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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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狙われるエミリア

「ご注文は何にいたしましょう?」


「そうだな、店のおすすめをいくつか持ってきてくれ。足りなければその後で追加注文する」


 マルセル様が店長にそう注文する。すると、彼はちょっと戸惑い始めた。


「どうした?」


「いえ、その……うちは平民向けの普通の食堂です。ですから、殿下のお口に合うかどうか……」


「そんなに恐縮しなくても大丈夫だよ。殿下達は魔物との戦闘の後に振る舞われた、うちの料理人が作った簡単なスープを食べても美味しいと言ってくださっていた。美味しい物なら関係ないと思うが」


「それって、カルツィオーネに来る時に魔物に襲われたってやつですか? その日の夜うちに立ち寄ってくれた傭兵さん方が言ってましたよ。なんでも、回復魔法の使い手が現れて、重傷のレインハルト殿下をその魔法で助けたとか」


「ああ、そうなんだ。彼女は俺の命の恩人だ。感謝してもしきれない」


 レインハルト殿下がエミリアを見て微笑む。すると、彼女は顔を赤くして俯いてしまった。しかし、店長はそんな彼女に気付かない。


「へー、殿下がそこまで言うってことは、やっぱ良い子なんですね」


「どういう意味だ?」


「いや、その子自分がぶっ倒れるまで負傷した人達に回復魔法使ってたらしくって。あんな甲斐甲斐しい女いない、ってみんな口を揃えて言ってましたよ。可愛いし、度胸も愛嬌もあるし、あんな子を嫁に欲しいって」


『なっ!』


 レインハルト殿下と私の声が被る。すると、リザさんとお父様も「そういえば」と何か思い出した。


「傭兵仲間が言ってたな。早くヴィンセント家へ行く用事できないかなって。今日だって、彼女が来るってんでにわかにざわついてたよ。会合が終わったら誰が最初にデートに誘うかで揉めてたし」


「デート!?」


「最近、魔物討伐に行く時、いつもよりやけに若い自警団員が多い気がして聞いてみたら、みんなエミリア狙いだと言うじゃないか。ここで怪我をして、彼女に手当てしてもらいたいから参加しているんだそうだ」


「エミリア狙い!?」


 レインハルト殿下と私の声がわなわな震える。それに追い討ちをかけたのは店長だった。


「それにその子、ヴィンセント家のメイドなんでしょ? 家事も完璧となれば、男なら誰でも嫁に欲しいってもんでしょ!」


『はあ?』


 ガハハっと笑う店長に向かって、レインハルト殿下と私は殺意を込めたひと睨みを食らわせる。すると、彼は「ひっ」と顔を引き攣らせた。


 マズイ、これは非常にマズイ展開だ。エミリアの可愛さと性格の良さはその通りだけど。それがまさかこんな副産物を産むことになるなんて。


 いや、確かに私が男だったら彼女を嫁にしたいし、ライバルがいた方が話が盛り上がるのもそうなんだけどさあ。モテ過ぎなのは予定外だよ。どうすんのこれ。どうやってエミリアを悪い虫達から守ればいいの。問題がまた増えたよ!


「課題山積ですね」


 隣でロゼッタが他人事のようにボソリと呟く。私は深いため息をついた。エミリアはというと、どう反応していいのかわからず戸惑っている。


 そんな中、店長がボソリと呟いた。


「でも、気を付けた方がいいっすね、彼女」


「え?」


「ほら、この街には王都とか色んな領地から商売人が来るでしょ? そいつらの話聞くと、どこの貴族達もその回復魔法を使う彼女狙ってるみたいなんっすよねー。自分の息子の嫁候補に、っていうんならまだマシな方なんですけど。相手は平民だから、自分の愛人にして子どもだけ生ませようと考えてる奴らが多くって。そうすれば、上手くいけば回復魔法の使い手がどんどん増えるかもしれないわけだし」


「なっ……」


「一番ヤベェと思ったのは、王宮に仕えてる貴族達までもがそう考えてるって聞いたことっすかね。中には、みんなでシェアするかとか笑いながら言ってたらしいっすよ。これじゃあ彼女にとって安全な場所が無いじゃないですか。だから……」


「おい」


「はい?」


「それは本気で言ってるのか?」


「へ?」


「彼女は物じゃない。口を慎め」


 レインハルト殿下が、それこそ今にも剣を抜いて斬りかかりそうなほどの殺気を店長に飛ばす。先ほどまでの穏やかな殿下からは想像できないほどのあまりの剣幕に、彼は腰を抜かして「すみません、すみません!」と何度も何度も謝り始めた。


 そんなピリついた空気を、双子の兄弟であるラインハルト殿下が和ませる。


「レインハルト、落ち着け。今のは貴族達の話であって彼自身の言葉じゃない」


「わかってる。だが、ここまで激しい怒りを覚えたのは初めてだ。上手くコントロールができない」


「そうか……だが、エミリアが怖がってるぞ。それでもいいのか?」


「え?」


 そう言われ、レインハルト殿下がエミリアを見る。目が合うと、彼女はふいと逸らした。そこでやっと殿下の頭に上った血が下り始める。


「その……悪かった。今のは君に怒ったんじゃない。そんな邪な考えを持っている連中に怒ったんだ。怖がらせて申し訳なかった」


「い、いえ……っ。こちらこそ、変な話して殿下の不況を買ってしまって申し訳ありませんでした!」


「いや、むしろとても貴重な話を聞かせてくれてありがとう。おかげで、情報収集の重要性が身にしみてわかったよ」


 そうレインハルト殿下が微笑む。それを見て、店長の身体から一気に力が抜けた。どうやら安堵したらしい。そんな彼に、ミレイア様が喝を入れる。


「ほら、少しでも申し訳ないと思うんなら、殿下にとびきり美味しいご飯作って持ってきな。それが今のあんたにできる一番の仕事だよ」


「は、はい!」


 ムチで叩かれた馬のように、店長は厨房のある下の階へと下りていく。場は一時静かになった。


「予想通りだな」


「ええ、最悪の展開です」


 ニール様の呟きに思わず反応する。お父様ですら、腕組みをしながら深いため息をついた。


「まさか、王宮に仕える人間の中にまでそんな邪な考えを持つ輩がいるとは。これでは、国に保護を求めても安全とは言い難くなった」


「王宮内がこんなに腐っていたとは……」


「これなら、前にクレマンとロゼッタが言っていた軍の弱体化についても納得だな。指揮する貴族の内面の現れだ、あれは」


 はあ、とみんなでため息をつく。ふとエミリアを見ると、彼女の顔は真っ青だった。


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