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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ヴィンセント家のメイド

 お茶会が終了したので、みんなで玄関へと移動する。殿下達への視察指南はまだまだかかりそうだから、せっかくなので街へ下りて観光しようということになったからだ。


 私はそんな気分にはなれなくてあまり乗り気ではなかったんだけれど。エミリアが是非行ってみたいと手を挙げた。せっかくなら違う領地も見学してみたいと。


「アンジェリーク様も行きましょう。きっと良い気分転換になりますよ」


 そう言って微笑む彼女。もしかしたら、私のことを気遣ってくれているのかもしれない。そう思ったら断りきれなかった。


「そういえば、ここの使用人達にジロジロ見られている気がするのですが」


 お茶会の準備の時も、今こうして廊下を歩いている時も、使用人達が私達をチラリ、チラリと見てくる。ちょっと落ち着かない。


「まあ、噂の極悪令嬢が気になっているというのもあるが。彼女達が一番気になっているのは、君だろうな」


 そう言って、ミレイア様が指さしたのはエミリアだった。


「わ、私ですかっ?」


「もしかして、希少種である回復魔法の使い手が珍しくて気になっているのでしょうか」


 慌てて聞き返す。しかし、ミレイア様は首を横に振った。


「そうじゃなくて。彼女個人というより、"ヴィンセント家のメイド"に興味津々なんだよ」


「ヴィンセント家のメイドに?」


「知らないのか? 昔は、ヴィンセント家のメイドという肩書きは一種のブランドだったんだ。ヴィンセント家のメイドは他家のメイドの三人分働く。だから、ヴィンセント家で働いた経験があるというだけで、給料が他のメイドの三倍だったらしい」


「えぇ!? 三倍っ?」


「そうさ。そんなだから、そのうちヴィンセント家のメイド経験者を雇うのが貴族の間でステータスになり、平民の親達も、こぞって娘をメイドとしてヴィンセント家へ送り込んだ。だから、一時期ヴィンセント家のメイドは飽和状態だったそうだ」


「なんて羨ましい話……。今のヴィンセント家からは想像もできません」


「メイド長のジゼルが引退して、先輩メイド達がどんどん結婚してヴィンセント家を離れてからは、徐々に衰退していったらしいな」


「ジゼルさんですか。確かに教えるの上手ですよね。エミリアともう一人十二歳になる子は、ジゼルさんが院長をしている孤児院出身なのですが、ヴィンセント家のメイドとして今バリバリ働いてくれてます。それこそ三人分くらい。孤児院の子達は私が仕込んでいるから間違いないと、自信たっぷりに言い放ったジゼルさんの言葉も頷けます」


 ここのメイド達の動きが霞んで見えてしまうほど、とはさすがに言わなかった。


「ヴィンセント家のメイド長、ジゼルといえばメイド界の生ける伝説だ。ほとんどの家のメイド長は彼女の教え子らしい。うちのメイド長がそう言っていた」


「生ける伝説! めっちゃすごい人じゃないですか。エミリア知ってた?」


「いえ、ヴィンセント家で働くまでは知りませんでした。ただ、ミネさんやヨネさんがそうおっしゃっていて。お二人もご指導を受けていらっしゃったそうなのですが、その働きぶりは素晴らしいですから。本当なんだなと実感したのと同時に、そんな素晴らしい方に教えていただいていたんだなと思ったら、少し誇らしかったです」


 エミリアはそう言って微笑む。その横でミレイア様がニヤリと笑った。


「どうだ、うちで働かないか? そうしたら、今のところの三倍払うぞ」


「え?」


「ちょっとミレイア様! 貴重なヴィンセント家のメイド引き抜かないでくださいよっ」


 慌ててエミリアにしがみつく。すると、ミレイア様がクククっと笑った。


「極悪令嬢は、よほどその子がお気に入りらしい。良い情報だ」


「げっ……」


 しまった。つい反射的に身体が動いてしまった。まずい人に弱み握られたぞ。


 そんな顔をしている私に、隣にいたロゼッタがため息をついた。当のエミリアはというと。


「申し訳ありませんが、お断りさせていただきます。ジゼルさんが働いていたヴィンセント家で働くのが私の夢なんです。今その夢を叶えている最中ですので、どこへも行く気はありません」


「そうか、残念だ。だが、働きたくなったらいつでも声をかけてくれ」


 残念だ、という割には全然悔しがる素振りはない。たぶん、はじめから答えはわかっていたのだろう。


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