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ただのモブキャラだった私が、自作小説の完結を目指していたら、気付けば極悪令嬢と呼ばれるようになっていました  作者: 渡辺純々
第四章 植物博士と極悪令嬢

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ロゼッタの忠義

「どうした?」


「女性が突然飛び出してきて……っ」


 ニール様の問いに御者が慌てた様子で答える。咄嗟に窓を見ると、殿下達を乗せた馬車の前に二人の女性が立っていた。一人は眼鏡をかけたおさげ髪、もう一人は肩くらいまでの髪で息苦しそうに胸を押さえている。


「いったい何が……」


 そう呟いた瞬間、森から男達がゾロゾロと現れた。その風貌と見た目から判断して、たぶん盗賊。


「女性が盗賊に襲われてる」


「なに?」


 ニール様も窓の外を覗く。そして、私が言った通りだと認識すると、扉を開けて馬車を出た。


「殿下達が危険だ。お前達はここで待ってろ」


 そう言い残し前の馬車へと向かう。私は言われた通り中で待っていた。そんな私をロゼッタがじっと見つめる。


「アンジェリーク様は行かれないのですか?」


「だって、待ってろって言われたもん」


「それはそうですが。いつものあなた様なら、そんなの無視して助けに行かれるような気がしたものですから」


「私そんなに良い人じゃないし。あっちにはお父様もいるしギャレット様もいる。殿下達助けるついでに、あの人達も助けるでしょ。私の出る幕じゃないわ」


「その割には、行きたい、と顔に書いてありますが」


「……そんなことないもん」


「私の目を見て言ってみてください」


 ロゼッタが私の顔を掴んで、無理矢理彼女の方を向かせる。思わず「んげっ」と呻いてしまった。


 目が合うと、本当はどうしたいのか言え、と無言で迫られる。それでも言いたくなくて、私は目を逸らした。そんな私を見て、ロゼッタがため息をつく。


「私に隠し事はしないのではなかったのですか」


「それは……」


「今何を考えていらっしゃるのか、それだけでも教えてください。でなければ、私のいる意味がありません」


 ロゼッタの目は真剣だった。いや、ちょっと怒っているのかもしれない。どうして言わないのかと。これはたぶん、言うまで解放してくれない気がする。


 そう感じとり、私は観念して口を開いた。


「今回の一件でわかったのよ。私が無茶する度ロゼッタがどんな気持ちだったか、どんな怖い思いをしていたか。それ知っちゃうとさ、つい考えちゃうんだよね。今ここで私が飛び出したら、ロゼッタはどう思うんだろうって。私が大人しくしてた方が、ロゼッタも安心するんじゃないかなって。だからここでじっと待ってるの」


 正直に思っていることを述べる。ロゼッタは驚いていた。


 ジルとルイーズを助けに行こうとしてエミリアがついてきた時、心の底から怖かった。この子を失ってしまったら、すべてが台無しになる。私の生きている意味がなくなる。本気でそう思った。


 だから思い知ったのだ。私が無茶する度ロゼッタはいつもこんな辛い思いしてたんだって。それを知ってしまうと、どうしても一歩踏み出すのを躊躇ってしまう。またロゼッタに辛い思いさせちゃうんじゃないかと。


 静かになった馬車の中とは裏腹に、外がにわかにうるさくなる。ロゼッタはというと、私の縦ロールの髪に手を伸ばしていた。


「まさか、あなた様がそのようなことをお考えになられているとは思ってもみませんでした。私のことをそこまで思っていらっしゃったなんて」


「だろうね」


「ありがとうございます、素直に嬉しいです。ですが、私のことを思うのでしたら、どうぞあなた様の心の赴くままに、ご自由に行動なさってください」


「え、いいの? だって、それじゃあ……」


「確かに、あなた様が無茶をする度に心配や恐怖と闘わねばならず、辛いこともございますが。それよりもっと辛いことがあることを私は知っています」


「それは何?」


「私のせいであなた様から笑顔を奪ってしまうことです。この方が一番辛い」


「ロゼッタ……」


「ですからどうか、あなた様が笑顔でいられる方をお取りください。ご自身の好きなように、ご自由に生きてください。その方があなた様は楽しそうです。そんなあなた様を見ていると、私まで幸せになってくる」


「ほんとに?」


「ええ。あなた様の笑顔と幸せをお守りする。そのために忠誠を誓ったのですから。どうか、私のその忠義を無駄にしないでください」


 そう言って、ロゼッタは私の手の甲に口づける。それを見て、それまで静かに見守っていたエミリアが「きゃあっ」と感嘆の声をあげた。


 どうしてロゼッタは、いつも私を安心させるのが上手いんだろう。こうやっていとも簡単に私の不安を取り除いて、私が笑えるようにしてくれる。私が元気になる魔法をかけてくれる。これが彼女の忠義だというのなら、忠誠を誓われるのも悪くない。そんなことまで思ってしまうほど。


「今言ったこと、後悔すんじゃないわよ」


「後悔させないようにするのが、主人であるあなた様の責務です」


「もう、ああ言えばこう言うんだから」


 そう言って、私は扉のノブに手をかける。私の顔は笑っていた。


「エミリアはここで待ってて。もし怪我人が出た時、迅速に治療できるのはあなたしかいないんだから。あなたに怪我されたら困る」


「わかりました。ここでお二人の無事を祈っています」


「ありがとう。じゃあロゼッタ、行くわよ」


「はい」


 そう言って、私とロゼッタは馬車から降りた。


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