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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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騎士志望の悪女

「作りたいと思うのは勝手だが、現実的には無理だろう」


「どうしてですか?」


「まず第一に金がかかる。建物を作るにしても、教師を雇うにしても、金は必要だ。そんなもの、今のカルツィオーネにはない」


「それはわかってます。今の話じゃなくて、これは私が、死ぬまでに叶えたい夢の一つです。とりあえず今は、学びたいというジルや、剣士志望の人達に、読み書きを教えたいです」


「ふん、夢か。いったい、お前にはいくつ夢があるんだろうな」


「夢を持つのに、制限なんて無いんです」


 べーっと舌を出す。ニール様は眉間にシワを寄せたけど、それ以上嫌味は言ってこなかった。


「実は、ルイーズやエミリア姉ちゃんも読み書き教わりたいみたいで。日中は仕事だから、夜俺が他に希望する孤児院の子達と一緒に教えてるんです」


「そうだったの?」


「はい。上手く教えられてるかは自信ないんですけど。でも、みんな楽しそうなんですよ。それ見て、意外にみんな学びたいんだなって思いました。剣と一緒で、できることが増えると嬉しいし楽しいですから」


「そっか、そうだよね。だったらなおさら、学べる場所、作ってあげたいなぁ」


「ではまず、教師を確保してください。できればタダ同然で教えてくれるような、そんな奇特な方を」


「ボランティアで、か……。難易度高すぎて心折れそう」


「そうですか。では、この話はもう終わりにしましょう。いい加減休んでください」


 ロゼッタが少し怒った口調で強制的に話を終わらせる。えー、と思ったけど、意外に喋るのって体力使うから反論できなかった。


「それで。ニール様は、どうしてここへ?」


「殿下にこれを渡しに」


 彼が取り出したのは、一通の手紙だった。


「国王陛下からです。先ほどレインハルト殿下にもお渡ししました」


「父から? そうか、ありがとう」


 ラインハルト殿下は、手紙を受け取るとその場で読み始めた。


「何事でしょう。国王陛下から手紙だなんて」


 まさか、王都で何かあったんだろうか。そう勘ぐってみたけれど、手紙を読む殿下の表情は特に緊迫したものではなかった。


「いやなに、いつまでカルツィオーネにいるつもりだ、そろそろ帰ってこい、だそうだ。なんでも、辺境伯の令嬢が殿下達二人を誑かしている、という変な噂が出回ってるらしい」


「はあっ?」


「確かに間違いじゃないな」


 クククっ、とニール様が笑う。くそう、ヘトヘトじゃなきゃやり返してやるのに。


「まあ、あとは年末年始に向けての準備もあるからな。方々に顔出しもしないといけないし。そういえば、お前は王宮主催の年始の舞踏会には来るのか?」


「まさか。行くわけないじゃないですか。私はカルツィオーネを一ミリたりとも出る気はありませんよ。しかも王都だなんて都会、絶対にやだ」


「残念だが、今年はうちも強制参加だ。クレマン様もそのつもりでいる」


「はあ!? なんでっ?」


「お前はバカか。ヴィンセント家に養子を迎え入れたんだぞ。それを国王陛下に紹介しないでどうする。向こうはもう、楽しみにしているとクレマン様をせっついているぞ」


「うげっ。最悪……」


「なるほど。これは逃げられそうにないですね。では、それに向けてダンスの練習も追加いたしましょう」


「ひっ」


 ロゼッタの目だけが動いて、後方にいる私を鋭く睨む。これは本気で社交ダンスを叩き込むつもりだ。


「それに、お前ももう十五だ。そろそろ社交界デビューしてもいい頃合いだろう。今回のはちょうどいい」


「社交界デビューって……。早くないですか?」


「この国では、基本的には十五歳から二十歳前後で社交界デビューするのが一般的だ。とりわけ十五歳の割合が多い」


「なんでですか?」


「子どもに魔力があれば、十六歳で養成学校へ入学させられるからな。だから、魔力の有無に関わらず、その前にお披露目を済ませておきたいんだろう」


「なるほど。そういうことでしたか」


 確か、入学したら社交界へ出ちゃダメ、という決まりはないはずだけど。それでも何かしら制限はかかるだろうから、今のうちにということなんだろう。


「そういえば、お前は魔力が無かったらどうすんだ? ここで大人しくしてんのか?」


「まさか。騎士志望で養成学校へ入るつもりです」


 殿下の質問に迷いなくそう答えると、ニール様の眼鏡が斜めにズレた。


「正気か? 平民の剣士志望ならまだしも、貴族の令嬢で騎士など聞いたことがないぞ」


「私はいつでも本気です。前例が無いのなら、前例を作ればいいだけのことですから」


「お前なあ……」


「一応お父様にも相談してみましたが、お前の好きにしなさい、って言われましたよ」


「それは、クレマン様はそう言うだろう。お前に激甘だからな」


「知ってます」


 ふふん、と笑うと、ニール様は面白くなさそうな顔をした。


 エミリアに魔力がある以上、彼女は来年には養成学校へ行ってしまう。そうなれば、私の手が届かなくなってしまう。それは危険だ。私がそばにいて、悪い貴族達から守ってあげないと。それに、レインハルトとの恋路も陰ながら進めていかなければならない。


 今の私に魔力がある可能性はかなり低い。だったら、養成学校へ入学する方法は騎士志望としてしかないのだ。前代未聞くらいで諦めるような私ではない。


「何を言われても私は諦めませんよ。そのために訓練を頑張っているんですから。なにも常闇のドラゴンをぶっ潰したいがためだけに強くなろうとしているわけではないんです。ちゃんと先のことも考えて行動しているのですから、邪魔しないでください」


「邪魔するもなにも、どうせ俺が何を言っても押し通すんだろう? だったらもうお前の好きにしろ。その代わり、ヴィンセント家の名を汚すようなことだけはするな」


「もちろんです」


 力強く頷くと、ニール様はそれ以上何も言ってこなかった。


「では、ヴィンセント家の名を汚さぬよう、社交ダンスや礼儀作法を今一度練習いたしましょう。武術と平行して」


「げっ」


 ロゼッタの容赦ない顔。そんな引きつり顔の私を見て、ラインハルト殿下はニヤリと笑った。


「お前が社交ダンスか。想像できない分見れるのが楽しみだ」


「私は誰とも踊りませんからね!」


「それも無理だろうな。挨拶代わりに色んな奴と踊らされるだろう」


「そんなぁっ」


「色んな奴と……」


「はいはい、もうほんとにお屋敷に戻りますよ。着替えてお茶にしましょう」


「待ってロゼッタ! まだ話終わってないっ」


「却下」


 ロゼッタは無情にもそう切り捨てる。その直後、急に猛烈な吐き気に襲われた。頭の中がグルグルして気持ち悪い。たぶん、調子こいて喋りすぎたんだ。


「ロゼッタ……」


「もう訓練はしませんよ」


「……気持ち悪い」


 寸の前、ロゼッタの動きが止まった。その後で勢いよく走り出す。


「だから無理するなとあれほど言ったじゃないですかっ」


「ごめっ……うっ」


 その後、ロゼッタにしこたま怒られたのは言うまでもない。


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