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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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思春期あるある

「どんな経験をすれば、その歳でそんなに強くなれるのだろうな」


「度々命の危機に瀕すれば、嫌でも悟りは開きますよ」


「命の危機、か」


「どうかされましたか?」


「いや……」


 ミレイア様が髪をかき揚げながら天を仰ぐ。その目は遠い何かを手繰っているようだ。


「私には六人の子どもがいるんだ。一番上は君と同じ十五の息子。長女は夫に似たのか武術が好きでな。今練習している。だが息子はあまり好きではないらしい」


「息子さんが、ですか」


「ノアというんだが、あの子は優しすぎる。争い事が嫌いなんだ。だから、夫との剣術の訓練も嫌がるようになり、今では山小屋に引きこもって植物ばかりを相手にしている」


「植物がお好きなんですね。好きな事があって良いことじゃないですか」


「まさか。全然良くないさ。ダルクール家は代々武術に長けた一族だ。亡き義父も夫も、勇猛な戦士と呼ばれるほど武術に長けている。それなのに、その後継ぎが武術嫌いとは。夫もついに我慢の限界がきて、親子二人で大ゲンカ。それを機にノアは家出したまま今日まで帰ってきていない。はあ……母親として頭が痛いよ」


「思春期あるあるみたいな話ですね。親と子の思いがぶつかり合う、みたいな。まあ、同年代の私といたしましては、ノア様の気持ちもわからなくもないのですが。親であるマルセル様やミレイア様のお気持ちも理解できないことはありません」


「ほう。達観したような物言いをするんだな」


「親の意見を押し付けられるのは、子どもにとって苦痛です。それが自分のことを思ってのことだとしても。子どもは親の操り人形ではないからです。彼らは彼らなりに色々と考えている。それを聞かずにただ抑圧するのは反発を生むだけです」


「言ってくれるな。それはつまり、我々が悪いということか?」


「そうではありません。ただ、もう少しノア様の話を聞いてあげてみてはいかがでしょうか? レンスにいた時私を診てくれていた医師の方も、娘さんの騎士になりたいという夢を反対していらっしゃいました。ですが、改めてきちんと話し合い、彼女の熱い想いに触れ、それを許したのです。彼女には自由に生きてほしいと。私はただそういう事例もあると伝えたかっただけです」


「ノアの想い、か。聞いたところで私達に話してくれるとは思えないが」


「ではお聞きしますが、ミレイア様はノア様にどのように生きてほしいのですか?」


「ノアに?」


 問われて私は頷く。すると、ミレイア様はしばらく顎に手を当てて考え始めた。


 ロゼッタとエミリアはただ黙って事の成り行きを見守っている。そして、私がコーヒーをすすり終わった頃、ミレイア様がやっと口を開いた。


「お前に、抑圧するなと言われた時、真っ先に頭に浮かんだのは姉のことだった。姉は家庭教師になって子ども達に勉学を教えたがっていたのに、父にロイヤー子爵との婚姻を無理矢理押し付けられ泣く泣く諦めた。もしかしたら、今の私達はその時の父と同じようなことをしようとしているのかもな」


「それは私にはわかりかねます。すべてはノア様がどう思っていらっしゃるかです」


「私は、自分の子ども達には自由に生きてほしいと思っている。ただ、夫の気持ちもわかるんだ。夫は早くに父を亡くし、若くしてダルクール家の当主となった。それがどんなに大変なことだったか、私は知っている。だから夫は、自分の息子にはそんな苦労をかけさせたくなくて、早く一人前の跡取りとして育てたいんだと思う。今はその想いが空回りしているのかもな」


「親の心子知らず、というやつですね。私はノア様から直接話を聞いたわけではないのでなんとも言えませんが、案外お互いにすれ違っているだけなのかもしれませんよ」


「そうだといいがな」


 ミレイア様は肩の力を抜いてフッと笑う。その顔は母親のそれのようだと思った。

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