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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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素朴な疑問

「お待たせしました。まずはサラダからどうぞ。他の料理はでき次第持ってきますね」


「ああ、ありがとう」


 木製のボウルに入ったサラダと小皿が置かれる。すると、即座にエミリアが立ち上がって人数分取り分け始めた。まるで先ほどまで身体を震わせていたのがウソかのような、その流れるような手際の良さに、ミレイア様が「ほう」と口の端を上げる。


「動きに無駄がないな。さすがだ」


「いえ、私なんてミネさんやヨネさんに比べたらまだまだです。早く追いつきたいと思ってます」


 そう答えながらも、エミリアは手を止めず、サラダの入った小皿をみんなの前にテキパキ置いていく。その際、店側が置いたスプーンとフォークの位置が気になったのかさりげなく整えていた。


「細かい気配り。そしてそれを悟らせない気遣い。うちのメイド達にも見習ってほしいよ。やはりうちに来ないか?」


「ミレイア様、怒りますよ」


 ムッと睨む。するとミレイア様は「おー怖い」と言って肩をすくませた。


 そんなやりとりのうちに、エミリアは全員に配り終わる。その後で「あっ」と何かに気付いた。


「水がまだ来てませんね。私もらってきます」


「じゃあ、俺が……」


 手伝おうとレインハルト殿下が立ち上がった時には、もうエミリアの姿は階段に消えていた。ラインハルト殿下がレインハルト殿下の肩を叩いて同情する。


「ふーん、あれがヴィンセント家のメイドか。私にゃ無理だわ。ってか、お腹ペコペコだから先に食べちゃうね」


 そう言って、リザさんは遠慮なく食べ始める。他のみんなも追随し始めたので、私もそうすることにした。


 フォークで刺して口に運ぶ。美味しい……けれど何か物足りない。それが顔に出ていたのだろう。そんな私をミレイア様がめざとく見つける。


「口に合わなかったか?」


「い、いえっ。美味しいです。ただ……」


「ただ?」


「カルツィオーネの野菜の方が美味しいなって。身内びいきですね」


 すみません、と謝る。しかし、ミレイア様は特に怒ったりはしなかった。


「それは当たり前だろう。ここの野菜はヘルツィーオから仕入れているが、カルツィオーネの物には劣る。私もカルツィオーネの野菜を食べたことがあるから言えるが、あれは間違いなくこの国一だ」


 迷いなくそう言い切る。良かった、私の舌は味音痴ではなかったようだ。


 このタイミングでエミリアが十人分の水を載せたお盆を持ってやってきた。どうやら店の中が混み合ってきたらしく、店員も手一杯なんだとか。それにしても、そんな物を持って水を零さず階段を上ってこれるなんて。これもジゼルさんの仕込みの賜物なんだろうか。


 そのまま、彼女は何食わぬ顔で水を配っていく。その後でサラダを一口食べると、やはり私と同じような顔をした。


「これ、ヘルツィーオのなんだって。エミリアはカルツィオーネとこっち、どっちが美味しいと思う?」


「そうですね……私はカルツィオーネの方が好きです」


「そうだよね。私もそう」


 頷く私に、ミレイア様は水を一口飲んだ。


「ここの店主もカルツィオーネの野菜を気に入っている」


「では、どうして仕入れはヘルツィーオなのですか?」


「仕入れが安定しないからさ。カルツィオーネとシャルクを繋ぐ道では盗賊も魔物も出やすい。それなのに、カルツィオーネでは護衛を付けられないんだろう? そうなれば、仕入れができる日とできない日がでてきてしまう。これは店にとっては死活問題だ。だから、味が多少劣っても安定的に手に入るヘルツィーオから仕入れるしかないのさ」


「ちょっと待ってください。ヘルツィーオとシャルクを繋ぐ道には、魔物や盗賊は出ないのですか?」


 そう聞かれ、ミレイア様は一度マルセル様と目を合わせた。


「そういえば、魔物は出るが、盗賊に襲われたという話は数えるほどしか聞いたことがないな」


「向こうは軍の兵士が護衛に付いている。だから多少襲われても被害は最小限だろう。とはいえ、確かに盗賊に襲われる回数がカルツィオーネと比べて極端に少ないのは違和感があるな」


 マルセル様のその話に、今度はニール様が食いついた。


「では、シャルクから他の領地への移動、例えばワインを運ぶ時なんかはどうですか?」


「他の領地へ? それは……ちょっと待て。魔物と遭遇する確率はカルツィオーネの方が高いが、盗賊と出会う回数はカルツィオーネに比べたらどこも圧倒的に少ないぞ」


「それは本当ですかっ」


 ニール様が眉間にシワを寄せる。そしてお父様に視線を向けた。頷くその顔は険しい。


「なるほど。そういうことか」


「どうして今まで気付かなかったんだ。俺としたことが」


「おい、なんだどうした?」


「何かわかったのか?」


 話についていけないラインハルト殿下とレインハルト殿下が、何事かと聞いてくる。それに答えたのは、険しい顔のニール様だった。


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