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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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取引

「姉は美人で控えめな性格でな。そのせいで昔からよくモテた。それは貴族になってからますます磨きがかかり、ついにロイヤー子爵の目に止まり結婚。父は後ろ盾ができたと大喜びだったが、子爵は大の女好きで。外に女をいくつも囲っている。平民出の姉にも高圧的な態度で怒鳴り散らすこともざららしい。夫としては最低な男だ。姉もよく泣いている。とても幸せだとは思えない」


「ちょ、ちょっと待ってください。お姉様のお話をされるのは構わないのですが、初めて会う私に話すには内容が少し深過ぎやしませんか?」


 これじゃあまるで、公的機関で行われてるお悩み相談みたいじゃないか。


 戸惑う私に、ミレイア様は含みのある笑みを向けた。


「力を貸してくれないか? 姉を助けるために」


「は? すみません、おっしゃっている意味がよくわからないのですが……」


「君は、ヤニスとロイヤー子爵に対して強い遺恨がある。姉は、父のことがあり離婚ができない。そんな姉を救うには、ロイヤー子爵から爵位を剥奪し、離婚致し方なしと思わせるくらいの強引さが必要だ。それを君にやってもらいたい」


 一瞬、場がシンと静まり返る。自分の唾を飲み込む音が妙に大きく聞こえた。


「は、ははっ……ミレイア様も意地が悪いですね。そんなご冗談をお茶会中におっしゃるなんて。せっかくの紅茶が不味くなってしまいますよ」


「冗談じゃないと言ったら?」


 紅茶に伸びた手が止まる。ミレイア様の目は本気だった。


 この人は冗談を言っていない。本気でお姉さんのためにロイヤー子爵をどうにかする気だ。そのためなら、他人を巻き込むことも厭わない。そんな覚悟を感じる。


 ダメだ。気を抜いたら飲み込まれる。


「お断りします。先ほども申し上げましたが、会ったこともない人のために動くほど私はお人好しではありません。確かにお姉様のご事情には同情致しますが、私には関係ないことですから」


 あえて冷たく突き放す。少しでも隙を見せればそこから攻められかねない。たぶん、ロゼッタもそう思ったのだろう。警戒の色を強めて相手を牽制する。


「アンジェリーク様は、今カルツィオーネに出没する盗賊団の一掃に向けて決意を新たにされたばかりです。申し訳ありませんが、とても他のことにまで手が回りません。お姉様をお助けしたいのでしたら、どうぞご自身のお力でお願い致します」


「ひどいことを言うな。それができていたら、私だって十五の小娘にこんなことは頼まない。無理は承知だ。その代わり、タダでとは言わない」


 そこまで言って、ミレイア様はその妖艶な顔に意地の悪い笑みを浮かべた。


「もし君が私のお願いを聞いてくれたら、先日の山火事で燃えてしまったカルツィオーネの孤児院、その建て直しの費用を父に頼んで全額寄付しよう」


「なっ……」


「君が命を張るほど大切にしている孤児院だそうじゃないか。使用人達に聞けば、ヴィンセント家のメイド達が寄付を募っているらしいがなかなか集まっていないらしい。街の被害は甚大。優先順位もさぞ低いことだろう。子ども達も、住む家が無くなってさぞ悲しい思いをしているんじゃないのか」


「それはっ……つまり、取引、ということですか?」


「そうともいうな。さあ、どうする?」


 しまった。完全に弱みを握られてる。


 正直、今子ども達はヴィンセント家の敷地内にいるとはいえ、屋敷の中で暮らしているわけではない。元は武器なんかを保管しておくための倉庫だったような狭くてボロい場所で雑魚寝している状態。とても子ども達の住む環境として適しているとは言えない。


 だからといって引き受けてしまったら、ミレイア様の口振りだと領地同士の争いに発展しかねない。ただでさえ、それを避けるために常闇のドラゴンの件は慎重に動くと決めたばかりなのに。


 ロゼッタを一瞥する。すると、彼女は首を横に振った。ここは乗るべきではない、と。


 そう、それはわかっている。どう考えたって割に合わない。孤児院は我慢すればいずれ建つ。ここで無理して引き受けてしまったら、下手をすればお父様にご迷惑がかかりかねない。


 でも、でも……っ。


 子ども達の屈託ない笑顔が脳裏に蘇る。やっぱり、私はあの子達を放ってはおけない。そう思い、口を開けかけたその時。


「お断りします」


 そう答えたのは、私ではなくエミリアだった。

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