換えれば、愛情です。娘さんは幸せな方ですね」


「ズルい人だ。それを言われると、今までの親としての自分を否定できなくなる」


「ルベン先生が否定する必要はありません。それは私のお父様の役目ですから」


 そう言って、わざと頬を膨らませてみる。なんだか可笑しくなって、二人で吹き出してしまった。


「もう一度、娘と話し合ってみようと思います。今度はちゃんと彼女の言い分を聞きながら」


「そうですね。その方が良いと思います」


 ルベン先生は頷き、怪我の処置の続きを再開する。お茶にも誘ってみたけれど、早く帰って妻とも相談したいということで断られた。


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