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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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抱けばわかる

「何の話をしていたんだ?」


「アンジェリーク嬢が、君にまんまとはめられたという話だ」


「ああ、それか。たかが十五の小娘と思って甘くみていたが。これがなかなか肝が座っていてな。久しぶりに取引が難航したものだから、つい本気になってしまったよ。さすがクレマン様が選んだだけのことはある」


「そうかい? 君にそう言ってもらえると嬉しいよ」


 そう言って、お父様は本当に嬉しそうに微笑んだ。やばい、その顔を見るとこっちまで照れる。


「ミレイア様、それは褒め過ぎです。こいつは何も考えていません。ただ己の欲を満たすためだけに動いている、超が付くほどの自己中です」


「うるさいです、ニール様。せっかく良い気分なのに邪魔しないでください」


 彼は、ふん、と鼻を鳴らす。すると、それを見たマルセル様とミレイア様が同時に微笑んだ。


「商人や貴族の中には、ミレイアが女を使ったんだろうと噂する奴らもいるが。彼女は周りから何を言われても、シャルクのために動き続けてくれた。この成果はすべて彼女自身の力で手に入れたものだ。そんな彼女を私は心の底から尊敬している」


「それはこちらのセリフだ、マルセル。あなたが私を信じて自由にさせてくれるから、私は強気で生きていられる。愛してくれているからこそ、道に迷わず帰ってこられる。だから、いつもそばにいてくれてありがとう」


 マルセル様とミレイア様は、お互い見つめ合って微笑む。これが本来の夫婦の姿ではないかと思うほど、二人の間から「愛」という言葉が滲み出ていた。


「すごいですね。そんなにお互いのことを信頼し合っていらっしゃって。マルセル様は、不安に思ったことはないのですか? その……ミレイア様が女を使ったんじゃないかって」


「それはありえないと確信している」


「どうしてですか?」


「抱けばわかる」


 マルセル様が自信たっぷりに不敵に笑う。私とレインハルト殿下とラインハルト殿下、そしてギャレット様とニール様の五人は、「だっ……」と顔を真っ赤にして言葉を失った。ただ一人、エミリアだけが首を傾げる。


「抱きしめるだけで、何がわかるというのですか?」


「え、意味わかんないのっ?」


「? はい」


 真顔で答える彼女に、思わず殿下達と顔を見合わせる。これって、恋愛に疎いどころの話じゃないぞ。


 そんな無防備なエミリアに、意地悪そうな顔をしたミレイア様が近付いていく。そして、ついと彼女の顎を持ち上げた。


「わからないのなら、私が手取り足取り教えてやろうか? ベッドの中で」


「わー! ダメダメっ」


「ダルクール夫人、手を離せっ」


 私は慌ててエミリアにしがみつき、レインハルト殿下がミレイア様の手を払い除ける。


「エミリアの純粋さを奪ってはいけません。ここまでピュアな子は絶滅危惧種なんですから!」


「え?」


「夫人、今のは冗談でも笑えないな。そんなにベッドが恋しいのなら、夫である男爵を誘うべきだ」


 必死にエミリアを守る私とレインハルト殿下を見て、ミレイア様は目をぱちくりさせる。しかし、瞬きを三回した後で、その唇を器用に歪めた。


「へえ、これは面白い。このネタはいざという時の切り札にとっておこう」


「げっ……」


 もしかして、私またポカやった? これ以上弱みないと思うんだけど。


 そんな顔を引き攣らせる私の前に、ミレイア様が歩み寄る。そして、両手で私の頬を包み込んだ。


「そんな顔をするな。言っただろう? 私はお前を気に入っていると。だからお前の嫌がることはしない。安心しろ。私の可愛いアンジェリーク」


 そう妖艶に微笑んだ後、ミレイア様は私の左頬に軽く口づけた。


 今何が起こったのか、まったくわからない。ただ、ミレイア様の唇の感触だけが頬に残る。それはそれは柔らかかった。


 今度はラインハルト殿下とロゼッタが大慌てで飛び出してきて、ミレイア様から私を引き剥がす。


「おい、夫人! いくらなんでも見境無さすぎだぞ。しかも、アンジェリークの頬に口づけるなんて……っ。そういうのはマルセルだけにしろっ」


「アンジェリーク様、意識はありますか?」


「へ? あ、うん。一瞬飛んでた」


「これ、ハンカチです。口づけをされた部分を拭くのにどうぞ」


「え、でもミレイア様の前でそんな堂々と……」


「どうぞ。是非に」


「は、はい……」


 ロゼッタの顔が怖い。有無を言わせない威圧感が漂っている。


 そんなわちゃわちゃする私達を見て、ミレイア様はお腹を押さえてクククっと笑いだした。


「そうか、そうか。こんなところにもネタは落ちていたか。まったく、飽きないな、お前は」


「お褒めにあずかり光栄です……で良いのでしょうか」


「ああ、もちろんだ。おかげで楽しめたよ」


 ミレイア様は、ふう、と息を吐く。すると、通りの向こうから一人の女性がこちらに駆けてきた。


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