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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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孤児院の総意

 ミレイア様の鋭い視線がエミリアに注がれる。


「お前には聞いていないんだが」


「アンジェリーク様、この取引はお断りすべきです」


「でも、孤児院が……」


「雨風が凌げる建物があり、魔物に襲われる心配もなく、ココットさんの善意で食事まで三食いただけている。今の現状に私達は不自由などしておりません。ですから、孤児院は急ぐ必要もありません。これは、院長であるジゼルさんや子ども達の総意です」


「おかしな奴だな。お前もその孤児院の出身なのだろう? 家族同然の子ども達に新しく住む場所を提供してやりたいとは思わないのか」


「思いますよ。ですが、それよりも私達は、これ以上アンジェリーク様に傷付いてほしくはないのです」


「私に?」


「ええ。今回の山火事の件でアンジェリーク様が生死を彷徨うほどの大怪我を負った際、子ども達はとても深く傷付きました。もしかしたら、こうなってしまったのは自分達のせいではないかと。ですから、私達のせいで再びアンジェリーク様が危険に晒されるような事だけは避けていただきたいのです。我々は、あなた様の足枷にはなりたくありません」


「エミリア……」


 さっきまで紅茶の飲み方でオロオロしていた彼女が、今は背筋をピンと伸ばし、貴族相手に堂々と意見を述べている。それはつまり、それだけ真剣だということ。


 だが、ミレイア様だって負けていない。


「お前達がアンジェリークを大切に想うように、私も姉を大切に想っている。これは私とアンジェリークの取引だ。悪いが傍観者は口を挟むな」


「嫌です。取引材料になった時点で、私にも発言権はあるはずですから」


「ほう。よほど私の不興を買いたいようだな。それなら容赦はしないぞ」


 ミレイア様の目がさらに鋭くなった。


 いや、ちょっと待って。これはマズイ状態だ。ミレイア様をエミリアの味方につけるという思惑でお茶会に参加したのに、逆に二人の仲が拗れてどうすんの。これじゃあ、エミリアを守ってもらうどころか、いじめる側に回られそうじゃん。それは絶対にダメ!


 ロゼッタを一瞥する。すると、彼女は肩をすくませていた。あなた様のお好きにどうぞ、と。


「はい、ストーップ!」


 大きな声でそう叫ぶ。すると、ミレイア様とエミリアが『え?』と声を揃えた。


「ミレイア様、うちの使用人がご無礼を働き、誠に申し訳ありませんでした」


「ア、アンジェリーク様が謝ることでは……っ」


「エミリア、いいからお静かに」


 ロゼッタが冷静にたしなめる。すると、エミリアは黙ってしまった。


「ですが、彼女も悪気があって言ったわけではありません。すべては、危険に飛び込んで怪我ばかりするこの私を想ってのこと。ですから、すべての責任は私にあります。どうぞお許しください」


「君の謝罪はいらない。欲しいのは取引の成功だ」


「申し訳ありませんが、現段階ではお断りさせていただきます」


「なに?」


「私は今、自身を襲った常闇のドラゴンという盗賊団を一掃しようと動き出したばかりです。この盗賊は恐らくロイヤー子爵と繋がっています。ですから、お父様やマルセル様とも慎重に動くよう話し合ったばかりなのです」


「マルセルと?」


「はい。ですから、今ここで私がミレイア様との取引に応じてしまうと、お二人どころか殿下達まで危険に晒しかねません。それはミレイア様も本意ではないと思われますが、いかがでしょうか?」


「それは……そうだな。私も夫には迷惑をかけたくない」


「そうでしたら、一旦この話は保留にさせていただけませんか? 常闇のドラゴンとの決着が無事つきましたら、私は喜んでミレイア様との取引に応じましょう。上手くいけば、常闇のドラゴンを匿っているロイヤー子爵にダメージを与えることができるかもしれませんし」


「なるほど」


 ミレイア様は顎に手を当てて考え込む。しばらくして、彼女は深いため息をついた。


「わかった、一旦保留ということにしておこう」


「ありがとうございます、ミレイア様」


「いや、これは取引材料を見誤った私の負けだ。まあ、そのぶん収穫もあったがね」


 そう言って、ミレイア様はエミリアを見て微笑んだ。


 うわ、マズイ。また弱み握られた。


 さすが商人の娘。ものの価値を見抜く目は親譲りらしかった。


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