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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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常闇のドラゴンとは

「まずは、ここら辺を根城にしている盗賊団、常闇のドラゴンについてです。規模を把握しようとしたのですが、不思議なことに聞いた人や場所によって様々で、ざっと百から千人と幅が広いのです」


「百から千? おいおい、いくらなんでも幅がでかすぎるだろ」


「そうなのです。なので理由も探ってみました。どうやら、彼らを構成するのは主に貧困層のようで、他の領地のスラム街などから抜け出して、結局職にありつけなかった者達が多く流れ着いているようです。ですが、盗賊という仕事に慣れず離れていく人間も多く、また組織の管理もずさんなため、人の出入りが激しくなっているのではないかと」


「なるほど。入るのも自由。出て行くのも自由。それは人数に変動があるはずだ」


 レインハルト殿下が頷く。私は素朴な疑問を口にした。


「でも、どうして一度入ったら二度と出られない、みたいに厳格にしなかったんだろう? そうすれば本当に大盗賊団になったのに」


「管理能力の問題だろ。組織が大きくなればなるほど末端まで管理するのが大変になる。それが軍など統一された組織ならまだしも、所詮は貧困層の寄せ集めだからな。限界がきて自分達には無理だと悟ったんだろう。それに、何もしなくても勝手に補充分は来る。無理に管理する必要もない」


「そういうもんですかね」


「さあな。ただ、奴らもバカじゃない」


「というと?」


「お前が見たドラゴンの刺青だが、あれは人を殺したことのある奴に与えられるものらしい」


「なっ」


「特に五人以上殺したことのある奴は、それだけで一気に幹部候補になれるらしいぞ」


「なんておぞましいシステムだ。盗賊らしいと言えばらしいが」


 そう呟くお父様の顔にも嫌悪の感情が張り付く。私はテーブルの下でキツく手を握った。


「首領をトップに何人かの幹部達がその下にいるわけだが。そいつらはさらに下にいる指示役に指示しか出さない。つまり、末端連中は幹部や首領の顔すら見たことがない奴らがほとんどだということだ」


「なるほど。そうすれば、たとえ末端が逃げようが警備兵に捕まろうが、幹部達は痛くも痒くもないですもんね。確かにただのバカではなさそうだ」


 つまり、オレオレ詐欺のグループみたいなものか。たとえ受け子を捕まえたとしても、指示しか受けていなくて、結局大元にたどり着けない。トカゲの尻尾切り。なるほど、悪知恵だけはしっかり働くらしい。


「しかし、そうすると少し厄介ですね。常闇のドラゴンを壊滅させるのであれば、首領を叩きたいところですが。いくら末端を捕まえても居場所すらわからない」


 ロゼッタが淡々と分析する。それにニール様も頷いた。


「一番の問題はそこだ。たとえさらに上の指示役を捕まえたとしても、その指示が幹部達と顔を突き合わせて出されたものかもわからない。書面だけでやりとりすれば事足りるからな。そこまで用心深ければ、首領を見つけるのはかなり困難になる」


「くそ! 打つ手なしかよ」


 ラインハルト殿下が悪態をつく。みんなの顔は険しかった。


「とりあえず、私が集めた情報は以上です」


「こんな情報、どうやって集めたんですか? ニール様」


「俺にだって子飼いにしている情報屋くらいいる。だが、そいつがわからないと根を上げるということは、やはり居場所を特定するのは難しそうだな」


「へえ、その人のこと信頼してしてるんですね」


「仕事に関してはな。ロゼッタやお前との一件も、奴には色々と動いてもらった。女たらしでどうしようもない奴だが、金を積めばきちんと仕事をする。お互いの信頼だけで成り立つ関係は信用できないが、金で動くあいつの仕事は信用できる」


「なんだ、それ。矛盾してないか?」


「そうかもしれませんが。私にはなんとなくニール様の言いたい事がわかりますよ。人間関係なんて、何がキッカケで壊れるかわかりませんからね」


「そういうことだ。まあ、金で動く分裏切られることもあるだろうが、それは仕方ない。それが奴の仕事だ」


「それを折り込み済みでなお仕事を依頼されるのなら、その方の仕事は本当に信用できるのでしょうね」


「まあな」


 私とニール様が同時に紅茶をすする。ラインハルト殿下が、わからないと言いたげに眉間にシワを寄せていた。そんな殿下を無視してロゼッタが話を本線に戻す。


「話を元に戻しますが。盗賊団の首領の居場所がわからない今、どうやって動きますか?」


 その質問に、場がシンと静まり返る。みんなどう答えたらいいのかわからないのだろう。なので、私から先陣を切ることにした。


「どうもこうもないわ。目の前に来た奴片っ端から捕まえていけばいいだけのことよ。たとえ雑魚でもね」


「そんな無駄なことをしていたら、いくら経っても首領までたどり着けないぞ」


「いいえ、ニール様。意味はあります。首領は遺恨のある私とロゼッタにいたくご執心らしいですから。そんな私が常闇のドラゴンの一味を片っ端から捕まえていると知れば、彼らは必ず何かアクションを起こしてくるでしょう。そこが狙い目です」


「自ら囮になると言うのか?」


「はい。今はそれが最善の策かと」


 お父様に対して、毅然とした態度で答える。そんな私の話を聞いて、ミネ・ヨネさんとココットさんが心配そうな顔を向けた。


「アンジェリーク様が囮になるなんて。そんな危険な事おやめになられてはいかがですか?」


「そうですよ。何も自ら危険に飛び込まなくても、まだ方法はあるのではないですか?」


「私達は心配なんだよ。またヤニスの時のように、アンジェリーク様が傷付くんじゃないかって。だからさ、考え直さないかい?」


「ありがとうございます、三人とも。いつもご心配ばかりおかけして本当に申し訳ないと思ってます。でも、私は考えを改めるつもりはありません。少しでも可能性があるのなら、私はそれに賭けたい。常闇のドラゴンを潰さなければ、私はこのトラウマに負けてしまいそうだから。それだけは絶対嫌なんです」


「アンジェリーク様……」


「それに、ヤニスの時のようにならないよう、今こうしてお父様やロゼッタから剣術や武術を習っています。この前の二の舞にだけは絶対させません」


 そう言って、包帯で巻かれた拳を力強く握る。


 剣術や武術を習っている時、どうしても常闇のドラゴンの奴らの姿がチラつく。それがとても悔しくて。それを振り払うように何度も何度も挑んでいる。それこそ、倒れて動けなくなるくらいに。それが今の私の原動力だから。


 私の決意に、お父様がフッと微笑んだ。


「ロゼッタではないが、アンジェリークは本当に自ら危険に飛び込んで行くんだな。わかっていたこととはいえ、父親としては肝が冷えるよ」


「胸中お察しいたします」


 ロゼッタが真顔で頷く。その後でお父様は私を見た。


「だが、そうでなければ私はお前を娘に選ばなかったかもしれない。だから、お前が本気でそれをやり遂げたいというのなら、私はそれを全力で支えよう。私という手札を思うがまま存分に使いなさい」


「お父様……ありがとうございます」


 ミネさん達のように、危険な行為を止める優しさもある。けれど、お父様のように心配しながらも見守る優しさもこの世には存在する。どちらも嬉しいことには変わりないけれど、今は後者の方がより心に響いた。


「まあ……旦那様がそうおっしゃるのでしたら、私達から申し上げることは何もありませんわ」


「私達も全力でアンジェリーク様の夢が叶うよう、お力添えをいたします」


「旦那様、最近アンジェリーク様に甘すぎやしませんか? まったく。これだから男親は娘に甘くて困っちまうよ。でも、そこまで言われたらもう何も言えないさね。こうなったらとことんやっちまいな、アンジェリーク様」


「はい! そうします。みなさんありがとうございます」


 そうみなさんに背中を押されると、なんだか力がみなぎってくる。何があっても頑張ろうと思える。応援してくれる人がいるっていうのは、こんなにも力をくれるんだ。


「はあ……。みなさんまでアンジェリーク様に肩入れして。どうなっても知りませんよ」


「そういうロゼッタの方が一番私に甘いんじゃない。いつもブツブツ文句言いながらも私の無茶に付き合ってくれるんだから。そんなあんたにみんなを責める資格なんてないの」


「アンジェリーク様の無茶に付き合えるのは、私くらいだと自負しておりますから。他の誰かでは一日ももたないでしょう。むしろ、私の忍耐力と寛大な心に感謝してほしいくらいです」


「いつも感謝してるわよ。なんでそれが伝わってないのかが不思議なくらいだわ。あ、そうか。性格が捻くれてるからか。納得ー」


「主人の性格に合わせているだけです。鏡だと思ってください」


「なによ」


「なんですか」


 お互いムッと睨む。すると、周りからクスクスと笑い声が上がった。それは使用人ズの人達のものだった。


「やはり、いつも通りが安心しますね、ヨネ」


「ええ、お元気そうでなによりです、ねえミネ」


「相変わらず仲良しだね、お二人さん」


『仲良しではありません』


 そう二人の声がハモったのを、殿下達は苦笑しながら見守っていた。


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